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二流小説家

ファイル 218-1.jpg著者 デイヴィッド・ゴードン
出版社 早川書房

ポルノやSFやヴァンパイア小説やミステリーや、様々な筆名(女性名義も)を使って多作して生活している二流小説家ハリーに、チャンスがやってくる。連続殺人鬼ダリアンがハリー(のポルノ)のファンで、告白本の執筆を依頼してきたのだ。

恋人には愛想をつかされ、女子高校生(中坊か?)クレアからはいいように扱われる中、ハリーが刑務所で服役中のダリアンに会いに行き、そして・・・という経過を、初めて本名を使って書くという形になっている。

ところがダリアンは、彼をなぜか信奉するファンの女性を登場させたポルノを書けという。女性にインタヴューするハリー、そしてまた起こる殺人。

間に別名で書いたというヴァンパイア小説やそのほかの作品の一部なるものが出てくるのだが、それ読みたい!という気にさせる。また、ミステリー小説にそこそこ詳しい人なら知っている作家の名前がいろいろ出てきたり、それから私が読み進まないまま我が家の隅でほったらかされているハックスリー『すばらしい新世界』だとか出てきて、そこそこの読書家の方がストーリーと別のところで楽しめる作りになっている。

肝心の・・・ところはどうなの?ちょっと無理があるでしょ、そこ・・・とか、思わないもんでもないのだが、まあ面白い作りです。
割に厚めのこの本を読み終える間に軽く読めるものを2册だったか3冊だったか挟んでしまった私は、プロローグがどんなだったか忘れてしまい、読了後に改めてめくってその(どの?)ちょっとした仕掛けに気づきました。

“このミステリーがすごい”2012年版ほか三冠達成だそうです。

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comment(0) 2012.06.01 12:18

困ってるひと

ファイル 214-1.jpg著者 大野更紗
出版社 ポプラ社

帯に“とにかく読んでほしい”とある。それ以上の言葉は思いつかない。
25歳の若さで、自己免疫系の難病(原因不明)を発病した女性。表紙裏の著者紹介には、一年間の検査期間、9か月の入院治療を経て、今も都内某所で生存中、と。

恐ろしいよ、この現実は。病名、治療法がわからないまま病院をたらい回し、これが最後と決めて自分でインターネットで調べた某大学病院に電話、そしてやっと、治療が始まるのだが。
骨随穿刺、筋電図、麻酔なしの筋生検、そしてステロイドの大量投与、etc,etc。

と、いう事情、経過を、読みながら読者の私はクスクス或いはガハハと笑う・・・そういう文章になっているんですよ、本当です、私が冷血人間なわけではないと思う、思うぞ。それがすごい。生きるか死ぬかの文字通り崖っぷちで生存している人の、笑いを誘う表現力が。

日本の医療制度の矛盾、欠陥、福祉行政の問題、それから、援助とは?と様々な問題を考えさせられる。読み手の私には考えさせられる、ですむが、この著者には、その体を押して向き合い、一つ一つを処理していかなければならないことである。

恋もする。同じく難病の“あの人”と。ものすごく良心的な医師たちの中で生存している彼女だけれど、“あの人”との逢瀬に絡んでつらい言葉を耳にすることもある、その医師や看護師の口から。

絶賛生存中、読んでみませんか?

http://wsary.blogspot.jp/ 大野更紗のブログです。
あ、もともとこの本はウェブマガジン「ポプラビーチ」連載のものだそうです。

BOOK
comment(3) 2012.04.29 14:43

舟を編む

ファイル 213-1.jpg著者 三浦しをん
出版社 光文社

新しい辞書を編もうとする編集者たち。この本の帯には
【辞書編集者】普通の人間。食べて、泣いて、笑って、恋をして。ただ少し人より言葉の海で遊ぶのが好き。
と書いてある。
馬締(マジメ)という名の、まさにその言語の海で正しく目的に合った魚を捕まえる努力を惜しまない男を中心に話が運ぶのだが。

読み始めしばらくのところで、昔、山田詠美のエッセーを立ち読みしたらそこに、行くとか死ぬとかいう言葉が別の状況で使用されることがあるが、イッタ?と聞く人はいるが、死んだ?と聞く人はいない、という趣旨の文章にぶつかり、ツボにはまって笑いをこらえるのに苦労した…ことを思い出したのでありますが。上る(のぼる)と上がるの違いについての辺り、病人のベッド脇でケタケタ笑ってしまい。

“西行”に不死身とか流れ者とかの意味があると知っていた人手を挙げてください。あの、花のもとにて春の西行です。

ところで、242頁に、『泰山鳴動して鼠一匹』という言葉が出てくる。これについて、大山だ、という人と泰山だと思っていた人(私はその一人)派で小さな論争をしたことがあり、その時は大山説が正しいことになった。辞書の編纂の物語の中でそんな間違いはありえないだろうし、と調べでみた。古代ローマの詩人ホラティウスが言ったんだって。その翻訳であり、大山 泰山 太山どれでも間違いではないということだ。

いささかワタクシゴトの多い感想文で失礼!
言葉の海、でなくてもせせらぎぐらいでも遊ぶことが好きなあなた、いかがですか?

