PLAN 75 

脚本・監督 早川千絵

出演 倍賞千恵子 磯村勇斗 河合優実 ステファニー・アリアン

少子高齢化が進んだ結果、歪みが悲惨な事件を呼ぶことになった、パラレルワールドの日本。75歳から、自分で生死を選ぶことができる制度、PLAN75が施行される。

一人暮らしのミチは78歳。ホテルの客室清掃業に就いていたが、同じく高齢の同僚が仕事中に倒れたことをきっかけに、解雇される。仕事を探すが、自分の条件を入力すると、パソコンには0と表示される。その内、PLAN75 を検討し始めるミチ。

誠に身につまされる話。ミチがつましくも丁寧に暮らしていることが分かるので、この世界には年金は?死別した旦那さんの遺族年金は?などと思ってしまう。

実年齢はもう少し上、1941年生まれの倍賞千恵子さんが、ことさらに皺が目立つような陰影の中で演じている。舞台に立てば今でも華やかな姿で、艶やかな豊かな声で歌うのであろう人が。最近の女優さんはいつまでも若々しく、おばあさんとなかなか呼べない。女優さんとしてはおそらく美容整形的なことにこだわらない生き方だっただろう彼女が、こういう仕事をオファーされ、ちょっとした目の表情や、そのたたずまいで見せる。

18年、是枝裕和監督製作総指揮のオムニバス映画『十年 Ten Years Japan』の一編『PLAN75』の監督・脚本を手がけた、と言う監督が、ストーリーを再構築、キャストを一新して長編映画デビューしたのだそうだ。『十年』というのは香港映画にはじまった、十年先の国の変化を描いたものだった。それからいくつかの国で同じタイトルで作られた。香港では10年も経たずにその映画の予言が現実に近づいている。では、これは?

ふわっと始まって、ふわっと、その着地点は?と言う終わり方、それは、見る側の受け取り方に任されているのか。役所のPLAN75の若い担当職員が、男性も女性も、柔らかな感受性を持つ人として描かれるので救われる。

先日、ゴダールが「自殺幇助」と言う方法で亡くなったという報道があったね。重い病気があって、不自由な身体で、91歳なら、私もその方法を選びたいだろうか。78歳の独り身には、会話の相手が、交流する誰かが、消えていったのだ。思い出話ができること、ねえあれ!と話しかけたら答えてくれる相手がいることは宝だと、若い時には気づかなかった。

ミチが口ずさむ、リンゴの木の下で♪ が、映画館からの帰り道に頭の中で鳴っている。帰宅して調べていたら、キャストの中に串田和美とあって、あれ?どこに?と思ったけれど、『上海バンスキング』の舞台を見て吉田日出子子が歌うその歌が口をついたのは、いつの話だよ!その頃によくテレビで見かけた串田和美は今何歳だと思ってんだ、であり。そして、すみません、映画と関係ない蛇足一つ、彼、串田孫一の息子だったんだ。知らなかった。

 

コメント (2)

atcon2022年9月26日(月曜日) at 8:08 AM

PLAN75が施行されたなら、何があってもとにかく75歳まで頑張って生きてみようという希望になるかもと思う。
自由意志で選択できるならそれもいいと思うけど、そのうち強制的になって「姥捨て山」プロジェクトになっていきそうな気がする。

aar2022年9月27日(火曜日) at 4:02 PM

監督は、障碍者施設の殺傷事件とか、自己責任とか、役に立つかどうかが生存の意味であるとするような風潮から、この映画を企画したそうです。たとえば意思の疎通を図れなくなった人に対して、親族なり世話人の意思で事が進められる、ということにはなりかねないね。

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