スクラップ・アンド・ビルド

スクラップアンドビルド著者 羽田圭介

出版社 文芸春秋

読み進みながら、芥川賞だよね、直木賞じゃないよね?と、帯を確かめてしまった。要介護の祖父と、前職を数か月でやめて求職活動中の孫。「早う迎えにきてほしか」が口癖の87歳の祖父に対し、ある日、それは言葉通り心底からの願いなのではないかと気づき、それに協力する方法は無いかと模索する孫・健斗。

母の、弱弱しく人を頼ろうとする祖父に対する態度は厳しい。
後期高齢者の介護生活に焦点を絞った場合、おそらく嫁姑間より、実の親子のほうがよほど険悪な仲になるのではないか
うん、病院の受付の人もそう言っていたな。お嫁さんは遠慮がちだけど、実の娘はビシバシ言うって。

弱ってはいてもそれなりになかなかしたたかな爺さん。

孫は孫で、絶不調の状態ではあるが再就職に向けて行政書士の勉強、筋トレに励みつつ、ガールフレンドとデートしたりして。

芥川賞受賞後、もう一人の又吉は元々お笑いの人だからTVに出るのは当たり前、騒がれて当たり前だが、羽田氏もなんだかヒョロンとした(いや、顔はそこそこ悪くないよ)妙なキャラクターでよくバラエティに出ている。全然作家然としていない。っどうしてもその雰囲気と主人公を重ねてしまう。おいおい、そんなに本気で鵜呑みにしてたのかよ、と、あの悪くは無いけどどこかぼーっとしたような顔の作家に向けてツッコミたい。いやいや、フィクションだから。別人だから(と自分にツッコむ)。

芥川賞直木賞の作品を、単行本の時点で読むことはあまり無い。今回はこれで三作品すべて読んだ。三作ともとても面白かった。本作に関しては、あ、介護を巡る話か、それは読んでみたい、と思ったので。私自身はもう両親の介護は終わり、おせっかいにも伯母の様子を時々見に行く生活だが、身近に正に今、介護問題に直面している友人がいる。この本のお母さんとおじいさんの関係のように、なかなかきつく当たっている親族を、気にしている。で、読み終わった今、彼女に貸すことになりました。笑える芥川賞小説。

 

 

白河夜船

白河夜船監督 若木信吾

出演 安藤サクラ 井浦新

原作よしもとばなな。昔、一度目に読んだ時よりも、数年後に二度目に読んで好きだった記憶がある。
安藤サクラの主人公が、だらしないぐうたら女に見えてしまって、しばらく違和感を覚える。よく眠る女。どうやって生活しているのか、とにかくよく眠る。

しおり という友人との過去のエピソードと、現在が、交互に現れる。

井浦新演じる岩永さんと言う男との裸のラブシーン、そう濃厚なことは何もなく、普通の行為である景色に、かえってリアリティを感じる。

次第に明かされる。不倫であること、変わった仕事をしていた友人が自殺したこと。岩永さんの妻は植物状態であること。

しばしば部屋でショーツ一枚の姿である小さな胸の安藤サクラ、あ、その背中、絵になる、と何度か思った。それは、監督が写真家であるからなのだろうか、そのままトリミングしたいシーンがいくつか。

“岩永さん”が、電話で「よく寝る人だねえ」だったかそんなことを言う。ばか、自分のことだけ悩んでんじゃないよ、この娘鬱をこじらせてるじゃない!と、どうやら自分が電話したときはいつも出て欲しいらしい、そのために、彼女がいつも部屋にいて眠っていることがむしろ好都合であるらしい、優しいけれど相手をちゃんと見ていないよくありそうな男!(よく、は、いないか?)にいらついた。

そのあと、公園のシーンで、ちょっとうるっとすることになりました。
安藤サクラがこの役にあっているのか?は、やはり疑問です。が、ばななさんの世界によくある、深い喪失からの復活の兆し、ちょっとした異世界感、が、嫌いでないのと、井浦新が嫌いでないのでね。私にはいい映画でした。

