新聞記者

https://shimbunkisha.jp/
監督 藤井直人
出演 シム・ウンギュン 松坂桃李 北村有起哉 田中哲司

東都新聞の記者、吉岡に届いたある文書。そこには大学新設に関する情報が。と言う時点で観客は、某総理のお友達の某大学のことを思うわけで。
もう一人の主役、内閣情報調査室の官僚、杉原。政府の方針にとって都合の悪い情報を攻撃、コントロールするという使命を与えられ、葛藤している。

よく似た名前で出てくる、レイプ告発事件の女性、演技しているのは女優だけど、写真は、本人の詩織さんだったよね?『BlackBox』の。

映画の中のTV映像に、元文科省官僚の前川喜平さんや、この映画の原案となったものを書いた望月衣塑子さんなどの対談が出てくる。

杉原の尊敬する先輩が、ビルから身を投げて死ぬ。

吉岡という女性記者の母が韓国人と言う設定で、少し訛りがあるが、気になるほどではない。その父も記者だった。自分を信じ、自分を疑え、と言う言葉を残している父。

内閣情報調査室 というところの事情が完全にフィクションなのか、なにがしか事実がらみなのか、そんなところに関わっている人が近くにいたとしても、教えてくれないだろう、否定するだけだろうけれど。ツイッターでは実際、現政権寄りの意見を呟くアルバイトを募集しているようだ。
立場の違う二人の主役がいて、そこのところの飲み込みの悪かった私は、初めちょっと混乱した。が、どんどん緊迫していって、内閣情報調査室のボスの田中哲司が、怖ええ!『コクソン』の時の國村隼と並び立って勝つかもしれない怖さ。私から助演男優賞を進呈しよう。全然届かないけど。
松阪桃李はそもそもとてもうまい役者だし、シム・ウンギョンは、あれ?もうちょっと可愛い女優だよね、と思うほどに、ダサい加減のつんのめるような記者を演じている。最後の最後、スリルとサスペンスのピークで!おーい!
何と言った?その唇の動き。

面白かったですよ。
口コミで広がっていて、上映二日目の、39席の小さな映画館ガーデンズシネマにちょっと早めに行ったつもりだったけれど39番目。補助席もあった満杯ぶりでした。

旅のおわり世界のはじまり

https://tabisekamovie.com/
監督 黒沢清
出演 前田敦子 加瀬亮 染谷将太 柄本時生 アディズ・ラジャボフ

ウズベキスタンの大きな湖に住むという怪魚を撮影しようとやってきた日本人クルー、リポーターの葉子。幻の怪魚はそうそう見つかるものではなく、イライラを募らせるディレクター。

日本人のスタッフの思いはどこへやら、のんびりマイペースな現地の人々。日本人流を通そうとするディレクターの態度に観客のこちらがイラッとすること数回。
そしてTV界で仕事をするってこんなに過酷な要求に、はい、とお答えして逆らうことなく屈託のない笑顔をカメラに見せる、それが普通なんだろなあ。

その国の人と交流しようという気も無いのに、バスに乗ってバザールに買い物に行く葉子さん、どうやってちゃんと帰って来ることができるのか、方向音痴のワタクシにはわっかりません。そうやって出かけた先で、かすかな歌声を耳にする。それを追いかけて、劇場に入っていく。現実と葉子の幻想とおもわれるものが交錯するシーン。本当は舞台で歌いたい、演じたい葉子の夢。

人んちの国で自分ち流やってるとそんなことにもなるだろうよやっぱり、という事件も起こる。そんなんで済んで良かったよ。

山羊がかわいそうだと言って野に放つシーン、どうも納得がいかなかったのが、最後の方で生きてくるしかけ、サウンドオブミュージックか!と言う景色の中、歌うあっちゃん。

ヘンな映画です。自分探し、と言ってしまえばそんな作品なのですが。好き嫌いは分かれるでしょう。景色、シルクロードの中心地だったというだけある建物たちはとても美しく、行ってみたいという気になります。
前田敦子サンの映画はこれ以前には『もらとりあむタマ子』だけしか観ていないのだが、その一昨で、前田敦子は女優だ、と認識した。特にウズベキスタンなんて国にいると子供みたいに見えるのも無理はない、そんな普通の女の子が、撮り方によって?なのか、あ、美人なんだ、となる。
えーと、あのスカートの下にライン入りのジャージを着てるって、何?ファッションですかい?年寄りには理解不能。

