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チャイルド44

ファイル 108-1.jpg著者 トム・ロブ・スミス
訳 田口俊樹
新潮文庫

 帯の“このミステリーがすごい!”第1位にに惹かれたのと、なにかで評判を聞いたな、という記憶によって買いました。読み始めました・・・。
 スターリン時代のソ連ウクライナのある地方が極限までの飢餓に襲われている、鼠まで食べつくし、生き残っていた猫を捕まえるために兄弟が追いかける。もちろん食料とするために。ところがその猫を追いかけた少年を、捕獲した大人がいたのだ、食料とするために。

 出だしのあまりの状況に、しばし読み休んでしまいました。が、しかし。

 理想郷であるはずの共産国家ソ連では、犯罪など起こらないことになっているのです。飢餓なんてことも無い。
 その国にあるのはスパイという犯罪。国家保安省の捜査官レオが、あるスパイ容疑者を捕まえるが、同僚のわなにはまって地方に飛ばされる。そこで、かつて訴えを退けた事件と酷似した殺人事件に遭遇し・・・。

 いやあ、面白かった!上巻途中まで読み進むのに時間がかかったのがあーもったいなかった(で、個人名とか忘れちゃって気付かなかった!のが)、もう後半バリバリ読み進みましたよ。
 ストーリーの展開もすごい、けれど、その社会の在り方、たとえば現在だと北朝鮮に代表される閉じられた社会、解放改革と言えど情報操作されていろいろな問題が起こっている中国、そして今のロシアでこの小説は出版され得ない、という現実、
アーこんな風に・・・太平洋戦争時の日本でもそんな事だったわけだけど、いろいろと思い起こされる異常な国家統制、そしてそういう社会の中で生きる人物の造形、さまざまなことが、いやいやすごい。

 で、幸か不幸かこの小説の初めの部分でしばし時間をおいたために失念していたことがあった私には、犯人が!!!でありました。

 これは80年代に実在した大量殺人事件を元に50年代に時代を置き換えたお話だそうで、元のチカチーロ事件はノンフィクションや小説やドラマに描かれているそうです。
 

BOOK
comment(0) 2009.01.26 10:03

青銅の悲劇 瀕死の王

ファイル 106-1.gif著者 笠井潔
出版社 講談社

 (昭和)天皇の病状悪化のニュースが伝えられる頃の設定。東京郊外の旧家、鷹見澤家で次々起こる事件のことで相談された探偵小説家宗像冬樹。冬至の日、トリカブト毒を用いた殺人未遂事件が起こり・・・。
 矢吹駆シリーズ日本編待望の第一作、と帯に書いてあって、厚ぼったい本なのだけどつい買ってしまった。
 
 私は日本の本格推理小説はさほど好きではない。が、笠井潔の矢吹駆だけは贔屓の探偵さんなのであり、現象学とかさっぱり理解できないツールを使われ、よくわからないことがなにかとありつつ追いかけているのである。が、この話では矢吹駆は活躍しない。
 笠井潔本人に関心がある人にはなかなか面白い展開になっている。宗像冬樹の履歴は笠井潔自身をモデルとして描かれている。だから笠井潔の探偵物、伝奇物などを読んでいてどうも笠井潔という人が気になる私には、へー、そーだったのか、的面白さが満載である。

 が、じゃあこれってミステリーとしてよく出来てるのか?というと、なんだかご都合主義だなあ。まあ日本製の本格推理を読むと大概そんな気になるからあまり読まないんだけど。

 最低限、エラリー・クイーンの『Yの悲劇』を読んでいないと楽しめない作りになっている。それ以外にもヴァン・ダインとか、海外の本格推理小説について基本的な知識があるほうがいい。なにかの小説の引用であるらしい登場人物たちの会話が出てくるのだが、たぶん中井英夫あたりの作品?

