著者 池澤夏樹
中公文庫
『すばらしい新世界』と言う前作の続編という形だが、私は前作を読んでいない。それはそれとして読める。
前作ではとても仲の良い家族だった(らしい)が、今はバラバラに生活している一家がある。夫の恋愛をきっかけに、妻が5歳の娘を連れて家を出て、オランダで暮らし始めた。
夫は風力発電の設計者で、ネパールの奥地に小さな丈夫な風車を建てたことがある。
原発がいけないのは複雑すぎることだよ、熱源である原子炉に対して周辺機器が多すぎる。放射能の問題とは別に、形がエレガントじゃない。
岩手県は風力発電の先進地域で、今の体制ならば総需要の3パーセント近くを風力でまかなうことができる。ところが、このところ、電力会社の姿勢が消極的になった。
世界中の八千か所の地点の風速を集めて、そのうちのどれだけで発電ができるか計算した(学者がいる)。全体の13パーセントで発電が可能、その総量は72テラワット。
(電気は自分で作れませんか?という質問に対し)
風力で定格出力400ワット、太陽光とバッテリーを組み合わせてあって、実際の発電量は一日に300ワット時くらい、液晶テレビなら5時間見られる。風力で定格出力400ワット、太陽光とバッテリーを組み合わせてあって、実際の発電量は一日に300ワット時くらい、液晶テレビなら5時間見られる。
とか、パーマカルチャー(有機農業の一種)、コンポストトイレ、などなど、今の、この地震、津波、原発事故の、起こってしまったこの世界に、なんとふさわしい時期に文庫化されたのだろう.。宮城こそでてこないけれど、福島や、岩手の土地に関連した人たち、物事。
物語のほうは、妻はコミュニティーと呼ばれるエコロジー系だったりスピリチュアル系だったりそれぞれの特性を持つ共同体で生活する体験を通して、農業に関心を持っていく。夫は夫で、高校生の息子を介して知り合った人々、その環境から、農業に近づいていく。シンクロニシティー。娘は可南子という名前がキノコに変化していてこのキノコちゃんの言動がとてもかわいい。だれか身近にモデルがいたのかなと思われる。
「いい惑星はめったに見つからない」
いい標語でしょう?玄関のガラスに張っていた人がいたのだそうだ(小説の中のお話)。今、ACのCM,いろいろ言われているけれど、おはようさぎ、とかあの、あいさつしよう、というやつ、私はあいさつの苦手な子供だった、母のスカートの端を掴んで後ろに隠れがちだった、ことなど思い出していたら、やっぱりあいさつの苦手な子供だった人のブログにぶつかった。挨拶が苦手なことを責めないで、というもの。ちょっと先に頭で考えてしまう子供はあいさつが苦手なんだ、って。うちの近くでも小学校の教育だろう、出合い頭にこんにちは、と言われる、のは気持ちはいいけどね。と、これは脱線。
妻が習得しているレイキという気功の一種のようなもの、そしてコミュニティーの仲間の男との、マッサージの延長にある交合によって得られる精神の高みを得る行為。
ヨガをやっている私はタントラヨガと言うものの存在は知っている。チャクラ、クンダリニーという言葉の何物かも一応知っている。が。
鍬を持って土を耕すことをやり始めたところの私自身と、この未曾有の災害のさなかの日本の状況に、狙いすましてぶつけたかのようなこのお話の中の人物たちが、ちょっとした実在の知り合いのような・・・近しい気持ちになっている私です。
でももともとこれは新聞小説で、2005年~2006年にかけて連載、2008年に単行本出版、2011年1月文庫化。
芥川賞受賞のころの池澤夏樹は、その生物学上の父上である福永武彦氏によく似ていたけれど、最近の写真ではあまり似ていない気がする。