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東京電力 柏崎刈羽原発のテロ対策不備「意識の低さあった」

東京電力 柏崎刈羽原発のテロ対策不備「意識の低さあった」

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210922/k10013272471000.html

新潟県にある柏崎刈羽原子力発電所でテロ対策上の重大な不備が相次いだ問題で、東京電力は「原子力部門全体で核セキュリティーに対する意識の低さがあった」などとする報告書を原子力規制委員会に提出しました。

柏崎刈羽原発では、社員による中央制御室への不正入室やテロリストなどの侵入を検知する設備の不備などテロ対策をめぐる問題がことしに入って相次いで明らかになり、規制委員会は東京電力に対し、核物質防護上、深刻な状態だとして核燃料の移動を禁止する行政処分を出しました。

これを受けて東京電力は、原因の分析と再発防止策をまとめた報告書を原子力規制委員会に提出しました。

報告書の中で東京電力は、一連の問題の根本的な原因として核物質防護のリスクに関する理解や注意の不足や現場の業務を把握できていないこと、外部の指摘からの気づきを生かさないことなどを挙げています。

また、原子力部門全体で核セキュリティーに対する意識の低さがあり、特に、柏崎刈羽原発の核物質防護部門では風通しの悪さが確認されたとする調査結果を明らかにしました。

そのうえで、経営層や発電所上層部などの現場への関与を強化し、核物質防護の問題について情報伝達のルートなどを改めて現場の課題を速やかに是正できる体制を構築するなどとしています。

加えて、原子力部門を統括する原子力・立地本部長を新潟県内に常駐させるなど、本社機能の一部を移す方針を明らかにしました。

原子力規制委員会は今後、報告書の内容を精査しますが、柏崎刈羽原発は、核物質防護上の問題が改善されたと判断されるまで再稼働できない状態が続くことになります。

報告書“外部指摘あっても是正できない組織の弱さ”

テロ対策の重大な不備が相次いだ問題を受けて東京電力が調べた結果、以前から監視体制への懸念や問題点が外部から指摘されていたものの改善に生かされなかったことが明らかになりました。

柏崎刈羽原発では去年3月以降、テロリストの侵入を検知する複数の設備が壊れ、東京電力は見回りを強化するなどの対応でカバーすると報告しましたが、法律に定められた基準を満たしておらず原子力規制委員会から深刻な状態だという指摘を受けました。

柏崎刈羽原発では経営の観点から保守管理を委託する業者との契約を見直し、支払いを2015年度からの5年で10分の1まで切り詰めるなど、保守管理体制の縮小を図ったことなどを問題の背景として挙げています。

委託業者は体制縮小への懸念を繰り返し伝えたということですが、東京電力は現場の状況をよく把握しないまま人を減らしても監視できると判断していたということです。

また、原子力規制庁と電力事業者との意見交換の場でも壊れた設備に代わる対応が不十分ではないかという指摘が出ていましたが重要な課題とは認識されず、発電所の所長などに伝えられることもないままで、改善につながらなかったということです。

東京電力は報告書の中で。一連の問題の根本的な原因として現場の実態を把握する力が弱く、外部からの指摘があっても是正できない組織そのものの弱さだと結論づけました。

報告書“テロ対策への意識の低さ”

柏崎刈羽原発で相次いだ一連の問題を受けて、東京電力は社員への聞き取りのほか、第三者の委員会を設け検証を行いました。

その結果、浮き彫りになったのは東京電力のテロ対策への意識の低さでした。

東京電力が設置した第三者による検証委員会は、社員ら4000人近くを対象にアンケートを行いました。

問題が発生した当時、経営層や管理層が「核セキュリティー」と「その他の利益」のどちらを重視していたと思うか尋ねたところ、2割以上が「その他の利益」「どちらかというとその他の利益」と答えました。

この回答を選んだ人たちにその理由を複数回答で尋ねたところ、核セキュリティーについて
▽部署に十分な人員が確保されていないからが53.2%
▽維持・向上のために必要な資金が投入されていないからが41.3%
▽トップのメッセージを経営層や管理層が発信する頻度が低いからが27.1%
▽経営層や管理層、上司からコスト削減が強く推進されているからが15.8%
などとなりました。