 で、結局この作品は、これで完結していない。“わたしは日本に帰ってきた、矢吹駆を殺すために N・Mの日記から”って思わせぶりな前ふりは何?もーう、こーんな厚い本読む暇はないのに何とか読み上げたらプロローグだって。また次読まなきゃならないんじゃない。しかも、私は知らなかったのさ、『哲学者の密室』のあとに『オイディプス症候群』と『吸血鬼の精神分析』という矢吹駆ものが出ていることを。カッパノベルスでそのオイディプス探しまっさ。
 これだけ突然読んでも、面白くない・・・よね、たぶん。すみませんね、惚れた男ってものは他人にはとんとなんのこっちゃわからなかったりするわけで・・・。

BOOK
comment(0) 2008.12.22 23:01

役に立たない日々

ファイル 105-1.jpg

著者  佐野洋子
出版社 朝日新聞出版

 分厚い本を長い日々かけて読んでるし、積んどいてる本は5.6冊あるし、しばらく本を買わない、つもりだった。
 近所の○タヤで見かけたのよ。この人の本が二冊並んでいて、どっちも私に色目を使ったけど振り切った、けど、風邪ひいても買い物に出なきゃならないし、お茶碗を洗わなきゃならないし、あーやるべきことはほっといてあの本読もう、風邪だから、私は私を甘やかす、と決めましたのさ。

 役に立たない?2003年秋から2008年冬までの日々のエッセイ、まあどこを開いても面白い。まずおいしそう。レバーペーストね、玉ねぎたくさん炒めるなんてカレーの時にもしなくなっちゃったけれど、玉ねぎたくさん炒めて甘みを出してブランデー垂らしたレバーペーストを作ってみたくなった。でその作り方をどんな人から聞いたか、という話なのだ。教えない。興味あったら読んでね。

 「百万回生きた猫」で有名な佐野洋子さんは2度離婚しているそうだが、二度目の結婚・離婚の相手は谷川俊太郎氏だ。『からだ』とか『女に』とか、その時期佐野さんの挿絵で詩集が編まれている。わらいながらできるものだったのね と女がいう一節がそのどこかにあった。とても印象的だったのはそういうパートナーの言葉が詩集にそのまま掬われたのだな、と思ったからで、それって、どんなことだろう、詩人のパートナーであることって、と、ちょっと引っかかったことでもあった。

 そりゃ離婚するわ、と思った。この本を読むと、佐野洋子さんがどんなに生まれながらの詩人谷川俊太郎と異質な人かと思う。そしてそんな二人がある時期惹かれあったのだ。

 そんな話じゃなくて、この本。韓流にはまりまくった話もある。アルツハイマーじゃないかと思って検査に行った話もある。結果、記憶力は抜群だったらしい。でも検査に行った日に編集者と打ち合わせの約束があったことはすっかり忘れていたのだ。いかなる内容の仕事であったかも。
 
 そして。2008年冬、余命2年を宣告されている。それを聞いた帰りに近所のジャガーの代理店に行ってイングリッシュグリーンのジャガーを指さして、それください、と言ってかったのだそうだ。
 あーなんとかっこいい死に向かい方であろう。そしてそのジャガーは買って一週間でぼこぼこになったそうだ。あーなんと素敵な、生き方だろう。
 ただ、ホスピスとか、死ぬまでにかかる費用を自ら医者に聞いたら一千万と返事が戻ってきたそうだ。うーん・・・。
 そんなこんなで私は昨日乳がん子宮がん検診に行ってきました。検診車でおっぱい横からはさむのね、知らなかった。
 

BOOK
comment(2) 2008.12.03 21:58

母が重くてたまらない 墓守娘の嘆き

ファイル 99-1.jpg著者 信田さよ子
出版社 春秋社

 私の年代では親の介護をしている人が多い。私もその1人である。やはり倒れて退院してきたお母さんの世話をしている友人からのメールに、“やっぱり女の子はいいねえ、と母が言う、子供の頃出来のいいほかの兄弟と比べられ、母を好きだと思ったことは無いのに”と、率直な言葉が書いてあった。
 思い出した。20代の初めの頃、母と、本音で語り合うと言うことはあり得ない、親と言葉は通じない、違う言語で生きているのだ、と、あきらめたことを。

 さて、著者は臨床心理士、「私が死んだら墓守りは頼んだよ」と、母親が娘にお言った頃場からサブタイトルが取られている。元気で長生きするようになった母たち、なかなか結婚しなくなった娘たち、娘に経済援助が出来る母たち、いろんな事情に絡み取られて母の愛という名の干渉から逃げられない娘たち・・・逃げろ!と具体的な処方箋を示してくれている本です。世のすべての母たち、娘たちに読んで欲しいと思います。
ある時期までは息子と母親の関係のほうがなんか気持ち悪い気がするけれど、もう一歩年を取って、しかも高学歴だったりする母が、娘に期待する物って・・・。

