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「猫を抱いて象と泳ぐ/小川洋子」少年の奇妙な人生を読む

2024年08月19日   コメントを残す

「猫を抱いて象と泳ぐ」

著者:小川 洋子
発行:2011年 文春文庫

数ヶ月前TTさんから、「狂気を感じる作品を書く作家」としておすすめされたのが、著者、小川洋子さんです。
私は遠い昔『博士の愛した数式』を1冊読んだきりだと話すと、「それ以後の作品で、、まずは短編集が読み易いかも」と教えていただき、さっそくAmazonに出向き本書を購入しました。

『猫を抱いて象と泳ぐ』というミステリアスなタイトルと表紙に惹かれ、いわゆるジャケ買いをしたので、本が届いて初めて本書が短編集ではないことに気づきました。まずは短編から、と勧められていたのに、、、400ページ近い長編小説を手にし、これはハードルが高過ぎやしないか?と心配しましたが、大丈夫でした。淡々とした語り口ながら繊細な描写で読み易く、まったく予測のつかない奇妙な物語にスルリと惹きこまれていきました。

デパートの屋上で飼われていた象のインディラは、大きくなり過ぎて永久に空中に取り残された。
うっかり壁と壁の隙間に挟まった少女は、隙間から出られなくなりミイラになってしまった。
廃車となった回送バスに住むマスターは太り過ぎて、最後はバスの乗降口から出ることができなかった。
「大きくなること、それは悲劇である」と知った少年は、大きくなることを恐れ、11歳の身体のまま成長を止めてしまう。そしてチェス盤の下に身を屈めてチェスを指し続ける。美しい駒の動きで美しい詩のような棋譜を生み出すために。

などなど常軌を逸したエピソードの数々がとても静かなトーンで、当たり前のことのように語られていて、何だか異世界の住人たちの物語のようにも感じられます。
チェスは知らなくてもチェス盤のあの白黒の格子模様を思い浮かべることができれば、その世界観を味わうことができる物語です。

本書を読んで思い出したのですが、私は子どもの頃(たぶん小学生の頃)大きくなることの恐怖を、夢で繰り返し見たことがあります。
夢の中で一個の物がどんどん大きく膨らんでいって、それは平仮名の「あ」だったり漢字とか図形だったり。夢の中の画面いっぱいに膨らんで、自分の内側から押しつぶされそうになる感じとでもいうか。
一時期、繰り返し見て、とても怖かった。忘れられない夢の一つです。もしかしたら成長期の子どもが見る夢あるある、なのか?それとも勉強への恐怖だったのか?今となっては分からない。


「動き出す浮世絵展」プロジェクションマッピングありの体験型アート

2024年08月13日   コメントを残す

今、黎明館で開催されている「動きだす浮世絵展」観てきました。

「動き出す浮世絵展」

2024.7.19-9.1 9:00-18:00 黎明館にて

「動き出す浮世絵展鹿児島」:https://www.ukiyoeimmersiveart.com/kagoshima

江戸時代の風俗画「浮世絵」。
葛飾北斎、歌川国芳、歌川広重、喜多川歌麿、東洲斎写楽、歌川国貞など、名を知られた浮世絵師の作品300点以上をもとに、3DCGアニメーションやプロジェクションマッピングを駆使して現代アートとして作り上げた展覧会となっています。
名古屋・ミラノ・鹿児島の3箇所のみで開催!貴重過ぎる。

プロジェクションマッピングの部屋では全身に浮世絵を浴びることもできて、なかなか楽しいです。
9月1日まで開催していますので、夏休みの子供たちにお勧めしたい屋内イベントです。
嬉しいことに会場内は全て写真・動画の撮影がOKです。

8月21日、29日にはミュージアムトークも開催されるようです。(https://events.mbc.co.jp/#about参照

江戸時代「絵師」と呼ばれた風俗画アーティストたちですが、最近は漫画やアニメ、ゲーム、ライトノベルなどのイラストを描く人たちのことも「絵師」と呼んだりしますね。

江戸時代の「浮世絵」も現代の漫画やアニメなども、日本独特のポップカルチャーとして日本のみならず海外の人たちをも魅了しつづけています。そんなことをふっと思って嬉しくなったイベントでした。

「『戦前』の正体/辻田真佐憲」面白かったけど読了できなかった読書感想です

2024年08月09日   コメントを残す

著者:辻田 真佐憲
発行:講談社現代新書(2023/5/18)

「戦前」の正体
愛国と神話の日本現代史

神武天皇、教育勅語、万世一系、八紘一宇……。
右派が誇り、左派が恐れる「戦前日本」の本当の姿とは?
「国威発揚」の物語を検証するーー!