リポーターは反射神経でできるけど女優は、という発言、あーそうなんだ、と。
黒沢清って怖い映画作ってる監督だよね、新境地なのでしょうか。

通訳の人、ウズベキスタンの有名俳優なんだって、そして日本語は全く知らないところからたくさんの日本語のセリフをマスターしたらしい。すごーい。

オスロ警察殺人捜査課特別班 アイム・トラベリング・アローン

著者 サムエル・ビョルク
ディスカヴァー文庫

オスロの山の中で、木からぶら下がった幼い少女が発見される。“I’m Traveling Alone”と書かれた札を下げて。

ミステリーと言えば北欧、と言う感になってきたこの頃。これはノルウェーからやってきた。
殺人捜査課特別班のミア・クリューゲル、その上司ホールゲル・ムンク。その背景が細かく作りこんである。犯人の側についても同じく。最後の最後まで、読者にミスリードを誘う仕掛け。

友人から貸し出されたもので、700ページを超える分厚い文庫本、それもこのシリーズ第2作の『フクロウの囁き』まで続けて読んでしまった、結果、結局誰が犯人で何だった?な、始末でござりましたのは、こちらの脳味噌の老化によるものだろう。面白かったから続けて読んだのだが。
映像化されることを狙って書かれたかと思う。ただ、主人公ミアが、ある事件によるトラウマから回復していない状態が、一作目と二作目で何一つ変化が見られない、てのはどう?だからワタシはもう一回700ページ2冊をめくり返すことになったじゃないか・・・と申すと八つ当たりか。2冊のテイストが似すぎてるとは思う。今後、なにかしら変化は起こるのだろうけれど。

北欧というと福祉など充実しているというイメージなのだけれど、やはりいじめがあり、ネグレクトがあり、教師の事なかれ主義も存在するものなのね。

ディスカヴァー文庫と言うものを初めて知った。基本ネット扱いであるらしい。
次作に出会う機会があれば読みたいと思う。次回作が待ち遠しい、というほどではない。ドラマ化されるほうがいい。

蜜蜂と遠雷

著者 恩田陸
幻冬舎文庫

3年ごとに開催される芳ヶ江国際ピアノコンクール、その出場者たち。
自宅にピアノが無く、優れた音感を持つ風間塵16歳、かつて天才少女としてデビューしたけれど、母の死によってステージに立てなくなった栄伝亜夜20歳、音大出身とは言え今は楽器店に勤める高島明石28歳、優勝候補と目されるのはジュリアード音楽院のマサル・C・レヴィ=アナトール19歳。

そのほかもちろん世界中から集まるコンテスタント、そしてそれを審査する審査員たちの心の動き。

あークラシック音楽に造詣が…浅すぎて残念であります。アニメの『ピアノの森』はずっと追いかけていたのだけど。あれは演奏が聞けたけど、文章だとだいたいの感じしかわからない悲しき我が身。
ではありますが、さすが直木賞・本屋大賞W受賞作品、一気読みとなりました。『ピアノの森』を知っている人なら皆、塵とカイが重なったことでしょう。音楽界、もっと自己主張の強いライバル意識あからさまなものではないんだろうか、と感じないことも無い(そういう人も出てくるけど)ながら、あの、ちょっとつらい人にお勧めです。今ちょっとしんどい人、別世界に飛んでしばし現実を忘れます。

新聞記者

著者 望月衣塑子
角川新書

観たいと思っている同名の映画の原作(と言うわけではなくおそらく女性記者の在り方の原型?)と知って、読んだ。東京新聞の望月衣塑子記者の名前は、しばしば目にしていた。菅官房長官の目の敵、しばしばその質問を遮られてしまう孤軍奮闘の記者として。

お母さんの影響で子供のころから小劇場の芝居を観ていて、児童劇団に入り、女優を目指していた少女。それが。やはりお母さんに勧められて読んだ、吉田ルイ子さんの『南ア・アパルトヘイト共和国』によって、ジャーナリスト志望に変わっていく。
大学入学、留学を望んだけれどTOEFLの点数に愕然、まずそこから努力を始める。
大概誰でも知ってるよね、就職でマスコミを狙うことがどれほど大変なことか、なんて。なんだかんだで東京新聞に入社。そして就職するよりそこで記者として働くことの方がなんぼか大変なことなわけで。いわゆるサツ回りではある県警第一課の人が毎朝走っていることを知り、朝5時前にその人のマラソンコース手前で待ち伏せ、一緒に走る。とか。
東宝根性無しで申し訳ございません、でございます。根性と体力がまず基本ですね、仕事というものには。
で、歯科医師連盟のヤミ献金疑惑事件、武器輸出、そして我々も知っている森友、加計問題、前川前事務次官、伊藤詩織さんのレイプ事件、などなどへ。そのころに私も某SNSなどで著者の名前をしょっちゅう目にするようになりました。なぜそこを追及するほかの、記者はいないのか?ほとんどが男性記者だから、記者なんだけど政府の意向とか会社の意向とか生活とかかかってる??

