MOVIE+BOOK              

Log

海街ダイアリー1 蝉時雨のやむ頃

ファイル 127-1.gif著者 吉田秋生
出版者 小学館

 鎌倉の古い家で暮らす三姉妹に、子供のころ別れた父が死んだという知らせが入る。次女はその知らせを男の部屋で受け取る。

 夜勤のある長女を除き、次女と三女が葬式に出かける。腹違いの、中学生の妹が迎えに来ている。その妹の母親はすでに亡くなり、父は3番目の妻と暮らしていた。
 人は悪くなくても頼りない、おそらくすぐ次に頼る相手見つけるであろう3番目の妻と、そのために必要以上にしっかり者になっている腹違いの妹に、鎌倉で一緒に暮さないかと誘う長女(遅れて葬式にやってきた)。

 吉田秋生の、バナナフィッシュ~夜叉~イヴの眠りと続く壮大な遺伝子組み換えや国際犯罪の物語ももちろん大変面白い、が、市井の人々、普通の中学生・高校生の生活、家族、を描いたものも、深く至福のひと時を与えてくれる。単行本は海街ダイアリー2『真昼の月』まで出ている。もっと続いてほしい。

 先日、大島弓子の“バナナブレッドのプディング”は名作だ、という話で19歳の姪と意見の一致を見たのだが(atconさま、あの穂村弘もそう言ってるって)、この“海街ダイアリー”はすっかり大人になって久しい年代の人間にとっての佳作である。2007年の文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞だって。

 で、資料を読んだところ、もうすっかりそれに出てくる名前など忘れていたが“ラヴァーズ・キス”とリンクしている物語なのだった。

BOOK
comment(0) 2009.10.05 09:13

楽園の歳月

ファイル 126-1.jpg著者 宮迫千鶴
出版社 清流出版

 きれいな本でしょう?

 四半世紀も前かな?この人の“ママハハ物語”というものを読んだ。世の常識とだいぶかけ離れた(顰蹙ってのは買うもんじゃない、売るもんだ、とか)画家のつれあい、連れ合いの息子パンク少年、との生活を描いて、私にはとても印象に残っている本。
 
 宮迫千鶴遺稿集。と、いうからにはもっと闘病日記的なものかと思っていた。闘病する暇もなく悪性リンパ腫は急速に悪化したようだ。

 田舎暮らしとか、ターシャ・テューダーとか、スピリチュアルな世界とか、絵とか、に、興味のある方は一度手に取ってみてください。

 若い日に、妻のある人と運命の出会いをし、妻だった人を傷つけ癌で逝く原因を作った、という思いを持ちつつ、その男とその息子と新しい家庭を作り(紙の上では非婚だが)、息子と戦い、人より早く介護をし、今は田舎で長い人生を一番の仲よし、同志である相棒と暮らし・・・。

 自然とともに、のびやかな、心地よい暮らしを営んでいる最中にも、病は訪れるのだ。

 本の中にも、たくさん、気持ちのいい絵がありますよ。画家・評論家・エッセイストであった彼女を味わってみませんか?

BOOK
comment(0) 2009.10.01 14:58

鷺と雪

ファイル 123-1.jpg著者 北村薫
出版社 文芸春秋 

第141回直木賞受賞作。
 この作家のデビュー作『空飛ぶ馬』をはじめとする落語家円紫さんとわたし(名前は出てこない)のシリーズが好きだった。日常の出来事の中の小さなミステリーを、円紫師匠が解き明かす、シリーズ最初は大学一年生だった“わたし”の繊細な感受性に対し、ああなんて粗雑なワタシだったことだろうとわが身を省みたが、北村薫はもともと高校の国語教師だったそうで、その小説の中に散らばる引用の原典探しというのも楽しみの一つだった。  栗本薫、高村薫、に続いて北村薫、と、この人も女性作家か?どっち?と思ったものだ。