本書は神武天皇から始まる日本の神話が、明治維新から第二次世界大戦まで、いや、実は令和の現在に至るまで、どのように利用されてきたか?ということを近代史を追って考察したものです。

日本の初代天皇と言われる神武天皇。『古事記』や『日本書紀』の中にしか存在しない、この伝説上の天皇は幕末の頃、急にフィーチャーされたという。それはいったい何故なのか?
平成29年、あの森友学園が幼稚園で園児に軍歌を歌わせ教育勅語を暗唱させていた問題。愛国教育と称賛する人たちもいれば、戦前回帰と批判する人たちもいて物議を醸した。では「愛国教育」とは?「戦前」とは何か?

多くの文献資料に当たり、紹介すべき史跡は著者本人が現地に赴き写真を撮り、時代のエピソードを加えて、面白く読める本になっています。
キーワードは「神話」「神武天皇」「軍事」「教育」「神社」といったところでしょうか。日本の歴史の一部でありながら私には知らないことが多く興味深く読みました。

なのに!
読み始めてから4か月余り。85%ほど読み終わった頃、ついに読書を中断することを決断しました。

読書が好き!とかねがね口にしている者としては、買った本を読み通せないと読解力が無く根気が無いことがばれたような、情けない気分にもなったりします。
しかし読書中断の理由は、内容が理解できないとか、面白くないとかでは決してなく、ただもう難読漢字が多い。これに尽きます。
日本の歴史を日本語で書いてあるのに読めない漢字のなんと多いことよ。

難読漢字にはフリガナ(ルビ)が振られていますが、2回目以降に出てきた時にはルビがない。もうさっき教えたでしょう?ちょっと戻って確認してごらん。ってシステムなんだけど、難読漢字が再出現するたびに”巻き戻し読書”になることも。
前後の文脈から推測できないような漢字には出現する都度ルビ振ってくれないかなあとも思うけど、いやでも、そのルビの小さい文字がほぼ読めない。歳のせいなのです。しょうがない。

とまあ愚痴ってはみたものの、この本のたいていの読者はきっと、難読漢字も含めて本書を面白く読んだのではと思います。
『古事記』や『日本書紀』に記される日本の神話は難読漢字のみならず難読カタカナも豊富で、例えば神武天皇の本名はイワレヒコ。漢字で書くと「神日本磐余彦尊」。読み方は「かむやまといわれひこのみこと」。そんなこと知っているよって層の方たちが読者層なのかも。だからAmazonで【新書大賞2024 第7位!】「わかりやすい」「読みやすい」と話題沸騰のベストセラー!!になっているのだと思うのです。

さて、難読漢字とルビ読みに疲れた頃、著者・辻田 真佐憲さんのYouTubeチャンネルがあることに気づき、本書からネットに移行してみました。

個人的に少々興味がある「君が代」について解説している動画があったので下記に添付します。

「君が代」については、公立の学校現場で国歌斉唱時に起立することを強制する問題がたびたび起こってきました。1999年(平成11年)2月には「君が代」斉唱をめぐって、卒業式前日に校長が自殺するという痛ましい事態も引き起こしています。その年の8月に「君が代」は日本の国歌として法的に定められました。
2012年には、大阪府立の高校で教職員がちゃんと歌っているか口の動きもチェックするという徹底ぶりで、国歌斉唱時に起立しなかったという理由で教職員が懲戒処分を受けたりしています。

いったい何故「君が代」を強制したいのか?あるいは何故「君が代」を忌避したいのか?
そもそも「君が代」はどうやって生まれ、どう育ってきたのか?

各時代の有力者たちの思惑でもって創られ、時代によって解釈が変遷していく「君が代」の歴史。
2時間近いマニアックな動画ですが興味ある方におすすめします。

私個人は音痴なので「君が代」を歌えるわけがない。自慢じゃないけど「校歌」だって、斉唱に参加したことはありません。周りの人の邪魔にならないよう、いつもクチパクしていました。
しかしクチパクでもいい。曲の間みんなで一緒に立っていることが肝要というのが国歌斉唱起立強制派の考えです。果たしてその心は?

辻田真佐憲さんは、神社の歴史に詳しく軍歌研究家でもあるらしいです。となれば、右寄りの人?と思われがちですが、ご本人は右でも左でもない中道を行くスタンスを取っておられるようです。