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疾走

ファイル 156-1.jpg著者 重松清
角川文庫

読んでみたいと思いながら、どれにしようかな・・・という状態で今まで縁が無かった重松清。ばったり会った友人が袋いっぱいに古本として売ろうとしていた中にあり、私のもとに来た。
友人の紙袋から私のもとに渡ったもう一つは宮部みゆきの『ブレイブストーリー』で、そちらを先に読み始めたのだが、何しろ上中下巻の内の中が抜けていて、読み進められず、「疾走」へと移ったのだったが、この二種がとてもよく似た小説だった。表現の方法、スタイルは全く違うが、弱い大人を親として持ち、家庭の崩壊という状況に向き合うことを余儀なくされた子供。ブレイブストーリーの主人公は小学生だが、疾走では中学生であり、より過酷な現実にさらされる。暴力、セックス、そして殺人。

下巻に入ってほどなく、気付くとグダグダ泣いていた。

上巻終わり近くに、神父の弟で、殺人罪で拘置所にいる宮原雄二に会うシーン、俺は死ねなかった、に始まる長いひらがなのモノローグの中に、おれはおもうのだ、ことばがあるから、ひとはなやむ。という部分がある。おれはことばなどおぼえるのではなかった。ことばさえなければおれはあんなにもくるしまずにすんだ。ひとをころさずにすんだ。・・・田村隆一の詩にあったよね(→atconさま)、言葉なんか覚えるんじゃなかった、というフレーズ。

読み終えて、最後でなんとか救いがある。

この著者にはこんなに(馳星周か?みたいに)暴力と悲惨に満ちたものでは無い小説があるはずだよね、お勧めはどれかな?

お、SABU監督で映画化されてたのか、手越祐也がシュウジ役、それは見なければ。

BOOK
comment(1) 2010.10.20 18:17

陋巷に在り

ファイル 155-1.jpg著者 酒見賢一
新潮文庫


単行本には無かったはず、文庫版の帯にサイキック孔子伝!まあそうなんだけど、むしろ主人公であり、陋巷=むさくるしい汚い町中に在るのはその弟子、顔回。サイキックスペクタクル大巨編です。儒とは、そもそも礼なかでも葬礼を正しく行うことであり、死者・生者・霊界を秩序ある形に仲介する者たちの集団を儒者と呼んだ、と。

すごいよ。論語に何の興味も無くても大丈夫、荒唐無稽ファンタジー活劇がお好きなら、読んでご損はありません。それぞれの巻のタイトルの漢字に、白川静による深い説明を添えてあるので、漢字好きにもお勧めできます。もちろん、信じられないようなたくさんの古代中国の資料を読みこんだ上でのサイキックファンタジーなので、歴史に詳しい方でも興味持てるはず。

子蓉姐さんの媚の魔力を含め、もしも映像にできるものなら…無理か。

全13巻。我が家の第一巻(儒の巻)を見てみたら1992年刊。なぜに2010年に読み終えたか?途中で何巻まで読んだかわからなくなって休憩しましたのさ、雑誌連載してたから次の単行本出るのに時間かかって。このたび、もう前の話覚えてないよ、と思いながら12巻から続けたところ、この12巻がまた素晴らしくスペクタクルにサイキックな戦いでありました。いや、ただのファンタジーではありません、人間の心理に関心のある方にもお楽しみいただけるかと。

酒見賢一を初めて読んだのは『後宮小説』、のちに『雲のように風のように』というタイトルでアニメになったのをご記憶にありませんかな?

この作家は、住宅設備会社勤務の傍ら・・・だって、この膨大な資料を必要としたであろうような小説を書きながら?

BOOK
comment(0) 2010.10.19 11:15

常野物語 光の帝国

ファイル 154-1.jpg著者 恩田陸
集英社文庫

とこの と読んでください。柳田國夫の遠野物語を意識したタイトルと、すぐわかりますね。
東北のほうに常野という土地がある、そこに住む(住んでいた)人々にはある種の能力があり・・・。まず最初の“大きな引き出し”という章。たとえば日本の古典文学をまるごと記憶して頭の中の引き出しにしまっておく能力がある家族。
私はこの章でほぼ恋に落ちました。いや、この作家と。性別?お気になさらず。この前に読んだ『ライオンハート』では態度保留だったのですが。今までなんで読まなかったんだろう、と思っています。