BOOK
comment(0) 2008.09.04 14:00

時が滲む朝

ファイル 98-1.jpg著者 楊 逸
出版社 文藝春秋

 同じ地区で育ち、優等生だった二人梁浩遠と謝志強が、1988年大学に進学する(まずこの時点で、その当時の中国では成績によって各大学に割り振られるシステムであったらしいことに驚かされる)。若い大学教授、女友達などに影響を受けるうち民主化運動へ、天安門事件へ、と流れていく。その天安門の事件によってではなく、労働者たちとの口論、乱闘の末退学になる二人。
 それぞれ別々の道を歩くことを余儀なくされる人々。
 中国残留孤児の娘で中国に戻って勉強をしていた女性と結婚し、日本に渡った梁浩遠(日本で祖国の民主化運動をしていた人たちの中には北京オリンピック開催反対を唱える人もいたらしい、これまた驚き)。オリンピック開催前夜、梁浩遠と謝志強は日本で再開する。

 日本語を母国語としない女性によって書かれていることで話題になった。中国のこの20年の流れと言うのはものすごい激流である。その大きな流れとそこに生きる人々を実に淡々と描いている。ひとつひとつのエピソードを、別の小説として描き出せるはずである。なんというか、その淡々とした描き方の中に、小説のタネがぎっしり詰まっている。この人にはいくらでも描き出したいことがあるのだろう。

 

BOOK
comment(0) 2008.08.30 10:06

RURIKO

ファイル 94-1.png
著者 林眞理子
出版社角川書店

 浅丘ルリ子さんはすばらしい女優さんだ。
 私は日活映画の中では小林旭の国籍不明荒唐無稽物が好きだ(リアルタイムで見たんじゃないよ、私の時代は日活ニューアクション→にっかつロマンポルノ、その中にも名作があったんだよ)。
 私はミーハーだ。

 だから是非読みたいと思った(ルリ子さんと小林旭は恋人だったらしいと言う程度の知識はあったので)。

 まずは戦前の満州、ルリ子の父と甘粕正彦との交流の話から始まる。満映理事長だった甘粕が、この子を将来女優に、と希望したということになっている。(甘粕について詳しく知りたい方こちらへhttp://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%94%98%E7%B2%95%E6%AD%A3%E5%BD%A6

 戦後、中学生の浅井信子ちゃんはオーディションに合格してその役名と同じ浅丘ルリ子と言う芸名を持つ女優になる。・・・そこからの話が、よくこんなことまで書かせた、と思うのだ。共演した小林旭と恋人だったけれど実は石原裕次郎に片思いしていた、とか。そのあとの妻子ある監督との恋は、まあ有名な話だろう。ん?これは誰のこと?とか、え?あのTVドラマの!とか、実名もしくはかなり推測できる形でルリ子さんを巡る男たちが出てくる。現在の恋人も。いいのか?
 石坂浩二さんとの結婚は長かったけれど、実質生活した時間は短いようだ。・・・石坂ファンには申し訳ないが、この教養ある薀蓄男が、なーにやらウザッタイ生き物に見えてしまう。
 
 TVで石原裕次郎主演作の映画を見ていて、ルリ子さんは若いときからうまい女優さんだったんだなあ、と思ったことがある。石原裕次郎と言う、その時代には類を見ない存在であっただろうスターさんは、ルリ子さんのようなうまい女優さんを配することで生きていたんだなあと、しみじみ思ったのが去年だか一昨年だかのことだった。

 この表紙の、一番美しかったであろう頃のルリ子さんは(秋山庄太郎撮影)、自身が宝石のようだしたくさん宝石類を持っていて当然だ。が、ガラスの輝きが好きなのだという。そういえばスワロフスキーのビーズをたくさんつないでアクセサリーを作っている話をしていたし、テレビドラマの中でも実際それをつけて出ていた。
 本人が類まれな天性の女優として輝いている人は、それでいいのだ。あの37キロあるかないかの体で、芯の強い、男前な女性。

 この本の帯、私が持っている版には“この小説に一番驚き、一番感動したのは私かもしれません”というルリ子さんの言葉が書いてある。しかし最初に出たものでは“きれいな女はこう生きろ!”となっていたらしい。どう思いますか?

