少年が来る

著者 ハン・ガン

出版社 クオン

表紙デザインが良い。その帯に、これは小説なのか、それとも実話なのか。と、ある。

数ページずつしか読み進められない。厳しい内容だ。光州事件 1980年5月18日から27日にかけて光州市を中心に発生した、市民による、軍事政権に対する民主化要求の蜂起。そのさなか、運動に参加した、あるいは巻き込まれた、誰かや誰かの、エピソード。

1980年に、隣の国では、軍事政権により民主化を求める人民が虐殺された、という現実。作家は一人一人のことをきちんと取材したのだろうドキュメンタリーのような描き方。インタビューはしなかった、見られる資料はすべて目にした、と作家は話しているという。現実に15歳中学三年生で殺された少年がいた、そのありようを中心に進んでいく。自国民を相手にしてかくも残虐な行為が。

映画『タクシー運転手』などで光州事件について多少のことは知っていた。文字によって、事細かくあらわされる陰惨さ。もう一度さっと読み返そうと思ったが、できない。このドキュメンタリータッチでありつつ幻想的でもある小説を、読み返せないただの読者の私がいるのであれば、書き手であるハン・ガンが、このあとたまたま縁があったポーランドで時を過ごし、『すべての白い物たちの』を書きあげたことを、ああ、そうか、と思う。書くことで負った傷をいやすための、時間と表現が必要だったと。

 

 

 

 

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