その第一章は、爽やかなジュブナイル仕様ですが、それぞれの章によって苦い味わいや、かなり気持ち悪い感じや、迫害の時代や、いろいろあります。能力を隠して市井にひっそり埋もれて暮らす、という設定は珍しくは無いのですが(最近また『七瀬ふたたび』って脚光を浴びてるよね、多岐川裕美バージョンを覚えている人手を挙げて!)、やはりそこは遠野物語風味ということで、宇宙戦争とかにはなりません。

この常野物語シリーズがあと2冊文庫化されているじゃありませんか、早速、と言っても近所の○タヤにあるかなあ、あとで行ってみます。

BOOK
comment(1) 2010.09.27 09:10

ライオンハート

ファイル 153-1.jpg著者 恩田陸
出版社 新潮社

スマップの曲が先だと思っていた?著者の後書きを読んでびっくり、ケイト・ブッシュにそのタイトルの曲があったのね。ケイト・ブッシュはかつて東京音楽祭で歌った、とその後書きにあり、どうやら私もそれで知ったんだろう、近所にあったレンタルCD屋さんで借りてきて録音した、けれどさすがにそのテープは見つからない。調べたら1978年来日。

エリザベスとエドワードという名の男女が、時空を越えて出会う。の、だけれどよくあるリ・インカーネーション物語と違って、時間軸に従わない。と、いうか、1978年に始まり、1932年の物語で少女のエリザベスはすでにエドワードを知っているがエドワードはこの時初めて彼女に出会う。少女エリザベスの死。次の話は1871年シェルブール、1978年に戻る、1969年、1855年、また78年に戻って、この年にエリザベスは、初めてエドワードに会ったらしい、ということになっている。

いつもあなたを見つけるたびに、ああ、あなたに会えて良かったと思うの。会った瞬間に、世界が金色に弾けるような喜びを覚えるのよ。

ほとんどの話の中でつかの間の出会い。

それぞれの章に絵が付いています。"記憶"という章の絵にはクノップフの『Memories Du Lawn tennis』。

私はこれを読みながらジャック・フィニィの“盗まれた街”を思い出していたのだが、フィニィへのオマージュ作品は別にあって、これはロバート・ネイサンの“ジェニーの肖像”へのオマージュであるそうだ。聞き覚えはあるけれど、たぶん映画かマンガか、の形で目にしていたと思う。そのジェニーの肖像を書店で探してみたけれど見つからなくて、代わりに恩田陸の“常野物語 光の帝国”を買った、という話はまたこの次。
あ、ライオンハートってもともとイングランドの獅子心王リチャード一世のことだって。

BOOK
comment(1) 2010.09.26 10:42

小さいおうち

ファイル 152-1.jpg著者 中島京子
出版社 文藝春秋

143かい直木賞受賞作。

緻密に構築された、ちょっとミステリー仕立ての、佳作。

昭和初期の、中流の上?くらいのおうちに女中さんとして奉公することになったタキさんの回顧録の形で話が進んでいく。
赤い三角屋根の小さいおうちには美しい若い奥さんがいて、奥さんの連れ子の息子、少し年の離れたおもちゃ会社にお勤めの旦那さん、そして、気働きのすぐれた女中さんである語り手(書き手ですが)。

ほとんど戦争の影も感じられず、東京オリンピックの話が進んでいたころから、次第に戦争へと進んでいく時代にあって、このくらいのクラスのおうちではそんなだったんだろうなあ、というような、かなり優雅な戦争前夜暮らし。優秀な女中さんによって者が少なくなってからも、いろいろと工夫を凝らして美味しそうなお料理があらわれるのは、ちょっと真似させてもらいたいものがあります。

読み進むと、ん?という気配が・・・うーん、そうか。そういうことね・・・。
まあべつに、どんでん返しとかそんな大げさなものではなけれど、小さな、え?がいくつかあって。

『ちいさいおうち』というバージニア・リー・バートン作石井 桃子訳の絵本があるそうです。それも読んで見ようと思っています。

BOOK
comment(2) 2010.09.14 18:40

珍妃の井戸

ファイル 149-1.jpg著者 浅田次郎
出版社 講談社

再読。蒼穹の昴の続編。
珍妃、光緒帝に愛された美しい側室。西太后によって井戸に投げ込まれて亡くなったと、されている。おそらくそれが史実なのだろう。

誰が珍妃を殺したか?を、蒼穹の昴でも謎の女として神出鬼没(?)していたミセス・チャンの示唆を得て英国の提督・ドイツの大佐・日本の大学教授・ロシア銀行総裁が探っていくミステリー仕立て。その場に居合わせた(居合わせなかった新聞記者一人もいるが)と話す人ごとに犯人が違うのだ。その人が犯人であって欲しいと願う誰かを、それぞれがまことしやかに陥れる。
こんな形式でみんなが嘘をつく作品を読んだことがある気がするのだが、なんだったか?
ついには、光緒帝に面会する機会を得るのだが、なんと光緒帝の言うにはこの4人の外国人こそが犯人であると名指しされるのだ。

初読の時には、今ひとつ面白く思わなかったのだ。蒼穹の昴の壮大さを期待したからだろうか?前作からしばらく時間がたってこれを読んだからピンと来なかったか?