 本作は、昭和初期の、明らかに女子学習院だな、という女学校に通っている英子と、その周りの人々に起こる謎を解決するお抱え女性運転手ベッキーさん、という、環境を変えた円紫さんシリーズじゃん、とも言えないでもないが、まあそれはそれ。
 英子とベッキーさんシリーズにも、気になる引用がいろいろ出てくる。いちめんのなのはな って誰だったっけ?続くフレーズはなんだったっけ?とか。
 きらきらとひかるおおきなかたまり
 ―-大化の改新だな
 あっちは鎌足よ。
なんて会話もある。おいおい。こちとら『日出ずるところの天子』も大方忘れてしまってそんなの頭に浮かびません。

 シリーズ3作の中に緻密な伏線があって、最終章の歴史的大事件につながる。そうか、雪だ。ここに至るためのこのシリーズだったのか。

 ベッキーさんこと別宮みつ子さんカッコ良すぎる。なんで運転手?とつい思ってしまう。

 えーと、今ではすっかり知られていることですが、北村薫さんは男性です。念のため。

 

 

BOOK
comment(0) 2009.09.16 22:17

無銭優雅

ファイル 122-1.jpg著者 山田詠美
幻冬社文庫

 単行本の時に、これどっちみち絶対読む、今じゃなくても、と、心の中でお取り置き、だったもの。

 40代の男女の、全然大人らしくない恋の成り行き。の、間に、いくつもの小説の引用が挟まっている。予備校の国語教師である男(栄)が、哲学科出身であまり恋愛小説なんて読まない女(慈雨)に勧め、女が読んだ本、であるらしい。20冊を越す引用の中、私が詠んだものは半分もないんでありましたね、なんたってエドナ・オブライエンから泉鏡花、樋口修吉、草間弥生、坪井栄・・・聞いたことも無い著者もいる見事なバラエティ。

 42歳で知り合って、現在45歳である男女が、大人気ない恋愛をしているのは、10代20代の読者にとっては違和感があるかもしれない、が、実際私の周りでは格別珍しくない形の男女だ。恋愛って、そもそもそうしたものでしょ。大人の分別を持って結婚する、ということはあっても、分別ある恋愛なんてある?いつでも子供みたいなところがあるものでは?
 花屋を共同経営している女の店に毎日やってくる老女がいる。“ここのところ原因不明の楽しい気分に襲われて”という慈雨に、“更年期前の発情期かも”とおっしゃるのだ。滅びゆく者の最後の栄華、だそうで。・・・そういえば、そのあたりで意外にチヤホヤされた記憶がないでもなく。

 人と人の関係がそうお気楽なばかりですぎるわけもなく、事件が起こる。そのあとのあるシーンで、私はびいと泣いてしまったが、どこだったかは教えない。

 慈雨という名前の女の子が出てくる坪井栄の短い小説があるのだそうだ。満員列車の中で押しつぶされて死んでしまう女の子。
 滅びに向かう命であるからこそ、出会った者たちは子供のようなじゃれあいをしたり臆面もない言葉遊びをするものでしょう。そもそも、“心中する前の日の気持ちで、これから付き合っていかないか”と言われて始まっているのですよこの二人。

BOOK
comment(0) 2009.08.17 13:57

眠れる旅人

ファイル 121-1.jpg著者 池井昌樹
出版社 思潮社

 第43回三好達治賞。

 この詩人の作品を初めて目にしたのは、中学三年の時、当時の受験雑誌“中三コース”の文芸欄だった。山本太郎(俳優をイメージした人、もちろん別人、もう亡くなった詩人です)選。ぬるぬるとした湿度のある日本家屋で育まれたような感性の詩、私はその詩を切り抜いてしばらくスクラップしていた。その後、彼は“高一時代”文芸欄の常連になった。高一コース(と、高三コース)の文芸欄は、その当時寺山修司の選によるもので、なかなか異質な雰囲気だったのだ。池井昌樹はずっと山本太郎のもとで育っていた。私は勝手に、高三コース文芸欄のA・Aという人をスーパースターと呼び、池井昌樹を詩職人と呼んでいた。
 しばらくしてある詩誌でこの二人が友人であることを知り、あー、こーんなに違うタイプでもお互い認め合っているのかー、と思ったものであった。かつて、天文館の春苑堂書店には『歴程』なんて詩誌が置いてあって、その同人であることを知った。