タイタニックを引き揚げろ

タイタニックを引き揚げろ著者 クライブ・カッスラー

新潮文庫

友人が貸してくれたこの本は、なにしろ昭和61年に印刷された古い文庫なので、活字が小さい。それが500ページ以上というまあまあの厚さ。「レイズ・ザ・タイタニック」という映画があったなあ、という記憶はあるが、さてTVかなんかで見たか?全く覚えが無く。

沈んでしまったタイタニックには、実はビザニウムという多大なエネルギーを生み出す鉱物が積んであった、という。それを手に入れるために、タイタニックを引き揚げようというのだ。そこに、その時代だからソ連とアメリカの対立、国家の目論見、スパイが暗躍し、その中に夫婦の問題もアクセントとして取り込み。

ダーク・ピットという名のスーパースターが活躍して、引き揚げようという途中にはハリケーンまでも襲来し。

ビザニウムって放射性物質なんだろー、そんな扱いで平気なのかー、とか、そーんなハリケーンの目の中で作業だって?とか、突然のラブシーンサービスとか、まあ盛りだくさんの海洋冒険小説。寝る前にちょーっとずつ読んでいたので、人名とか関係性とかあいまいになって(私の寄る年波によるせいですが)、読み進む途中はなかなかしんどい感があったけど、終盤に近づくにつれ、おお、面白いじゃないか。B級活劇。でもまあそんなに簡単に引きあがらないと思うぞー!

なお、映画のほうはかなり駄作だったとか。日本ではそれなりに観客が入ったらしいけれど。ダーク・ピットさん物もう一冊借りていて、次はもう少し早く読めるかな。むやみと長くかかって読み終えた夜、あっという間に前記の「神様」を読んだのでしたよ。

神様

神様著者 川上弘美

中公文庫

短編集。くまにさそわれて散歩に出る。と始まる表題作。

あだ名だと思う、と、それは実際に熊である生き物のことなのだ。とても大きくて、三つ隣の305号室に引っ越してきて、引越しそばと葉書十枚を同じ階の住人に配るという配慮の行き届いたくまなのである。

結論から言うと、とても好きな作品。ふわっと異世界を踏んで、ふっと帰ってくるような作品の集まりたち。

第9回(1999年) Bunkamuraドゥマゴ文学賞受賞
第9回(1999年) 紫式部文学賞受賞                      なのだそうだ。この人のものは「センセイの鞄」ぐらいしか読んでいないと思う。もっと早く知りたかったよ。

二十歳よ、もう一度

二十歳よもう一度http://20again-movie.jp/index.php

監督 レスト・チェン

出演 ヤン・ズーシャン グァ・アーレイ チェン・ポーリン ルハン

韓国映画『怪しい彼女』(http://art-container.net/movook/archives/560参照)の台湾版リメイク。

どうにも渡辺美佐子さんそっくりに見える帰亜蕾 グァアーレイさんが、口うるさい姑でもあるおばあちゃん、その若返った姿が楊子姍ヤンズーシャン。歌手でもあるそうで、達者。孫役は、韓国のアイドルユニットの一員だった鹿晗ルハン、なので韓国アイドル顔に作りこんである感。そして、音楽プロデューサー役は陳柏霖 チェンポーリン、あの『藍色夏恋』の少年も、すっかり大人なのねー、と、古くからの中華映画ファンは思いますのさ。

『怪しい彼女』のポスターだと思われるものが、ベンチの後ろに大きくある、とか、青春写真館のショーウインドウに、ん?昭和の皇后さま?だったと思うよ、三日月に腰かけた姿でちらっと。などと、なんだかちょっとしたくすぐりがある、もっとほかにもあったのかもしれない。

ストーリーは、韓国版とほぼ同じ。台湾語の混じらない中国語映画は久しぶり、中国語学習者にお薦めしますよ。原題は“重返20岁”だと思われます。台湾らしいバラードがいろいろ聞けるのが楽しい。

日本では、倍賞美津子サンと多部未華子チャンでリメイクだって。ほとんど同じお話でも、やっぱりお国柄が出るもの、日本版も見たい。倍賞美津子サンと未華子チャンは全然似てないと思うけどね。

