彼岸花が咲く島

著者 李琴峰
出版社 文藝春秋

台湾生まれの女性による第165回芥川賞受賞作品。

白いワンピースを着た少女が、島の砂浜に流れ着いて倒れている。砂浜を覆いつくすように彼岸花が咲いている。
記憶を失った少女は宇実と名付けられる。その島では、ニホン語と女語が使われていた。宇実の話す<ひのもとことば>と似てはいるが、うまく通じない。

現実の地理を思うなら沖縄あたりであろう島。語られているニホン語は、台湾訛りの中国語と、沖縄方言が混じった言語。ノロの女性たちが、<女語>によって島の歴史を受け継ぎ未来へ伝える。男は女語を習うこと、歴史を学ぶことが許されていない。大ノロによって宇実はノロになる修行をすることになる。浜辺で宇実を見つけた游娜と共に。

宇実がかつていた国の<ひのもとことば>は、かつて疫病が流行り、それがチュウゴク起源のものだったために、チュウゴク由来の物は排斥され、言語からも漢字語を追放した結果、漢字語でしか表現できないものはイングリッシュであらわされることになった言葉である。そして先祖にチュウゴクの血がある人間も排斥された、どうやら宇実が流れ着いた理由もそこにあるらしい。

女語をひそかに習得している少年、拓慈の存在、そして普通は彼岸花が砂浜に咲くはずは無いが、麻酔薬として使われることがある特殊なその花は、ニライカナイとされる場所との交易で重宝されている。

現在のコロナ禍でアジア人差別が起こっていること、日本で韓国・中国に差別発言をする人が絶えないこと、ジェンダーの問題、侵略。そう長くないファンタジー仕立の小説の中で、様々なことが語られている。作家が台湾人だからだなあ、と思う作品。1989年生まれ、2013年来日、早稲田の大学院日本語教育研究科修士課程修了の、日中翻訳者でもある人。
芥川賞か?とちょっと思う。いや、悪いと言っているのではなく、例えば上橋菜穂子作品のような私好みのファンタジー、SF的なので。
それにしても、中国や台湾にルーツのある人が文学賞を獲ることがそう珍しくなくなってきて、すごいね、半端な中国語学習者としてはつくづく感じ入りますよ。
基本的に言葉というものに関心のある方にお勧め。

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