他社の同業者と結婚していて子供もいるんだ。そりゃあすごい。どういう時間の使い方なんだか。なんだか。なんだか。この日本で。いや、そんな人はたくさん存在しているのだろうけれど。

「質問は簡潔にお願いします」と、菅官房長官に質問する彼女に対して側近の誰かがすぐ口を挟む。何度もそんなことが繰り返される。

あー、韓国の女優シム・ウンギョンと松坂桃李の映画、観たいなあ。

キングダム

https://kingdom-the-movie.jp/index.html
監督 佐藤信介
出演 山崎賢人 吉沢亮 本郷奏多 大沢たかお 坂口拓

原泰久原作の漫画は読んでいない。アニメは何とか追いかけていた。

春秋戦国時代の秦国。孤児の信と漂は、奴隷生活の中、いつか大将軍になることを夢見て、剣の訓練に励んでいた。通りかかった大臣が、漂だけを連れていく。
時が過ぎ、ある日、血まみれの漂が信の寝泊まりする納屋に現れ、地図と剣を渡してそこへ行けと言い、息絶える。
走り出す信、小屋にたどり着くと、そこには漂そっくりの男がいた。

下手にアニメを見ていたから、山崎賢人?と思ってしまう。漂・ 嬴政(のちの始皇帝)二役の吉沢亮は誠に美しい。山の民の王・長澤まさみ、貂の橋本環奈はむさくるしく血なまぐさい中のアクセント、息抜きかな。本郷奏多憎ったらしい、ああ怪人二十面相の小林少年が。
が、何と言っても大沢たかお!凄い造形、発声。あの声、機械操作もしているかな。若いころの大沢たかおがこんな風になるとは思わなかったよ。そして、アクション好きの人たちが『RE・BORN』と言う作品の彼を絶賛していたので、さあどこにどんな風に出てくる?と心待ちしていた左慈役・坂口拓。なるほど。なるほど。

みなさんよくアクションの訓練をなさって、頼もしい限りでありますよ。なんだかニヤニヤしながら見てしまうね。続編あるんじゃない?
エンディングがONE OK ROCKでした。ああ、若いカップルか少年たちしかいなかったよ、そんなこと初めてだった。

風のベーコンサンド

著者 柴田よしき
文春文庫

ペンションブームってものが、かつてありました。清里が有名でしたね。霧島にだってありましたよ。ウォーキングしてペンション一泊するという企画があって、参加したことがありました。

で、バブル崩壊と共にペンションブームも去りました。建物だけが残りました。
その建物を利用して、カフェを開業した菜穂。東京の出版社を辞めて。

お・い・し・そう!な食べ物がいろいろ出てきます。地元で生産された食材を使って。生産者の誰かに、何かしらの事情があったり、菜穂自身も、モラハラ夫が離婚を承諾しないという問題を抱えながら、道を求めて来た経過があったり、さわやかな風ときれいな花が咲くばかりとはいきません。シンプルにベーコンを焼いて焼きすぎないでそれだけのサンドイッチを食べたくなります。サラダにモミジイチゴを飾るって、私にはできますよん。モミジイチゴの葉っぱがあちこちから出てくる某所にしょっちゅう出かけるもん。

傍目にはわからないけれど皆何かしら重たいものを抱えている時期がある、そういう大人に優しいお話。続編も出ているらしい。柴田よしきのSNSをフォローしているのです、おいしそうな夕食がしばしばアップされていますよ。どうしてそんな時間を作れるのだろうと、忙しい時期には手抜き料理続きになる私は思います…。田舎暮らしは、良いことばかりではないしそんなにうまくは、などと言うことはまあ横に置いて、気持ちよく読めます。

芳華 Youth

監督 フォン・シャオガン
出演 黄軒 苗苗

七十年代後半の中国、人民解放軍の中に文芸工作団という、ダンスや歌で兵士たちを鼓舞する部署があり、一人の少女が入団する。彼女は故郷ではつらい立場にあり、希望を抱いて入団するが。

バレエを基本にしたダンスの技術はみんな高いんだけど、なんたって戦意高揚のためのものは、京劇的な動きや民族舞踊的なニュアンスや、そんな中で銃を手に踊ったりするわけで、日本人が見ると奇妙に映る。現代の中国人が見ても違和感があるかもしれない。
そして、どこにでもいじめがある。恋愛もある。

