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神去なあなあ日常

ファイル 233-1.jpg著者 三浦しをん
徳間文庫

高校を出たら、まあ適当にフリーターで食っていこうと思っていた、平野勇気。卒業式を終えたら、担任から就職先を決めたと告げられ、行き先は三重県の山の中、林業の現場だった。
山仕事の天才ヨキや、広大な山林の地主清一や、美女直紀など、都会では出会うことのない人々に囲まれて、成長していく勇気くんであります。

と、話はそんなようなことですが、森林を守ることとは実に大変な作業です。かつては当たり前に行われたであろう事事を今につないで作業して行かなくては、森林として育たないのであり。
そんな中では、山の神様だか女神さまだかが出現しても不思議はないかもしれず。神隠しとてありえなくもないかもしれず。

たまたま、自宅から車で30分足らずの場所にあるちょっとした坂上の無人の家・庭を管理する身となってから、大きな樹木に惹かれるという個人的事情がありまして、ストーリーよりはそこに描かれるまさに日常に、ささやかな共感を覚えたりするのであります。私はまだヒルやダニに出会ってはいないけれど、蛇やムカデやヤスデさんにはよくお目にかかる。私は高所恐怖症で脚立の類は好まなかったが、梅の大木のためには、そこそこ大きな脚立に登って高枝バサミで実をちぎる。いや、杉や檜の枝打ちの話と比べ物にはなりませぬが。チェーンソーの目立て?教わりたい。
あー、その家に住んでいた伯母が、どこそこには仏像(だかなんだか)が埋まっていて近づいてはいけなかったのに掘り返して作業した人達が次々病の床に着いたとか、タヌキさんに騙されたとか、いろんな話をしてたのになあ、まともに聞かなかったなあ、惜しいことしたなあ・・・。

都会育ちの林業見習いが短期間にそんなに成長するのか?そこを見抜いた担任だったのか?まあ細かいことは許しましょう。続編“神去なあなあ夜話”読みたい私です。

BOOK
comment(2) 2012.12.16 13:15

桃色東京塔

ファイル 232-1.jpg著者 柴田よしき
文春文庫

捜査中に容疑者を死なせてしまい、出世の道を閉ざされた警視庁捜査一課の刑事・黒田岳彦、そして過疎の村にあって県警捜査課係長の小倉日菜子は、検問中に暴走する車にはねられて夫を亡くしている。
ある事件の捜査を通じて知り合った二人。
少しずつ恋愛になるようなならないような微妙さで、東京で、あるいはどうやら茨城の限界集落であるらしいどこかで、事件が起こる、互いを知っていく。
それぞれのバックグラウンド、東京近郊のベッドタウンで故郷というほどのものを持たずに育った男、過疎の村で育ち、そこで勤務している女、事件を起こした人間にもそれぞれに背景があり。

帯に遠距離恋愛警察小説とあって、それに違いはないのだが、丁寧な、細やかな、視点、描き方が、私にはやはり好ましい。

まあそんなにいわゆるハッピーエンドな恋愛とは行かないのが、今までジェンダーの問題などを小説の中に取り上げてきた柴田よしきらしいところで。

東京の刑事さんはスニーカーを履いているのか?と問うシーンがあったのは、あれは合田刑事のことだよね、高村薫の。

ピンクリボンデー(乳癌撲滅の)には東京タワーがピンクにライトアップされるんだって。そういうタイトル。

BOOK
comment(0) 2012.11.28 18:27

三匹のおっさん

ファイル 231-1.jpg著者 有川浩
文春文庫

還暦を迎えて退職、再就職先はゲームセンター・・・と言わずアミューズメントパークであり、剣道の道場持ちのおっさん1→清一、赤提灯『酔いどれ鯨』の前店主で柔道歴が長いおっさん2→重雄、小さな工場をやっていて、実はスタンガンその他身に付けているおっさん3→規夫、が、その三匹である。
還暦の祝いに今どき赤いちゃんちゃんこ・赤い帽子のセットを送って気が利いてるつもりの嫁なんぞのお相手をしなきゃならないわけね、大変だ。

さて、その三匹が私設町内見回り隊を結成、小さな町内にも実は犯罪は隠れているのですな。痴漢(というよりはもっとひどいが)、カツアゲ、詐欺、動物虐待、表立つことなく撃退していく。表立ったら困るのだ、三人の中で一番細っこい規夫が普段からどんな道具を身につけて生活しているかバレちゃあ大変。

キヨの孫・祐希やノリの娘・早苗や、周りの人間たちの生き方にも次第に影響を及ぼすことになっていく。あ、その前におっさんのファッションに多大な改良が。

実はつい先日そのカンレキ別名華甲を迎えたワタクシに、義妹がプレゼントしてくれたのは、朱色と柿茶色をブレンドしたような、いい秋色のロングベストでした。

続編『三匹のおっさんふたたび』も、とっくに出ている。読みますよ、そりゃ。
あ、ただ、剣道5段の父と6段の弟を持つ身としては、剣道がそうそう実戦に役立つとは思えまへんな。