また、東京電力がまとめた報告書では、問題に共通する原因の1つとして、担当部門が発電所内でのテロなどに対するリスクへの認識が弱いことを挙げています。

具体的には
▽社員が中央制御室に不正に入室した問題については社員・警備関係者ともに「脅威になり得ないと思い込んでいた」
▽テロリストなどの侵入を検知する設備に不備があった問題については、本社と発電所が原子力規制庁の指摘以上の対応はとらずテロ対策に関わる新たな脅威に自発的に取り組まなかったと、まとめています。

さらに社員らへの聞き取りでは
▽発電所の担当部署について「機密情報を扱う特殊性から、外部から遮断された環境にあった」とか「関係者も限られているため、内部から言い出しにくい部分もあり、孤立状態だった」という意見のほか
▽本社からは「担当部門はリスペクトされておらず、警備の中でも特に重要な業務だとの認識を持てなかった」という意見がありました。

東京電力では、福島第一原発の事故の総括を2013年にまとめた際、テロへの認識についても触れています。

2001年9月11日にアメリカで起きた同時多発テロを受け、アメリカの原発では規制当局の命令でテロ対策が進みました。

しかし、東京電力の対策につながることはなく原発事故の総括では「テロ対策の国際的相場感が欠落または不足し、日本でテロは起こりえないと思い込んでいた。もし、あらかじめ同様の対策が実施されていれば事故の進展を少しでも緩和できた可能性がある」と記していました。

同時多発テロは、原発内部でのテロ攻撃とは性質が異なりますが、今回の一連の問題からは、原発事故から10年余りがたった今でもテロのリスクに対する認識が高まらない状況がうかがえます。

規制委「どこかに『抜け』があったのでは」

原子力規制委員会の田中知委員長代理は22日の会見で今後の対応について「これまで数か月検査してきたが東京電力の報告書を読んで次のステップとしてどのような検査を行っていくかが重要だ。東京電力が安全文化をどう理解して取り組んでいるか、われわれとしても一歩踏み込んだ形で確認していく必要がある」と述べました。

また、不祥事が繰り返される東京電力の体質については「それなりにやってきたと思っているかもしれないが、問題がいろいろ起こるとどこかに『抜け』があったのではと考えてしまう。電力会社によって体質や考え方が異なるのは当然だが、その特徴を踏まえながらどのように原子力を安全に保っていくかが大事だ」と指摘しました。

東京電力 原発事故前から不祥事

東京電力は福島第一原発の事故の前から不祥事をたびたび起こし、そのつど、原因分析や、組織風土の改善などを目指した取り組みが行われてきました。

1998年、東京電力の委託会社が使用済み核燃料の輸送容器に使う放射線を遮蔽する材料の数値を基準を満たしているかのように書き換えるなどのデータ改ざんが明らかになり、原子力業界への信頼を揺るがす事態となりました。

東京電力は「風土改革検討委員会」を設け企業体質、風土に踏み込んで問題点を洗い出し、背景の分析と対策を検討。「風通しをよくする」「社会の声を聴く」などを掲げ、企業風土改革を目指しました。

しかし、それからまもない2002年、原発の設備の不備を組織的に隠蔽したなどとして大きな問題となった、いわゆる「トラブル隠し」が発覚。当時の会長や社長などが辞任する事態となりました。

この後、東京電力は、再発防止対策の浸透を図り、世界レベルの優れた原子力事業者になることを目的として、“原子力再生活動”を開始。このときは、原子力部門と他の部門との人事交流を積極的に行うなどして社内風土の改革に取り組みました。

こうした一連の改革にもかかわらず東京電力の不祥事はなくならず、2011年3月に世界最悪レベルの原子力事故を起こしました。

原発事故後にまとめられた報告書では、事故を防げなかった要因として、安全意識を向上させる対策が組織全体で不足していたことや当時の経営層全体のリスク管理に甘さがあったことなどを上げています。

そのうえで、組織としての本質的な問題を解決するため安全意識の改革に経営層から取り組むなどとし、原発の安全性に対するリスクへの理解を深める経営層対象の研修や、事故の教訓を伝える施設を整備し全社員を対象とした対話形式の研修など実施していました。

