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  • 山頭火著作集Ⅳ

    引っ越し前整理をしていると、押入れの天袋や階段下の物入れから何年も開いたことのないクリアケースや紙箱が出てきました。
    中に何が入っているか、開けてみるまで思い出せない大小の箱。
    子供たちのへその緒や母子手帳や予防接種記録カード、七五三の着物、保育園のランドセル、帽子、絵、工作物、落書き、「母の日」の造花のカーネンション・・・ほとんどが子育て時期の品々だったりして懐かしい思い出を喚起されたりするわけですが、中には全く思い出につながらない不思議なモノもあります。

    たとえば手書きの地図が書かれた紙切れ。数本の線だけで描かれているので、どこへ行く地図なのか、誰が描いたものなのか、何よりも何故捨てずにしまっておいたのか知りたいけど、もはや何一つ思い出せません。
    引っ越し前整理は記憶の発掘作業です。

    とっくに捨てただろうと思っていた紙切れも出てきました。
    クリップで止めたメモ用紙7枚。びっしりと“山頭火”の句が書き込まれています。
    日焼けして判読できない文字さえあります。
    そうそう、70年代後半は“山頭火”ブームだった。たぶん。
    少なくとも私の中ではブームだったようです。ロックが流れる居酒屋で、誰からか「山頭火著作集Ⅳ」を貸してもらい、それを小さなメモ帳にびっしりと書き写したのでした。
    その句を数えてみると、なんと126句!
    全部書き写す気だったのか?と若いころの自分に問い質してみたいところです。

    以下に126句の中から迷って迷って今の気分で選んだ30句を。

    山頭火著作集Ⅳ

    種田 山頭火

    分け入っても分け入っても青い山
    この旅果もない旅のつくつくぼふし
    笠にとんぼをとまらせてあるく
    まっすぐな道でさみしい
    雪がふるふる雪見てをれば
    また見ることもない山が遠ざかる
    百舌鳥啼いて身の捨てどころなし
    どうしやうもないわたしが歩いている
    誰か来さうな空が曇ってゐる
    すわれば風がある秋の雑草

    さてどちらへ行かう風がふく
    悔いるこころに日が照り小鳥来て啼くか
    遠山の雪も別れてしまった人も
    いつでも死ねる草が咲いたり実ったり
    月夜、あるだけの米をとぐ
    よびかけられてふりかへった落葉林
    ここまで来し水を飲んで去る
    ふっと影がかすめていった風
    何を求める風の中ゆく
    天の川ま夜中の酔ひどれは踊る

    日ざかり赤い花のいよいよ赤く
    夕焼雲のうつくしければ人の恋しき
    水がとんぼがわたしも流れゆく
    しんじつ一人として雨を観るひとり
    何を待つ日に落ち葉ふかうなる
    風は何よりさみしいとおもうすすきの穂
    風の中おのれを責めつつ歩く
    其中一人いつも一人の草萌ゆる
    何が何やらみんな咲いている
    ほととぎすあすはあの山こえて行かう

    「キングの死 ジョン・ハート著」と書かれたメモも出てきました。引出しにしまったままの夫のシステム手帳に挟んでありました。
    これは夫が入院中のベッドで書いたもの。「児玉清のおすすめの本だよ。読んでみたら」と言ってミステリー好きの私に渡してくれたのでした。
    その頃ラジオで児玉清さんの番組があり、夫もよく聴いていていました。
    児玉清さんはミステリーファンで、この「キングの死」を大絶賛していたことを思い出しました。本の方はどんな内容だったか、全く覚えていないのですが。