やたらアジア映画月間となりし今月でした。

雪の轍

雪の轍監督 ヌリ・ビルゲ・ジェイラン

出演 ハルク・ビルギネル デメット・アクバア メリサ・ソゼン

カッパドキアが舞台で、カンヌでパルムドール受賞、で、それは見てみようと思ったのだが、久しぶりに、私が見なくてもいい映画に当たってしまいましたよ。

名優ですよ。トルコの映画を見たのも多分初めてだと思うけど、シェイクスピア劇が似合いそう。で、カッパドキアでホテルを経営している、まさしく元舞台俳優、という役。悠々自適。

が、若い妻とも、同居する妹との関係も、うまくいっていない。・・・これが、語る語る。日本人だったら喧嘩売られたと思うほどズバズバ批判する、自己主張する。つい笑ってしまう。

家を貸している一家が家賃を払わない。恨みを買う。

もうねえ、だんだんもういいようるさいよいいかげんにディベートやめて離れようよ…と思ってしまうのだね、日本人としては。

ほぼ会話だけで進んで行く。

カッパドキアの岩窟の中のホテルには、泊まってみたいものだと思います。実際、日本人カップルが泊まっている設定。

箱入りの世界文学全集に今も手を伸ばす人には面白いかも。

シフト 恋より強いミカタ

シフト監督 シージ・レデスマ

出演 イェン・コンスタンティーノ フェリックス・ローコー

ウォン・カーウァイの『恋する惑星』になんか全然似てないじゃないか、眠たいよ、と、7割がたのところまでは思っていた。主人公の女の子がギターの弾き語りで歌う歌はなかなかいい。女の子のピンクの髪もきれい。

で、最後のシーンで、腑に落ちた、というか、うん、面白い、と思った。面白かった、ではなく。新人女性監督の作品だということも、なるほど。

英語圏向けの、商品のコールセンターに勤めるフィリピンの女の子エステラ。先輩の面倒見のいい男性が教育係としてつく。仲良く仕事をしていくうちに、だんだんとエステラの気持ちが恋になっていくけれど、彼はゲイだ。

なんだかなあ、ゲイ率の高い職場に見えたけどなあ、タイじゃあるまいし、そんなことあるのかなあ、フィリピンで。・・・ほー、監督のインタビューで、コールセンターは国際的な多様性を求めていて、ゲイ・レズビアンに寛容なのだそうだ。ただ、バイセクシュアルに対してはまだ偏見があるのだそうだ。

その職場でリストラにあったエステラが、やはり同じような職場の面接を受けている最後のシーン、その、最後の最後、質問される。「では、5年後、どうなっていたいですか?」

カメラマン?シンガーソングライター?何を目指しているのか今一つはっきりしていなかったんだよねえ、テーマってそれだったのねえ。

歌がとてもいいと思ったのもそのはずで、フィリピンでは有名なシンガーソングライターなんだって、彼女。

鹿児島にもフィリピン人たくさんいるのね、映画は英語交じりのタガログ語だったけど、小さなガーデンズシネマの外で待つ間、タガログ語交じりの日本語の会話の陽気な人たちがいました。

 

 

怪しい彼女

怪しい彼女http://ayakano-movie.com/

監督 ファン・ドンヒョク

出演 シム・ウンギュン ナ・ムニ イ・ジヌク

口うるさく、おせっかいな70歳のオ・マルスン、いかにも韓国のおばあちゃん、嫁を危うく病気に追い込むような押しの強い姑が、ふと青春写真館という看板を見て、遺影を撮ってもらおうと思う。

出てきたら、なんと二十歳の娘に戻っていましたのさ。

若くして夫を失い(「国際市場で逢いましょう」と同じく、夫はドイツに出稼ぎに行き、そこで無くなってしまった)、苦労して息子を育てた。さて失われた青春を取り戻す時間が始まる。

孫のバンドのボーカルがいなくなったばかりだった。オ・ドゥリと名乗って歌手としての活躍が始まる。

歌はなかなかうまいので、誰かプロの歌で口パクしているのかなあと思ったが、シム・ウンギュン自身がボーカルとダンスのトレーニングをしたのだそうだ。

見た目はピチピチガールでも中身はおばあちゃんなので、さまざまとっ散らかって周りを混乱させる。そう珍しくも無い話の作りなのだが、これがみなさん達者、客席から笑いが起こる、遠慮なく私も笑える、終わり近くにはウルウルさせる、よくできた映画でありました。

