神去なあなあ夜話

神去なあなあ夜話三浦しおん
徳間文庫

前作に「神去なあなあ日常」〈http://art-container.net/mbblog/diarypro/archives/233.html参照〉があり、その後日譚。

お気楽にテキトーにフリーター人生に突入するつもりだった若者が、林業の世界に放り込まれ…で、そのうちその世界になじんでそれなりに成長を遂げ、というお話のその後は?
パソコンに向かって文章を入力しているだけなのだが、一般読者が存在している、という妄想のもとに書き進んでいる、ことになっている。

高齢で足が悪く大概茶の間にちんまり座っているはずの、繁ばあちゃんが、いつの間にかパソコンの扱いを覚えて、デートの事情を盗み見られたり。

昔ながらの儀式や決まり事を守って生活している田舎の、のどかそうな日々の中にも、辛い過去や、事情が隠れている。少しずつ垣間見えてくるなにやかやを受け止めながら、少しずつ山仕事の人間になりつつある平野勇気クンなのである。

先日、半分眠りながら聞いていたラジオの深夜放送の中で、林業の世界に入りたくてストーカーのように押しかけ、無理やり目的の会社に入った女性の話があった。可愛らしい声の、若い女性、しかも東大農学部卒!仕事道具はチェーンソーや刈り払い機!

ほとんど死に瀕していた林業が、復活の兆しを見せているらしい。森林もきちんと人の手が入ってこそ守り育てられる。若者が、女性が、その世界に進出してくれているのは心強い限りであります。

勇気くんの成長物語としては前作のほうがより面白かったのではありますが、まあ今後続いていくことを期待して、次回作もまた!

この国のかたち

この国のかたち著者 司馬遼太郎
文春文庫

まだ第一巻を読んだだけだし、読み進めるつもりだから感想を書くには早い、と思うが、とりあえず。
かつて文藝春秋の巻頭随筆として書かれたもの。

日本は世界の他の国々とくらべて特殊な国であるとはおもわないが、多少、言葉を多くして説明の要る国だとおもっている。

昭和10年から20年にかけての日本の歴史、日露戦争に勝利した後の軍部によって「統帥権」というものに勝手な解釈がなされた結果、その10年が「鬼胎」の時代となったという。
単行本として出版されたのが1992年、今から思えば当時の日中関係など蜜月と言いたいぐらいだ。今や反韓本が書店に並ぶは、馬鹿なデモはあるは。日中・日韓の関係は、観光客はともかく、政府間では歩み寄りようのない様相に見える。
そして、その状況を産んだのが日本の歴史の中のたったのその10年の中にある、ということか。

中国に生まれ、朝鮮半島に厳格に伝わった朱子学が、日本にはあまり影響を与えなかった、そのために隣国の人々との精神のあり方が違う、それが隣の国の人から見て無礼に見えてしまうこともあるか。

我が身の日本歴史についての無知により、なかなか頭に収まらないことは多々あるとはいえ、大変に面白い読み物である。…などと言うもおこがましいことでありますが。

司馬遼太郎没後20年の企画でNHKが特番を組み、この本がまた読まれるきっかけになったものらしい。私の若いころには何かの雑誌を開くとそこに司馬遼太郎の名前を見たりその顔を見たりしていた、切れ切れに文章を目にすることは多かったが、ちゃんと読まずにきたその方はまことにすごいお方でありました。

リザとキツネと恋する死者たち

リザとキツネと恋する死者たちhttp://www.liza-koi.com/
監督 ウッイ・メーサーロシュ・カーロイ
出演 モーニカ・バルシャイ デヴィッド・サクライ ゾルターン・シュミエド

ハンガリー映画、で、トミー谷という、かつて人気があってもう亡くなった歌手が、なぜか出てきて。という程度の、なんか変な映画らしいという情報だけで観た。

なんじゃこりゃ!なんだって九尾の狐、何ゆえ那須?ハンガリー映画だっちゅうに何やらヘンテコな日本語が出てきて。トミー谷という歌手は全然トニー谷(知らない?昭和30年ぐらいまでに生まれた人しか知らないか、という歌うコメディアンですよ)には似ていない、この名前は偶然の相似なんでしょう(か?)。