 

BOOK
comment(1) 2008.07.29 08:03

レスリー・チャンの香港

ファイル 91-1.jpg
著者 松岡環
出版社 平凡社

 もしもあの時SARSが流行っていなかったら、もしも中国人スポンサーがそのまま映画制作にかかわっていてくれたら・・・歴史にもしもはあり得ない、けれども、ほんの少し空気が動いただけでレスリーの人生は変わっただろうにと思うのだ。あの年の4月1日の夜にNetにつないだら、彼がホテルから飛び降りて死んだと言うニュースが飛び込んできたのだった。
 
 そのレスリー・チャン張國榮の軌跡と、香港の現代史を重ねて描き出している。目次を紹介すると、2.少年期:中国とイギリスの狭間で 3.ティーン期:イギリスの旗の下に 4.デビュー期:香港文化の誕生 5.開花期:爛熟する香港芸能文化 ~ 9.萎縮期:時代の渦の中に消えた命 といった具合だ。香港映画や香港ポップスが好きな人はもちろん、必ずしも芸能には興味ないけれど香港好き、と言う人に是非お勧めしたい。
 
 私はさほどレスリーファンだったわけではない。トニー・レオン梁朝偉や周潤發のほうが好きだ。けれども中華圏の映画で好きな10本を選べと言われたら『さらば我が愛覇王別姫』と『男たちの挽歌(英雄本色)2』は必ず入るだろう。不世出と言う言葉を使うならトニーだってチョウ・ユンファだって不世出には違いない、そしてレスリーの亜流はいくらでも出るだろう、が、レスリーは、本当に稀有な存在だった。レスリーの歌には興味無かった、が、その死後しばらくは、彼の歌う「月亮代表我的心」がラジオから流れるとウルウルしてしまうのだった。同性愛を犯罪視する中華社会で、パートナー唐唐にささげると言う形でカミングアウトしたも同然だったその歌。

 著者はインド映画や香港映画のライター。NHKFMの番組アジアポップスウインドで、たまにインド映画の紹介をしている。

BOOK
comment(4) 2008.07.06 21:53

犯人に告ぐ

ファイル 89-1.jpg
著者 雫井脩介
出版社 双葉社

 個人の人生にとっては深刻な事情を抱えて、“ワシ”と名のる誘拐犯人を追っていた捜査官巻島が、ミスを犯す。
 数年後、“バッドマン”と名のる者による連続児童誘拐殺人事件が起る。捜査に行き詰っていた神奈川県警は、テレビに捜査官を出演させることにし、左遷というべき部署にいた巻島をその責任者とする。

 現場に復帰した巻島は、かつての“ヤングマン”と言うあだ名とはかけ離れた異端の風貌となっている。・・・という、その長髪の、52歳の警察官として現れるところから、非常に視覚的、映像的な作品となっていく。同僚にどこか精神構造が幼い若きエリート・人情味ある巡査部長・“ワシ”事件投じも部下であった男・おマヌケだが意味なく運がいい(?)部下など、テレビ局側にはメインキャスター・女子アナ・元刑事のコメンテーターなど、いかにもありそうな面々を取り揃え、“バッドマン”との対決、或いは交流が、始まる。

 一気に惹きこまれます。上司の思惑を超えて劇場型犯罪捜査に独自の判断で取り組む巻島、犯人からの手紙、周囲の誤解、アホな某・・・。

 の、割には、解決に至るきっかけとか、ちょっと弱いんじゃないの?という気はする。某を罠にかけるエピソードのほうが勝ってしまったというか。

 誰でも個人の事情を抱えています。捜査官だって、或いは結果的に人を傷つけてしまう人にだって。アホな某すらも。社会人として、個人の事情を抑えて冷静に行動しなければならない、そのときに・・・。
 さて、この神奈川県警メンバーによる別の物語は、書かれないのでしょうか?

 20007年に豊川悦史主演で映画化されていますが、見ていません。http://www.hannin.jp/

BOOK
comment(2) 2008.06.23 09:46

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