「猫を抱いて象と泳ぐ」
著者:小川 洋子
発行:2011年 文春文庫
数ヶ月前TTさんから、「狂気を感じる作品を書く作家」としておすすめされたのが、著者、小川洋子さんです。
私は遠い昔『博士の愛した数式』を1冊読んだきりだと話すと、「それ以後の作品で、、まずは短編集が読み易いかも」と教えていただき、さっそくAmazonに出向き本書を購入しました。
『猫を抱いて象と泳ぐ』というミステリアスなタイトルと表紙に惹かれ、いわゆるジャケ買いをしたので、本が届いて初めて本書が短編集ではないことに気づきました。まずは短編から、と勧められていたのに、、、400ページ近い長編小説を手にし、これはハードルが高過ぎやしないか?と心配しましたが、大丈夫でした。淡々とした語り口ながら繊細な描写で読み易く、まったく予測のつかない奇妙な物語にスルリと惹きこまれていきました。
デパートの屋上で飼われていた象のインディラは、大きくなり過ぎて永久に空中に取り残された。
うっかり壁と壁の隙間に挟まった少女は、隙間から出られなくなりミイラになってしまった。
廃車となった回送バスに住むマスターは太り過ぎて、最後はバスの乗降口から出ることができなかった。
「大きくなること、それは悲劇である」と知った少年は、大きくなることを恐れ、11歳の身体のまま成長を止めてしまう。そしてチェス盤の下に身を屈めてチェスを指し続ける。美しい駒の動きで美しい詩のような棋譜を生み出すために。
などなど常軌を逸したエピソードの数々がとても静かなトーンで、当たり前のことのように語られていて、何だか異世界の住人たちの物語のようにも感じられます。
チェスは知らなくてもチェス盤のあの白黒の格子模様を思い浮かべることができれば、その世界観を味わうことができる物語です。
本書を読んで思い出したのですが、私は子どもの頃(たぶん小学生の頃)大きくなることの恐怖を、夢で繰り返し見たことがあります。
夢の中で一個の物がどんどん大きく膨らんでいって、それは平仮名の「あ」だったり漢字とか図形だったり。夢の中の画面いっぱいに膨らんで、自分の内側から押しつぶされそうになる感じとでもいうか。
一時期、繰り返し見て、とても怖かった。忘れられない夢の一つです。もしかしたら成長期の子どもが見る夢あるある、なのか?それとも勉強への恐怖だったのか?今となっては分からない。