元日本大使夫人の、住み込み看護婦リザ、夫人が好きだった今は亡き歌手トミー谷の姿が、リザにだけは見える。日本の恋愛小説を読み、その恋愛にあこがれている。
リザの留守中に、夫人がベッドから落ちて亡くなる。その後、リザが出会う男出会う男、みんな死んでしまう。妙な男ばかりだ。鯉のメープルシロップ煮が好き(!)な男とか。その男は鯉の骨をのどに引っかけて死ぬのだが。

で、夫人の親族は、リザが夫人のお金を取るため殺したと主張し、警察はその後の男たちの死は彼女が仕組んだものかと疑い。お金が無くなったリザが下宿人を置くことを思いつく。そこへ、刑事のゾルタンが、監視のために下宿人となる。

あれやこれやの合間にトミー谷の妙なダンスと日本語の歌が入る。

だから何だって?

監督が映画祭で日本に来た時に、那須が気に入ったらしい。その時に九尾の狐伝説を知ったらしい。

そりゃもういろいろ日本のポップスを研究したらしい。

かつて、鈴木清順監督が中国のチャン・ツーイーとオダギリジョーで『オペレッタ狸御殿』という妙な映画を撮り、カンヌで特別招待作品として上映された。こーれをカンヌに持って行ってだーれが理解する?という作品でありました。それと双璧を成すようなナンジャコリャ映画であります。でも、ハンガリーでヒットしたんだって。どこかの映画祭で賞を獲ったんだって。

メックバーガーという店で蟹バーガーなるものを食べるシーンが何度か出てくる。時代設定は70年代で、その頃のハンガリーは社会主義国、バーガー屋さんとか小道具の雑誌メトロポリタンなどは存在していなかったって。まあそういうことを頭に入れて観たほうが、こんな映画が誕生するわけが、わかる、かなあ?

とにかく、印象には残る、長く話のタネになりそうな映画、です。

手から、手へ

手から、手へ詩 池井昌樹
写真 植田正治

やさしいちちと
やさしいははとのあいだにうまれた
おまえたちは
やさしい子だから
おまえたちは
不幸な生をあゆむのだろう

と、始まる一篇の詩を、見開きの左側には植田正治の写真を配して、一冊の本にしたもの。

ずるいよ。この詩人も、この写真家のこともとても好きな私には、うっかり手に取って少し目を通してしまったら、もう手放せない気にさせる、そんな作りだ。

どこかで出あったら、手に取ってみてね。いい本だよ。

あやしい彼女

あやしい彼女http://ayakano.jp/
監督 水田伸夫
出演 多部未華子 倍賞美津子 小林聡美 要潤

オリジナルのは映画は韓国の『怪しい彼女』、その台湾版リメイク『二十歳よもう一度』、そして日本版『あやしい彼女』と、同じ内容の映画を見ること3作目。話はわかっているのに、十分楽しめました。ベトナム版も作られてるんだって。ドイツとか西洋のお国でもリメイクが計画されているらしい。

73歳の、バリバリのおばちゃんもしくはおばあさんが、町の写真館から出てきたら二十歳の娘になっていて、というお話。若くして母になって遊ぶ暇無く過ごしてきたおばちゃんが、青春を取り戻し、バンドの歌手になり。

多部未華子ちゃんキュート!本人が歌をレッスンして歌ったという。なんだかねえ、「悲しくてやりきれない」でうるうるしちゃいましたよ。そこまでうまいわけでもないのだけどね。おばちゃんは倍賞美津子と聞いたときは、なんで?全然似てない!と思ったものだけど、そう違和感ないのが映画作りってものか。

同じ内容でも、それぞれのお国柄に沿って作られていて、少し笑いのツボなど違って、何度でも十分楽しめる。(韓国人監督が中国の女優・周迅を主役に『猟奇的な彼女』のまずい焼き直し『更年奇的な彼女』を撮ったのと、どうしても比べましたさ、しかもあれ吹き替えしか上映しなかったし)

どれか一作だけ見た人、ちょっと見比べてみてもいいと思いますよ。

更年奇的な彼女

更年奇的な彼女監督 クァク・ジェヨン
出演 周迅  佟 大為

なぜだ?何故だ?ナゼだ?どうしてこの映画を日本語吹き替えで上映することにしたんだろう。しかも藤原紀香で。そして最後に華原朋美の歌が流れるって!