 久しぶりにその名前を耳にしたのは、この六月TV番組NHK週刊ブックレビューの中。懐かしく嬉しく、さっそく注文しましたさ。ちょっと時間がかかったので、現代詩文庫にも入っていたのか、あーずいぶん詩集のコーナーから離れていたものだ、と思いつつ先に買った。読んで、その素敵な大人になり方にうるうるしたのだった。

 でもやっぱり、詩はちゃんと一冊の詩集の中で読むほうがいい。ほとんどの詩はひらがな。タイトルだけ漢字のものが多い。中にたくさんの漢字の散文詩もある。とても美しいひとであるらしい奥さんが介護で不在であるときの詩を、こんな風に書く人になっている、と、それだけで私はしみじみする・・・のだが、なんのこっちゃでありますね。詩人は私のことなど何も知らない。

 管理人atconさま、短い詩をひとつ紹介します。

  「亡」
  
  ないものはない わかっていても
  かえりたいまち あいたいひとら
  いまもこんなに いきているから
  かえれないまち あえないぼくが
  なにもしらずに まっているから
 
 

BOOK
comment(3) 2009.07.13 13:09

それでも、警官は微笑う

ファイル 118-1.jpg著者 日明 恩(たちもりめぐみ)
講談社文庫

 たちもり って、読めた人誰か?

 この人のデビュー作だそうです。無骨な巡査部長武本、茶道の家元のお坊ちゃま育ちのおしゃべりな警部補潮崎という、まことに映像化したい意欲をそそられる(って脚本家でもTV関係者でもないんだすが)コンビに、麻薬取締官宮田という、これが一番バックグラウンドが興味深い人間で。

 まあしかし、潮崎クンの口から出てくるいろんな名前がね、合田刑事“やっぱり白いズックでしょ”、リコ“緑子と書いてリコ”、それからこれは三毛猫ホームズのこと?とか鮫島(新宿鮫)、岩崎白昼夢って?どっかで聞いた気が?と思ったら胡桃沢耕史「翔んでる警視」だって。昔むかし読んだよな。百舌ってなんだったっけ、逢坂剛かあ・・・etc.
 警察小説、探偵小説をたくさん読んでる人にはおいおいおいと楽しめます。私が知らない名前もありました。気付かなかった名前もあるでしょうね。

 で、ストーリーは、出どころのわからない拳銃を追って、背後の巨大な企みに向かうのでありますが、中国が絡んで…地道な巨大犯罪と、申しますか・・・。麻薬とか拳銃とかまた輸入のシステムとか、なんかそれこそ高村薫もののような詳しい知識を得られます。実際にその通りなのか存じませぬが。

 第25回メフィスト賞受賞作品だそうで、過去の受賞作を調べてみたら、第一回の森博嗣『すべてがFになる』しか読んでなかったのでした。このジャンルについてあんまりわかったようなことは言っちゃいけないな。さて「そして、警官は奔る」という第二弾も読むつもりです。

 

BOOK
comment(2) 2009.05.29 22:14

第四の郵便配達夫

ファイル 115-1.jpg出版 東京創元文庫
著者 クレイグ・ライス
訳  田口俊樹/山田順子

 『大はずれ殺人事件』『大あたり殺人事件』『こびと殺人事件』『スイートホーム殺人事件』など、クレイグ・ライスのユーモアミステリーにはまって追いかけた時期がありました。ジェイク、ヘレン、マローン、フォン・フラナガンなどおなじみの面々が出てきます。近所の書店で久しぶりに見かけてすぐ買ったのに、。クレイグ・ライスですらチャッチャと読み進められないこの生活・・・ぶつぶつ・・・と個人的事情は置いて(失礼!)。