BOOK
comment(0) 2012.03.26 21:39

ロング・グッバイのあとで

ファイル 212-1.jpg著者 瞳みのる
出版社 集英社

沢田研二ライブツアー最終日、日本武道館でのザ・タイガース復活コンサートの映像をNHKBSで見た。病に倒れた体で出てきて歌った岸部シローに切ない思い。ピーが、はっちゃけていた。ほとんどは還暦前後であろうオバサマ達が総立ち。私もその場にいたらそうしていただろう。どの歌も知っている。

で、買っちゃいましたよ、ピーが、慶応高校教師人見豊(これでミノルと読む)から瞳みのるに戻って書いた自伝。一冊の本としては、とっ散らかっている。が。
タイガース解散コンサートの夜、内田裕也が開いた送別会の後、その足で京都へ帰り、受験勉強を始めるのだ。睡眠8時間、勉強14時間の生活。洗髪に時間を取られたくないという理由で頭を丸めて。

頑固な、むしろ偏屈な、男だ。

伝説の(と、六本木から遠く離れて生活してきた人間は思う)キャンティの女主人から柴田錬三郎を紹介される。柴田錬三郎が慶応出身だから慶応大学に行ったのかも知れない。どこの誰がそういうつながりを想像できる?

おおきな病気を2度している。ひとつはA型肝炎、そして、2009年、この本を書いている最中だそうだ、中国雲南省昆明からまたさらに奥地、ミャンマーとの境に近いところで脳溢血。

そのせいだろうなあ、あのはじけかたは。よくぞ助かった、という、その命だからだろう。

みんなが生きていて、集まることができるうちに、(atconさんがファンだった)トッポこと加橋かつみも参加する、ザ・タイガースコンサートを、お願いします。トッポにみんなの声が届きますように。ジュリーはますます太ってきて彦摩呂化しているが、あの艷やかな声を支える体型として許そう。ジュリーと松坂慶子のデブは許す。

あの武道館の、総立ちの還暦すぎた昔のお嬢さんたちにも、それぞれ別れや裏切りや死が、訪れたのだと思いながら見ていましたよ。
そして、中断中とはいえ中国語学習者の私は、人見豊名義の中国語関連本も、そのうち読んでみる所存であります。

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comment(4) 2012.03.24 23:12

一瞬の風になれ

ファイル 211-1.jpg著者 佐藤多佳子
講談社

2007年本屋大賞・吉川英治文学新人賞。

羨ましい!が一冊目を読み終えての感想。

サッカーの天才を兄に持つ新二、天性の短距離の才能を持つが部活集団訓練の類に馴染めず中学途中で陸上をやめた連。この幼馴染二人が、高校陸上部(特に名門ではない普通の)に入部する。天然パーマの顧問の三輪先生は、新二が自分で染めた黄色い神を咎めもしない。

あー、反射神経とか筋肉とか瞬発力とか生まれ持ってみたかった。ストイックに自分の肉体・能力と向き合い訓練する時を、持ってみたかったぜ。
で、1は古本100円で買ったが、2と3は近所の書店の文庫本新品をすぐ整えた。高校生のスポーツ青春ものか・・・と数年敬遠した私が悪うございました。

きっちり取材し、研究して書かれている、よーくできた話。人物描写も、小さな恋のメロディも。あざとい部分がひとつもない。

ワタクシ体育教師を父にもって生まれたのに運動能力がどこにも見当たらない娘だったのでありました。今でも熱血根性話は好きではありませんが、さて、あさのあつこ『バッテリー』や、森絵都『DIVE!』に、手を伸ばしたろかという気分になっています。

BOOK
comment(0) 2012.02.14 21:09

ビブリア古書堂の事件手帖

ファイル 210-1.jpg著者 三上延
メディアワークス文庫

本の雑誌が選ぶ2011年度文庫べスト10第一位だそうだ。
1冊目は〜栞子さんと奇妙な客人たち〜といいう副題、2冊目には〜栞子さんと謎めく日常〜と副題。おそらくこの先も続くだろう。

