千千にくだけて

千千にくだけて著者 リービ英雄

講談社文庫

タイトルの「千千にくだけて」は、島々や 千千にくだけて 夏の海 という、芭蕉が松島を詠んだ句から。

日本で暮らし、中国や日本のことを日本語で書いて、時にアメリカの親族に会いに行く生活をしているエドワードが、カナダ経由でアメリカに行こうとしているときに9.11事件が起こる。国境が閉鎖され、バンクーバーに足止めされることになる。

アメリカ生まれの日本語作家リービ英雄の実体験をもとにしているであろう叙述は、例えば、飛行機の窓から見える海の景色に思う 島々や という言葉に、 all those islands  という訳文がこだまするという、言語の並立がいつもそこにあるものとなっている。母語しか自由に操ることができない身には大変興味深い。グラウンド・ゼロという言葉を聞き、ばくしんち という言葉を浮かべる、など。

表題作のほか9.11がテーマの2作と、台湾での子供時代を思い出す形の「国民のうた」が入っている。

母が「いくら日本人と一緒にいても,結局は死ぬまで外人として扱われるでしょう」と言うシーンが、一つの作品の中にあるのだが、アイデンティティーという言葉が、何やらすり切れたものに思えるような立ち位置を、見る気がする。

 

 

 

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