この時代の軍隊だと敵として台湾を想定したものだろうと思っていると、突然ベトナムとの戦いが勃発する。世界情勢に疎いとピンとこなかったが、そういえば中越戦争と呼ばれるものがあった。中国はあのカンボジアのポルポト政権を支援していた国だった。カンボジアがベトナムに侵攻し失敗、ポルポト崩壊、に対し、報復…なんじゃそれ!戦争のきっかけなんてきっと後の時代から見ればなんじゃそれなことばかりなんだろう。そして悲惨な事態。
戦争においては英雄と呼ばれても、精神を病んだり、腕を失ったり。

私は日本で恋をしたり別れたり、ごく個人的事情によりややこしかっただけのあの時代、ちょっと海を隔てた国ではそんなことだったのだ。

そして時を経て、10年後ぐらいともっと後、現代の様子まで語られる。

とても良かった、と、中国語講座の時間に言ったら、先生が、何が、どこが良かったか、と聞く。北京出身の彼女は、ちょうどその世代、嫌なことを思い出す、観るのが嫌だ、と言うことだった。

いつも人助けをしている良い男なのに世渡りが下手、という役の黄軒が、すでに腰を痛めて踊ることは無くなっているが、ちょっと練習相手をやるシーンがある。こんなに美しい形で踊れるぐらいの訓練を中国の俳優はみんなやるのだろうか、とびっくりしたが、もともと彼は舞踊学院出身なのだそうだ。

共犯者たち

監督 チョ・スンホ

イ・ミョンバク(李明博)とパク・クネ(朴槿恵)政権の間に行われた言論弾圧、マスコミに対する報道規制の状況を、マスコミ内部にいて排斥された側の人から告発するドキュメンタリー。
こういう問題になると、韓国人のあきらめないしつこさ、食い下がり方が、正しいと思う。共犯者たち と言うタイトルは、主犯である政府側に対して、マスコミの上部がその政府の脅しに屈してしまうその様子から。

ABE政権下の我が日本で、つい最近NHKの偉いさんとして返り咲いたお方が政府との太いパイプをお持ちの方だそうだ。ヒャクタと言う名の売れっ子作家さんもなんかNHKの関係だったね。ネトウヨの標本みたいなご意見を垂れ流しているお方。SUGAさんに質問すると数十秒かそこらで質問は簡潔に、とか脇から突っ込まれる忖度しない女性記者さんがいたり。その女性記者をかけらも援護しない男性記者たちの姿とか。じわりじわり嫌ーな感じが迫ってきている。不祥事が一つしかない政府はつぶれるが、次々に起こると皆マヒして不感症になるのだそうだ。

と、いうようなことを思い起こさせられずにおかない。こういうドキュメンタリーに対していっていいかどうかと思うが、実に面白かった。残念ながら、私が観た回の観客は二人だったが。

バジュランギおじさんと、小さな迷子

監督 カビール・カーン
出演 サルマーン・カーン ハルシャーリー・マルホートラ

インドにひたすら人のいい男がおりました。学校の成績はあまり良くなくて、何年もかかって卒業、そして仕事を求めて都会に出ていきました。
ある日、迷子になったパキスタン人の小さな女の子と知り合います。その子はしゃべることができません

何ともかわいい女の子、しぐさがとってもチャーミング。彼女は母親と共に、そこにお参りすると願いが叶うというお寺に行くために、列車に乗っていたのだが、停車したときに子ヤギを見かけて降りてしまい、列車は行ってしまったのだ。

インド・パキスタン問題について、私はほぼ無知であるなあと、思い知る。第二次世界大戦後、イギリスから独立したインドだったが、ヒンドゥー教徒が多数を占めるインドと、イスラム教徒のパキスタンに分裂することになった、と言う経緯、そしてその後もなにかと争いは絶えることが無い。
印パ戦争、パキスタン分裂、バングラデシュ独立、という経緯だけはわかっておこう。

様々ありまして、悪い人もおりまして、男はビザやパスポート無しで、なんとか女の子をパキスタンの親元に送り届けることを決意します。
自分の宗教に忠実であろうとする彼は、そんな中でも嘘をつかず、ズルをしないで突破しようとします。
とんでもないことです。

インド映画らしく、突然の踊りや音楽もたっぷり、どうしてあんなに良く動く肉体なのだろうね、決して西洋的にスポーツジムで鍛えた、と言う体型では無いのに。
宗教の対立の深さ、でも個人レベルではこだわりなくお互いに違う神様に対する挨拶を交わすシーンもあり。
インド、パキスタンと言うと暑い場所だと思っているととんでもないよ、山は雪だよ、というロードムーヴィーでもある、心地よく泣けるお話。