ビブリア古書堂という、鎌倉にある古びた古書店の主がうら若く美しい本の虫の女性であり、あるトラウマから本を読むことができなくなったプータロー青年が、亡くなった祖母の本に絡むちょっとした事件により、そこの店員となり・・・。

映画『時計じかけのオレンジ』を、確かatconさんはとてもお好きだったはず、そして、アントニー・バージェスの小説の方、古いハヤカワ文庫を、お貸ししたんじゃなかった?
で、その、私が持っていたハヤカワ文庫版は、実は映画に合わせて最後の部分がカットされているのだそうだ。現在出ている翻訳では、終わり方が全然違うんだって!
とか、たとえばそんな、本の虫の古書店主ならではの知識を持ってちょっとした事件が解決されていくのです。

子供の頃はちょっとした本の虫だった私だけれど、今となっては、知らんわそんな本…がいろいろ出てくる。私でも、あー、サンリオ文庫って今やそんな、そりゃそうだよなあ、と遠い目になったり。

これに出てくる私は読んでいないけど読んでみたい本は、例えば小山清「落穂拾ひ・聖アンデルセン」梶山季之「せどり男爵数奇譚」坂口三千代「クラクラ日記」国枝史郎「定本 蔦葛木曽桟」それにその「時計じかけのオレンジ 完全版」など。
ま、そのうち。っていつだろう。

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comment(2) 2012.02.10 15:56

わたしのマトカ

ファイル 208-1.jpg著者 片桐はいり
幻冬舎文庫

映画『かもめ食堂』を見た人にお薦めします。そして、この本を先に読んだ人は必ず映画かもめ食堂を観たくなるでしょう。

あのおじさん『過去のない男』http://www.eurospace.co.jp/kako/だったのかあ、気付かなかった。アキ・カウリスマキ監督の映画では人々が妙に無表情で恵まれなくて、どんな悲惨な展開に、と思いきや、淡々と可笑しくホッとする結末に落ち着くのだが、どうやらそもそもフィンランド人はなかなか無表情に見えるものらしい。
そして、ムーミンのアニメの景色って、現実であるらしい。

あの四角い顔の女優さん片桐はいりが、『かもめ食堂』出演のためフィンランドに出張(と本人が言っている)、そこで経験したことのあれこれ、なのだが、映画かもめ食堂を見たとき同様、フィンランドに行きたい気分にさせる。トナカイ肉を食えるか?不安だ。フランス料理でジビエという時よりもっと野趣に溢れた味なような気がする。それにジャムのようなものをかけて食えるか?うむ。
ともかく、人がいい率が高い、ことは確かなことのようだ。

この本を読んですぐに、NHKBSでかもめ食堂をまた見た。172センチと長身の片桐はいりサンは、あの国では特に目立たない気がする。ほとんど溶け込んでいた。ちょっと猫背でさえなければ。
彼女が初めて書いたエッセイだそうだが、うまい。マトカはフィンランド語で旅の意味とのこと。

母の病室で読むシリーズその2は、状況にふさわしい本でした。

BOOK
comment(0) 2012.01.24 21:22

四十九日のレシピ

ファイル 207-1.jpg著者 伊吹有喜
ポプラ文庫

NHKの夜のドラマで見て、とても面白かったのだ。で、骨折して入院している母の病室で読むために買った。
その目的のためにはちょっと失敗だった。読みながらウルウルが止まらない。ストーリーは分かっているのに。看護師さんやお掃除の人やたくさん出入りするところで、何泣いてんだよおい、であった。

義母が急死する。乙美という名前だから、“オッカ”と呼ぶようになった人。その時、娘の百合子は夫との離婚話のさなかにあり、疲れきって父のもとに行くと、井本(イモと呼んでください)という妙な娘がいた。リボンハウスという施設で乙美に世話になったのだという。もし自分が死んだら、片付けから四十九日の宴会まで面倒を見るよう、頼まれたのだという。
乙美の作った、料理だけでなく掃除のやり方など生活全般にわたるイラスト入りレシピカード集があり、そこには子供の頃の百合子と思われる少女の絵もあった。

立ち止まる。振り返る。新しく歩き出す。

これを、ほかの人はどんなふうに読むのだろう。二年前に父の急死を経験しているから?私が子供のいない人生を送っているから?私には、しみる話だった。

OTOMIを逆から読むとIMOTOとなる。

BOOK
comment(0) 2012.01.24 20:51

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