韓国映画「猟奇的な彼女」の監督、だから、日本で受けると思った・韓流作品と勘違いした客が来ると思った?

周迅は大好きな女優です。1974年生まれですが、20代で更年期症状を起こす役に、無理は感じないほどの童顔で小柄で、だけど顔に似合わない低い声が魅力の、とてもうまい女優さんなんです。
中国が韓流ブームだし、今の時代、こんな軽ーい作品が、大陸ではヒットするのでしょう。トン・ダーウェイも、いかにも人のよさそうな顔、いい味の俳優ですよ。ではございますが、せめて字幕で本人の声で上映してくれい!

韓国人で演じた方が絶対しっくりくるだろうという、素っ頓狂な設定。ウェディングドレス姿で大学の卒業式に出席、それで恋人にプロポーズするって、そして今はまだ結婚したくないと言われるって…あほな。それで若年性更年期になったと言われてもなあ。

まあなんとか最後まで見たらほんわかするんだけど、まことに残念な映画でございました。

やがて警官は微睡る

著者 日明恩
双葉文庫

『それでも、警官は微笑う』『そして、警官は奔る』に続く警官シリーズ第三弾。待やがて警官は微睡るたせたな、と書店にあって、待ちましたよもう出ないかと思った、と、買ってしまう。渋い警官とチャーミングな新入り警官の話だったことしか記憶にないほどの時間が経ち。
そしてああ面白い!

横浜みなとみらいJR桜木町駅前にオープンしたばかりのホテルが舞台。誰かの近未来マンガにありそうな性格奇形の白人双子少年たちが、にっこり笑って人を殺め、犯罪を楽しむ。
のだけれど、ナチスが戦時中にユダヤ人やポーランド人から略奪した財産や美術品を取り戻し、正当な持ち主に返す、という目的が、バックにいる老人にはあるのだ。

たまたまホテルで見合いをしていて、不調に終わった警視庁刑事の武本が、そこにかかわってくる。
ホテル内部関係者」に犯罪者がいることが、読者には早々と明かされ。

新入りだった潮崎は、今や三十三歳の神奈川県警警視、茶道宗家のお坊ちゃんにしてミステリーマニア、よくしゃべるというキャラクターはそのままだけど。

多国籍犯罪グループによるアメリカンコミック映画化作品にありそうな設定、の中に、若いホテルマンの(短期間での)成長とか、旧態依然とした警察体質とITの発達とか普通の人の普通の話が織り込まれ。

この話で生き残った犯罪者が二人いるのだから、いずれまた続きがあるだろうし、不調に終わったはずのお見合い話にも続きがあるはずで。お見合い、からの、恋愛を早くさせてください、待たせずに。

 

 

恋人たち

恋人たちhttp://koibitotachi.com/
監督 橋口亮輔
出演 篠原篤 成嶋瞳子 池田良 安藤玉恵

ほぼ最後まで閉塞感極まれる状態、最後の最後に、ここに至るか…と、いう、その終わり方、結局のところ観た者に残す感覚。

橋口亮輔の作品というだけで、ほとんど知識のない状態で観た。
通り魔殺人で妻を失った男、雅子さまの追っかけをしていた平凡な主婦、同性愛者の弁護士。恋人たち、というタイトルに対応するのはこの三人、と、言うことになるが。タイトルのイメージからはかけ離れたものだ。

脇の人間たちに、あるいは主役たちの誰かに、しばしば失笑してしまう。あからさまな詐欺師、詐欺にやすやすと引っかかる主婦。愚かさ、下品さ。無神経さ。

『渚のシンドバッド』『ハッシュ』大好きな映画たち。『ぐるりのこと』も良かった。あ、『二十歳の微熱』なんてのもあった。この「恋人たち」は、観なくても良かったかなあ、とどこかで思ってしまうまでの閉塞感、救いの無い。それにしても、健康保険を一週間分発行するなんてことが実在するのか。払える金額次第で。
男の職場に、手を差し伸べてくれる様子の人間がいるけれどそれにも何か裏があるのか?と、観る側が勘ぐってしまう。