BOOK
comment(0) 2012.11.25 13:57

ロード&ゴー

ファイル 230-1.jpg著者 日明恩
双葉文庫

たちもりめぐみ と、うぶかたとう はいつも書店でその名を見かけると頭の中でつぶやいてしまう。間違っていないよね?と自分に問いかけると申しますか。

救急車のお話。救急車出動、帰りに口から血を流して倒れる男を目撃、収容した途端、その男に救急車ジャックされ。
救急車を運転している生田は元暴走族、同乗しているのは救急救命士の森栄利子、隊長筒井。
子供が泣き出すご面相の生田が、実は誠にカッコいい!脇役たちも例えば生田の妻、こわもての消防隊員、いい!
救急車に外から指示する男がいる、ジャックした男はその指示者に脅されているのだという。止まると遠隔操作で救急車を爆破すると。

受け入れてくれる病院がなくてたらい回しにされ、挙句に手遅れになる、という類の新聞記事などを目にすることがある。逆に、救急車をタクシー代わりに使う不届きな人の話もある。

救急医療に関わる様々な問題。

無線を傍受している女の子。犯人からの電話をいたずらだと思って無視してしまった放送局員。

一気に読み進んだ。いずれ映画化されるだろう。非常に映像的、例えばあの「スピード」を文字で追いかけているような作品であり、且つ、直接には無関係な人間の人生にも深く影響する部分も描かれ、面白い。

「鎮火報」「埋み火」という日明恩の消防シリーズの、スピンオフ作品。再度読み返してみたい(見事忘れ去っているので・・・)。

BOOK
comment(0) 2012.10.16 12:37

蒼林堂古書店へようこそ

ファイル 226-1.jpg著者 乾くるみ
徳間文庫

ライトミステリー界では古書店ものが流行り?

ビブリア古書堂と違って、こちら蒼林堂はミステリー専門。店主は書評家でもある林雅賀、百円以上の売買をすると珈琲サービスがあるこの店の常連、バツイチの大村龍雄・高校生柴田五葉・小学校(美人)教師茅原しのぶ、途中から加わる木梨潤一が、ちょっとした日常の謎(北村薫の円紫さんでおなじみの)の謎解きを楽しむ。といっても大概の謎は店主によって解かれるが。

ま、そこでの話はささやかな謎解き。大学のミステリー研究会のメンバーってこんな話をしているのかな?ようそんなたくさんの小説をご存知で。各章の終りには、林雅賀名義で「本とも」掲載とする書評?書物案内?があって、例えばヒッチコック映画の原作、そしてヒッチコックの影響を受けて書かれたミステリー、などが紹介される。そこが面白い。近所のツタヤでお薦め本になっていたのも頷ける。次これ読んでみたい、とつい思うもの。

で、最後あたりには、茅原しのぶサンの行動を注意深く観察していた人にはわかるか?わからないと思うよ、ひとつ謎解きされます。

昔から同じミステリーを何度でも読める私だった、しばらくたつとコロっと忘れるから。さすがに“Yの悲劇”はなんとなく覚えているが、“Xの悲劇”って?というほどのひどさである。読み返したいものもたくさん出てきたが、私がまず次に読んでみたいのは、戸板康二著・中村雅楽探偵全集5『松風の記憶』創元推理文庫かな。

で、乾くるみサンを読んだのは初めてなのだが、林四兄弟ものというのがあるそうで、雅賀サンは次男だって。マサカさんではない、マサヨシさん。
マサヨシさんは元文部省勤務で、副業を持つことを禁じている公務員としては不都合なこともあって、やめちゃった、ことになっている。
元文部省で、ピンク映画(懐かしの死語)中心に映画評していた、ゆとり教育の方、映画評、映画本は副業では?連想してしまった。

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comment(0) 2012.08.21 09:07

レッドデータガール はじめてのお使い

ファイル 225-1.jpg著者 荻原規子
角川文庫

小野不由美、上橋菜穂子と並んで日本女流ファンタジー作家3羽鴉と、誰だか言ったらしい。小野不由美、上橋菜穂子は大好きな作家なのだが荻原さんの『空色勾玉』には心動かされず、勾玉三部もその後読んでいなかった。
ちょっと軽い読み物を、という気分で探しているときに出会ったこれ。

レッドデータブックを知らない方、http://www.biodic.go.jp/rdb/rdb_f.htmlをどうぞ。まあ絶滅危惧種を集めたものですね。
で、主人公は絶滅危惧ガールである泉水子(いずみこ)。世界遺産である熊野古道、玉倉山の玉倉神社育ち。中学三年まで山の麓の中学校と家の往復だけの生活を送るが・・・。
腰までの長い三つ編み、現代の、普通の、とろい女の子。が、なぜ絶滅危惧種であるか?