泣かせの浅田次郎らしい最後になる。
いやあ面白かった。『蒼穹の昴』に続けてすぐ読むことをお勧めします。
ところで、積んどいたその続編『中原の虹』をやっと読もうとしたらどこに行ったやら…見つからないよお。

BOOK
comment(0) 2010.08.25 16:14

音もなく少女は

ファイル 148-1.jpg著者 ボストン・テラン
文春文庫

新しく本を買うのはしばらくやめようと思ったばかりなのに、空き時間に書店に入ったら、出会ってしまった。帯に“いい小説だ。心に残る小説だ。”と、北上次郎の言葉があったのだ。北上次郎の書評でこんな風にほめられてる場合、私の好みに合致する確率は高い。

冒頭に、一通の手紙。私は殺人の隠ぺい工作の手助けをしました、と始まる短い手紙。そして①54歳のブロンクスの女性店主、麻薬の売人を射殺、というニュース。②21歳のチャーリーと17歳のイヴが、イヴが住んでいる建物の屋上に毛布を広げて空を見上げ、みずみずしい恋のシーン。

その三つのエピソードがどんなふうにつながっていくのか?

とんでもない最低の環境(ろくでなしの夫を持つ無学で信心深いクラリッサ、耳が聞こえないその娘イヴ、ヒットラーの時代、断種法により聾者の子を身ごもったために子宮を摘出された経験を持つフラン)、最低の男たちとの係わり、その中で女たちが、強い絆を結び、生き抜き、そして何が起こるのかは、どうぞ読んでください。クラリッサとフランの墓碑銘に、
 女、姉妹、友達、母親
と彫られるシーンがある。心身に深い傷を負った女たちの、(何かを守るための)靭さを、静かに描いて、本当にいい小説です。原題は『WOMAN』ですが、翻訳タイトルにまず魅かれるよね。

BOOK
comment(1) 2010.08.09 10:48

猫の心を持つ男

ファイル 147-1.jpg著者 マイケル・アレン・ディモック
出版社 早川書房

再読。
二階の瓦が一枚落ちて雨漏りが起こり、ふと気付くと壁一面の本棚の向こうの壁に雨がしみて・・・という事件があったために、この本を目にした。全く記憶になかった。
読み返すと、フレースなりエピソードなりに覚えがある。ストーリーは完全に記憶から欠落。

精神科医ケイレブは、人を猫型と犬型に分類する癖がある。タイトルはそこから。

家庭内離婚状態にある刑事シネスは、十代のころ、芝生に座ってザッパやジョプリンやB・Bキングを聞きながらマリファナ煙草を回し飲みした、という世代。野外コンサートで本物を、ってことよね。

ケイレブの家の本棚にはドストエフスキーからゾラまであり、多くはアメリカの作家フォークナー、ヘミングウェイ、スタインベック、アプダイク、ベロウなど、人ルの棚にはミステリ作家ドイル、チャンドラー、ハメット、ジョン・D・マクドナルドとロス・マクドナルド、それにグレンジャー、パレツキーなどシカゴの作家が並んでいるそうだ。

会計士が自殺を装って殺される事件が、まず起こる。

ケイレブはゲイであることがわかるのだが、ゲイであることで脅されるかのような事態になって、彼はいまどきそんなことがと一蹴する。最初にこれを私が読んだのがおそらく1995年、書かれたのが1993年、読んだ時に、ああ、そんなものなのか、と思ったことをよく覚えている。2010年の今でこそどこかの首相がゲイだと公言したとかゲイ同士で結婚したとか、国によっては政治家でも何の問題にもならないようだが、当時の日本ではまだ特殊なことと思われていただろう。

殺人事件の犯人探しとしてはさほどのものではないかもしれない。人間関係、社会性(まだエイズは不治の病の時代である)、いろんなエピソードが詰め込まれて、それが興味深い。

作家は男性名だが、実は女性で、この作品で新人賞を取っているが、その時の本職はシカゴ市営バスの運転手。なぜかその後翻訳は出ていないようだが、英語版は続編などあるらしい。

BOOK
comment(0) 2010.08.06 14:11

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