 1940年代シカゴ、豪邸の前で郵便配達夫が3人続けて殺される。相変わらず飲み代の支払いを貯めていた弁護士マローンはこの事件と係わることとなる。何しろ豪邸の主は大富豪だから。今回新しい相棒(?)ビール好きの犬、名づけてオーストラリアン・ビア・ハウンドと共に。
 犯人と目された大富豪はあのタイタニックとともに海に沈んだと思われる恋人を、今も待ち続けていて、ちょっと頭の状態を怪しまれている。

 著者は1908年シカゴ生まれで49歳で亡くなっています。あまり恵まれた育ちでなく、いろいろな職業を経て30歳で作家になったということです。今どきはあまりお見かけできないハチャメチャな飲んだくれたちが出てくる、いかにもその時代のシカゴなシリーズであります。クレイグ・ライス本人もアル中だったらしい。

 意味なく殺されたポストマンたちの立場はどうなるんだよ、と思うものではありますが、一筋縄ではいかない展開、今回ヘレンやジェイクがちょっと脇で地味に(というか妙に)登場。
 ライスをご存じない方は、『大はずれ殺人事件』あたりからのほうがいいかと思います。お気に召したら続けてどうぞ。

BOOK
comment(0) 2009.04.20 09:59

奇縁まんだら

ファイル 111-1.jpg著者 瀬戸内寂聴   画 横尾忠則
出版社 日本経済新聞出版社

 作家瀬戸内寂聴さんがその人生に出会った人々とのエピソード、それに添えて横尾忠則による似顔絵が随所にある。

 ミーハーですからね、私。島崎藤村が際立って美男であった・・・へーえ!谷崎潤一郎の妻だった千代さんが谷崎と別れて佐藤春夫と結婚した、しかもその時に3人の連名で新聞に発表したという話は有名だが、実はその裏にもう一人の男が・・・おお!ネタ、ネナイ、ネタ、と、宇野千代さんは言った、ってそれは寿司の話じゃありませんよ、かかわりのあった男たちの名前を挙げた時におっしゃったお言葉。トランプをバラリと広げたようですなあ、豪華なお話ですなあ。
と、驚きながら笑いながら読み進むうちに、圧倒という言葉がぐわりと襲いかかっている。

 表現者として生まれ、生きる人の凄さ。ほとんどは作家(文士)だが、文章も書いている画家岡本太郎(瀬戸内晴美さんに向って小説かなんかやめて俺を手伝え、と、大マジで言った!)、作家でもあった社会主義者荒畑寒村(90歳の時に40歳の女性に恋をした!)などの人もいる。

 女流作家平林たい子さんを含め、ほとんどの人の恋愛(結婚している最中の)について触れられているのだが、あーーー作家であることは本当に!!!私は幸か不幸か一般人に生まれたが、これってやっぱり幸よね、非凡であることとはかくも非凡であるものなのね(変な日本語ですみません)。あのタラコ唇の松本清張氏にまことに麗しく心持の優しい女性と、見目麗しいがまことに悪縁なる女性がいた、が、そのおかげで悪女が書けるようになったと内心感謝していた、だって。
 女誑しの魅力を体中から発散させていたという檀一雄・・・ああどんなんですやろ?

 そんな人たちにも家族がいたと思うと、大変ですやろ?そっち側の身にもなってみなはれ・・・。

 日経新聞に連載中の第一弾ということなので、ぜひ寂聴さんにはまだまだ長生きしていただいて、昭和の文士たちのことを聞かせていただきたいものであります。

BOOK
comment(0) 2009.03.02 12:01

move