東京への修学旅行中に、姫神憑き!になり・・・。目覚めて何も覚えていない。姫神って何?そもそも、基本的には警視庁勤めである母に、それはついているものであるらしい。そして事件。

幼馴染の生意気な男の子、深行は、山伏の修行をしていたり。
一巻はなんとも消化不良に終わる。

第二巻“はじめてのお化粧”は東京の鳳城学園に進学してからのお話だが、ここには陰陽師の末裔がいたり。

アニメ化企画進行中!と帯にあるが、いかにもだなあ、と思われる。
でもね、なんというか、とても、現実の政治の世界を思わせる世界なのですよ。簡単に読めますが、そうピンクの綿菓子のようなものではありません。
どうやら大長編になりそう。第三巻も文庫化されたようなので、探してみましょう。

BOOK
comment(0) 2012.08.18 13:32

上野先生、勝手に死なれちゃ困ります

ファイル 221-1.jpg著者 上野千鶴子 古市憲寿
光文社新書

atconさんが古市憲寿の著書を紹介しているので、そうだ同じ名前だ、と今気づいた…という次第。僕らの介護不安に答えてください、と副題がついた対談。
上野千鶴子先生は、ジェンダーという言葉に関心がある人なら知っているでしょう、東大の先生。2011年に大学院教授を退職、今は名誉教授とのこと。団塊世代の上野千鶴子と、1985年生まれ、東大大学院総合文化研究博士課程在籍中、社会学専攻の古市憲寿。

現在、認知症の母を一人で介護している私には、この本の初めのあたりは昔の話過ぎて、えーと、もういいんだけど、と思う内容。親が老いて親子の関係が変化することへの不安についての話から始まる。

以下、抜き書き。

 お金に関していえば、今は介護保険のおかげで本当によくなりました。介護保険事業は中産階級にとって、まさに福音だったの。

 介護保険は、足りないようにできている。

 介護のために仕事を辞めるのは絶対にダメ。

 介護保険スタート時に、当時の自民党政調会長の亀井静香が、「古賀親を看る美風というものがある」って言って、介護保険1号被保険者の保険料徴収を半年間遅らせたのは知ってるでしょう。

 百姓というのは、百(くさぐさ)の姓(かばね)のこと。一年間の気候とか時期に合わせて、自分の仕事をコントロールする事業主のことを言う、と。

 自分の仕事をシングルインカムソースに依存しない。(中略)一人でもいいし、複数でもいいからマルチプルインカムで小銭をかき集めて暮らす。これを持ち寄り家計という。

 90年代から2000年にかけて、10年の間に矢継ぎ早に拡大した非正規雇用の規制緩和を許したのは、正解と財界、労働組合の共犯よね。(中略)ひとつは若者が投票にいかなかったことによって現状維持に暗黙の支持を与えた。二つ目には、彼らが実際に小泉に投票した。

 シングルマザー支援、特に婚外子支援をやらない限り、日本の少子化対策が本気だとは決して思わない。

 あんた社畜になりたかったの?って聞きたいわね。

 雇用形態が、「女性」と「若者」で似てきているということですよね。

 介護保険を作る大きな推進力となったのは、「介護の社会化を進める一万人市民委員会」だった。(中略)「高齢社会をよくする女性の会」が、家族介護の担い手の女性たちの声を代弁した。そして連合の男たちが一生懸命になった。なぜなら、中産階級の家族介護の負担軽減は、彼らにとっても緊急の課題だった。自分の親の介護を女房にやらせる際に、女房の不満を減らすことができるから。

 日本位のスケールの国家で国民強制加入の介護保険が成立したってことは奇跡に近いし、希望だと思っている。

長い引用になりました。誰でもいずれ(長生きすれば)訪れる老後をどう生きるか、ひとつのヒントにいかがですか?介護保険はかつての仕送りであり、仕送りしてくれる子供がいない場合は悲惨だった とか、老後にソフトランディングする とか、引用したい言葉はまだ沢山。

BOOK
comment(2) 2012.07.11 10:16

天地明察

ファイル 219-1.jpg著者 冲方丁
角川文庫

まことに面白い、さすが第7回本屋大賞、なのだが、カケラもわかりましねえ・・・“おまえの数学は算数以下の算術以下の忍術だ”という中学二年のおりの担任の言葉がまたよみがえる。が、算術は決して算数以下のものなどではないことだけはよーくわかりましただよ。

江戸時代、徳川4代将軍家綱の世、新しい暦をつくりあげるというプロジェクトの中心で動く青年渋川春海の物語。実際の時間とわずかにずれている暦を800年使ってきたため、そのズレが大きくなってきたのだ。月食とか日食とかの予測も大きくずれてしまった。…暦デソンナコトノヨソクモナリタッテイタノカ、ぐらい無知なる私である。情けない。

囲碁の名門に生まれ、算術の面白さにはまり込み、道端でも命題に取り組み時を忘れる青年。関孝和という名前も出てくる、和算という言葉とつながる記憶があるなあ、和算というもののレベルはずいぶん高いものだったのね、今更だけど。

北極出地って聞いたことある?『おのおのの土地の緯度は、その土地にて見える北極星の高さに等しいのです。ゆえに緯度とその計測を北極出地と称します』だって。計測する方法も出てくるけど、ごめんね理解不能。

で、もう一回読み直している最中でありますが、理解はできなくても面白いので。
あんりゃ、渋川晴海って実在の人物、この小説は事実であったのか・・・http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B8%8B%E5%B7%9D%E6%98%A5%E6%B5%B7

BOOK
comment(2) 2012.06.20 22:54

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