そうして、最後、タイトルバックの空、を見ながらなぜかなぜか、一筋の清涼感らしきものを、受け止めてしまうというこの、妙な裏切られ方。

2015年キネマ旬報日本映画ベストテン一位。でも、そうそうひとさまにお薦めしません。橋口亮輔監督はゲイの人で、いつもゲイの出てくる映画を作っています。今回の主役はほぼ無名俳優たち。生々しい。

女が眠る時

女が眠る時http://www.onna-nemuru.jp/
監督 ウェイン・ワン
出演 ビートたけし 西島秀俊 忽那汐里 小山田サユリ

ひ・さ・し・ぶ・りに、うう~う、どこに連れて行かれるんだあー、という気分の映画を見たのだが、じゃあ前にどんな映画でそんな気分を味わったか?記憶にない。

作家の夫と編集者の妻が、リゾートホテルで一週間過ごすためにやってくる。と言っても、妻は仕事がらみなので、留守がちだ。
そこで見かけた初老の男と若い女性のカップルから目を離せなくなる作家。

どこまでが事実で、どこから作家の幻想なのか?男は何者で、この関係は何なのか?
作家は処女作が評判になった後、2作目があまり売れず、スランプであるらしい、が、なんでそんなにマッチョなお身体なんだかなあ。編集者の妻と作家の夫なんて私だったらそりゃあいやだと思うが、余計なお世話な話だ。

初老の男は、眠っている若い女の写真を撮り続けている。

創作につながる好奇心がくすぐられた、のだと思われる作家、それがどんどん、狂気をはらんだ空気をまとっていくのだが。

結局、何がどうだったのかわからないまま、なので、この映画、ダメだという人はいるだろう。
ビートたけしが演じなかったらいったい誰が?と、ちょっと考えながら見ていたのだが。ビスコンティの「ベニスに死す」の作家を思い出しつつ。
肉体美が過ぎることを除けば西島秀俊はぴったりだし、ほかのキャストもとてもいい。なんだかわけわからない極致のリリー・フランキーとか。

香港生まれアメリカ在住のウェイン・ワン監督が、スペインの作家ハビエル・マリアスの短編を、日本で撮ることを提案したのだそうだ。コン・リー、ジェレミー・アイアンズの「チャイニーズ・ボックス」「スモーク」「ジョイ・ラック・クラブ」などの監督。そしてエンドロールに台湾映画「恐怖分子」の女優コラ・ミャオの名前が!監督の奥さんになっていたんだった。

原作を読みたくなって探したのだが、短編なのでそれにくっつけて映画のノベライズまでで本になっていた。それは要らないし。

曖昧模糊としたところに連れて行かれるが嫌いじゃない人と、退屈だという人に二分されるだろう作品です。

魔法の色を知っているか?

魔法の色を知っているか著者 森博嗣
講談社タイガ

ヤングアダルト向けの文庫だな、講談社タイガって。
抜歯した後のクッソーな痛みは治まったけれど、まだジーンとうずいている状態の時って人のやる気を失わせる、ので、何か軽い物でも読んでぐうたらしよう、と、選んでみた。

Wシリーズというものの2冊目だそうだ。でもこれだけでも十分読める。
今のまま、感覚の鈍い政治家たちに任せていたら、いずれそんなことだろうか、という、生殖による方法では、ほぼ人類が増加しなくなっている近未来が舞台。その分、とっても長生きしている。が、チベットのある地域で、まだ子供が生まれているらしい。その、特別居住区で、会議があり。

森博嗣のものは、S&Mシリーズ数冊、ともう少し、ぐらいしか読んでいないのだが、おーい、『すべてがFになる』の真賀田四季博士とつながっちゃったよ、困るじゃないか、いろいろリンクして伏線になったり、ほかを読みたくさせる名人なんだろうなあ。

一時作家引退していたはずだったのにね、この作家。

せっかく本の断捨離したのになあ、シリーズ一冊目の「彼女はホームで歩くのか?」も読みたいし。章の冒頭に出てくる引用文は何だ?と思ったら「ニューロマンサー」ウイリアム・ギブソン作、だそうで、それも気になる。ずるいぞ。

追記
読み返してみた、「えっと、彼は女性なの?」というセリフに気付いた。この作家が時々挟む遊び…。