最後のシーンで、マルスンの家の使用人だったころから彼女に恋心を抱いていたおじさんが、青春写真館に入って出てくるとこれが!そしてバイクでマルスンを迎えに行き…と、なるのだが、映画館を出て原付で家に帰る私には妙におかしい気分なのでした。

祝宴!シェフ

祝宴!シェフ監督 陳玉勳

出演 林美秀 キミ・シア 楊祐寧(トニー・ヤン)

恋人だった男の保証人のハンコを押したために借金取りに追われる羽目になった娘。実家に戻ると、母親も夜逃げしたらしい。隣人に聞いた場所に出かけると、食堂の前で踊って集客しようという目論見の母が。

亡くなった父親は高名な宴席料理人だったが、母には料理センスが無く、娘は食堂をやる気が無く売れないモデルをやっていたのだ。

ふらりと現れる料理ドクターを名乗る男。

父を訪ねて老夫婦がやってきて、昔ながらの料理を、自分たちの結婚式で食べたいと言う。

娘シャオワンは、賞金の出る全国宴席料理大会出場を決め。

そーんなことありますかいな! な運びではございますが、妙な脇役をあちこちに配置して、テンポ良く適当に歌うわ踊るわで、楽しく観てまいりました。さすらいの料理ドクター役のトニー・ヤンが、喇叭がどーたらという歌詞の歌を歌うのだが、どうもその歌詞が怪しい。台湾コメディーにありがちな下ネタ歌詞であられ。最後のあたりで、さあ皆さんご一緒に、な勢いになるのだが、歌えるか!と思うが台湾では観客が合唱するのか?もしかしたら。

まあとにかく、お腹空きましたよ。どれも美味しそうで。台湾に食を楽しむ旅行に行きたくなる映画です。

国際市場で逢いましょう

国際市場で逢いましょうhttp://kokusaiichiba.jp/

監督 ユン・ジェギュン

出演 ファン・ジョンミン キム・ヨンジン イ・ダルス

1950年ごろの朝鮮戦争時の混乱の中で、父・妹と離れ離れになったまま、母やほかの弟妹と釜山に避難してきたドクス。釜山の国際市場のコップンの店を訪ねるよう父に言われた通り、伯母の店で世話になる。

父の言葉を忘れず、家族を守るための労働にいそしむドクス。弟は頭が良く、ソウル大学に合格する。学費を捻出するため、親友ダルグと共にドイツの炭鉱で働くことになる。そして、そこでやはり韓国からやってきて看護婦をしていたヨンジャと出会う。

ダンスパーティでツイストを踊っているシーンなど、60年代の日活の映画、浜田光夫と吉永小百合のあたりの景色のようでもあり、日本にだって悲惨な炭鉱労働はあっただろう…が、朝鮮半島は1950年にはまだ戦争をしていたし、後の70年代にはベトナム戦争に参加した兵士がいたのだ、と、改めて思う。

戦争ということが、国の発展を妨げるのだ。それが、この映画を見ていて一番強く思ったことだ。安保法案成立で、早速武器の輸出が可能になったらしい我が日本。あー、そういうことで経済界が儲かるのか。そして結局戦争に巻き込まれ、儲かった少数がいて、そのほかの多くは貧しさに沈み、這い上がるまでに無駄に時間を要する。

兵士としてではないが、戦時のベトナムに仕事に行く。家長として妹の結婚費用を稼ぐために。

伯母の死後、買い取ったコップンの店を、どうしても手放さない頑固爺さんのドクスと、それぞれの時代の姿が行き来して描かれる。すごい老けメイクで、これ、別人?ではないか、と確かめてしまうほど。

結婚式のシーンでヨンジャが歌う『黄色いシャツ』は、大昔に日本でも流行ったもの。オッチョンジー ってどういう意味なんだろう?後の人気歌手の役で東方神起のユンホが出ていて、何だったかほかの韓国映画でも聞いたことのある歌を歌う。サービス出演?ナムジンという実在のその歌手に救われた設定のため、ドクスはずっとナムジンのファンなのだ。実業家やデザイナーなど実在の人物がそちこちにはめ込まれている。

家族を描いた作品を観終わったひとりもののわたくしでした。

 

 

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