著者 楊双子
出版社 中央公論新社
ジュンク堂のレジ付近で平積みになっていましてな。近所の〇タヤにはそうそう無いお薦め本にお目にかかり。
舞台は昭和13年の台湾。作家・青山千鶴子が講演旅行に招かれた地で、通訳の王千鶴と出会う。青山千鶴子は実に健啖家であり、地元の食を求めて止まない。王千鶴は見識豊かな優れた通訳であるのみならず、優れた料理人でもあった。台中をベースにあちこちへ出かけた先での食事のほかに、台中に戻ると彼女の手によるさまざまな台湾の食を味わい尽くすことになる。
千鶴子は千鶴と友達として交流することを望む。が、千鶴の反応は芳しくない。むしろ避けられてしまう。当時、台湾は日本の植民地であり、日中戦争勃発後、とみに日本化を強要されていた時期である。首領国日本人である千鶴子は、無意識の中で台湾人千鶴のアイデンティティー、自負心を害してしまう時があったのだ。
この小説、ずいぶんと手の込んだ仕組みで成り立っている。そもそも“臺灣漫遊録”として昭和13年に書かれたものが、昭和29年に日本で出版された、と言う形に始まる。台湾での初版当時、それを楊双子が見つけ、中文に翻訳した、という売りだったらしい。楊双子さんは実際に姉・若慈と妹・若暉の双子の作家だったが、妹・若暉さんが2015年に30歳で亡くなったのだそうだ。そして、もともと百合小説の作家だったという。なんだかねえ、千鶴と千鶴子の間に妙に性的なニュアンスが漂ったりするのはなんだ?と思ったよ、読みながら。えーと、知らない方のための解説、『薔薇族』って雑誌がありましたのよ、ゲイの方のための雑誌、普通に書店に並んでいたので、つい手に取ると、中には百合族コーナーというものがありましてな、レズビアンの方のための交流コーナーでしたかな。今では、いわゆるレズビアンではなくもっと広義のシスターフッドを百合と呼ぶようですが、それが台湾でもそのように使用されている、らしい。
1977年に、アメリカ在住の王千鶴によって青山千鶴子の台湾漫遊録が翻訳された、というていである。そして千鶴の娘が1990年に少部数の自費出版として台湾で刊行した、と。なんと念の入った作りこみ。
聞いたことがある、知っている台湾料理のいくつかと、全く知らないたくさんの台湾料理名が出てきて、それに台湾語のルビが付いている。食べてみたいよ、そりゃ。せめてルーロー飯の地域による違いを味わいたいものだ。
差別、対等、とは?と考える小説なのだが、1945年以降に大陸から入ってきた中国人にとって、自分たちが上、台湾人は下、と見るのが当時は普通だったことを、東山彰良の小説で知った。数年前のコロナ禍での欧米におけるアジア人差別は記憶に新しい。戦争を始める人たちは、相手国のことを下に見ている、自分たちと違う未開人のように見ている、のだろう。


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