二人の桃源郷

http://www.kry.co.jp/movie/tougenkyou/
監督 佐々木聡
出演 田中寅夫 田中フサ子

山口放送が25年にわたり、山の中で暮らす夫婦とその家族を追いかけたドキュメンタリー。

山口県の山奥で、戦後まもなく自分たちの手で開墾して米や野菜を作っていた家族。子どもの成長などのため一時は大阪で暮らしたけれど、夫婦共還暦を越えて、また山の暮らしに戻る。電気も水道も通っていない場所。家はあるけれど、寝る時は、古いバスの中。

映画の始まりあたりではまだ70代、見た目は老人だけれどまだまだ力がある。水は湧き水を、燃料は薪を斧で割り、窯でご飯を炊く。
そのあたりでは、私は自分の将来をその姿に重ねていた。親の死後、私は父の育った家・土地の管理をし、自分の食べる分程度の野菜を作っている。ほったらかしておくと草が生える、というぐらいの理由から始めたのだけれど、今では週に2回は別宅(と呼んでいる)に出かけ、体力を使うことが息抜きになっている。

一年一年、老いていく。子どもたちは、そろそろ親を近くに迎えたいと思っている。それでも、やはり山がいいと、不自由になっていく体で山の暮らしを選ぶ夫婦。月に一度、親族が集まるようになる。

おじいさんが病気になる。夫婦で山のふもとの老人ホームに入る。でもやっぱり山で体を動かすのがいいのだ、施設から山に通うようになる。どこからそんな力が出るかと思うが、おばあさんも腰の曲がった体で急な坂を上り、おじいさんが好きなマツタケを探す。
三女夫婦が、両親の世話のため近くに引っ越してくる。

おじいさんの死。
認知症を患うおばあさんは、山でおじいさんはどこかと問う。おじいさーん、と呼ぶ。どこに行ったかねえ、と答える娘。

おばあさんが、床に就いた。娘が童謡を一緒に歌う。おばあさんも小さな声を出す。病室で童謡をかけている。

うちもそうだった。父が先に逝き、時にそれがわかっているようでもあったが、早くに認知症になっていた母は、お父さんは?とよく聞いた。いつも童謡をかけていた。まだ歩いて買い物に行く頃は、何かしら歌いながら歩いた。

高齢者の多い客席で、きっとみんな身につまされていただろう。

不自由ながら豊かな暮らし、良い家族の姿。
ナレーターは吉岡秀隆。

 

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