そうした中で起きた今回の不祥事について、小早川社長はことし4月の会見で「原発事故の反省と教訓を踏まえ安全改革に取り組んできたが、何が足りず根本的にどこが間違っていたのかを検証することが重要だ」と話していました。

原発テロ対策情報 扱いの難しさ

原発におけるテロ対策に関する情報は、問題が発生したとしても攻撃されやすい場所などが外部に伝わらないよう情報の多くは明らかにできません。

こういった性質から、情報が公開されても、私たちが知るのは対策が取られた後だとされています。

また、情報管理を徹底するため、原子力規制委員会や電力各社はテロ対策の担当者を限定して組織内で広く共有しないようにしてきました。

ただ、一連の問題では、規制委員会が事務局の原子力規制庁から速やかに報告を受けていないケースがあり、情報共有の課題を浮き彫りにしました。

規制庁の担当者が重要な事案ととらえず、報告の必要がないと判断したためだということで、のちに「判断が甘かったと言わざるをえない」と認めています。

また、東京電力はみずから問題の発生を公表しなかったことなどから、地元からは情報公開を徹底すべきだという指摘も出ました。

旧原子力安全・保安院の幹部で、原発の安全性に詳しい政策研究大学院大学の根井寿規教授は「テロ対策に関する情報は、テロリストに『ここをねらえばいい』というものになりかねず、つまびらかにはできない。ただ、地元などで不信を招かないよう、どのような情報なら少しでも出せるのか精査して公表する必要はある」と話しています。

そのうえで、根井教授は「情報が明らかにならないため、問題が起きても社会から指摘を受けにくいこともあり、限られた人数の担当者たちには強い責任感と高い能力が求められる。また、どのように判断や対応を行うかの意思決定のプロセスを明確にしておくことが肝心だ」と指摘しています。

専門家“経営層の意識改革が第一歩“

原発事故の翌年、国会が設置した事故調査委員会に参加した、経営の専門家、宇田左近さんは、東京電力で不祥事がなくならないのは経営層に問題があると述べました。

そのうえで「東京電力は原子力政策を推進する核となる企業で、原発事故以前、経営の最優先課題は、政策の実現だという意識が強く安全に対するリスクが過小評価される傾向にあった。安全が第一と言ってはいるが原発事故のあとも、政策実現を最優先とする意識は変わっていないのではないか」と述べ構造的な問題だと指摘しました。

そのうえで、原発の安全を最優先にするには、現場の社員が感じた異変や違和感について率直に声を上げることができ、経営層がその声を責任を持って受け止められる組織に変わることが不可欠だとしています。

宇田さんは「優秀でやる気のある人が多い中堅の社員たちが、腕まくりして働ける環境を作るためにも、安全こそ経営に直結する問題なんだと、経営層が意識を変えることが不祥事をなくす第一歩だ」と話しました。

問題を受けて発電所では

社員が他人のIDカードを不正に利用するといった、警備体制のぜい弱さが浮き彫りになった問題を受けて、発電所では体制の強化が図られました。

原子炉がある建屋などにつながる、テロ対策が必要な区域の入り口のゲートではこれまで、身分確認を行う作業員らで混雑し長い行列ができることが多く、トラブルや不正の原因になりえると考えられてきました。

そこで、警備員や警備員をサポートする体制の強化が図られました。具体的には、部長級の社員が現場で執務することで、警備の状況を把握しやすいようにしたり、警備にあたる職員に職位を与え責任を明確化したりしました。

また、長年、警備業務に携わってきた社員を新たに配置し、委託の警備員の指導やトラブルの際の対処などを担わせることで、円滑な運営が図られるようにしたということです。

一方、一連の問題が起きた組織的な要因を見いだすため、東京電力は経営層が柏崎刈羽原子力発電所で働く社員およそ1100人全員と車座になって話し合う「経営層対話」を行いました。

対話には小早川社長や新潟本社の橘田代表ら4人と1回あたり10人程度の社員がおよそ1時間、組織上の問題や気付いたことをざっくばらんに話し合いました。

先月行われた対話では、「コミュニケーション」の在り方がテーマになりました。社員からは一連の問題が起きる前の上司との関係について「相談しても少し冷たい態度をされた」とか、協力会社の作業員との関係について「やりとりの中で言葉を省いていたことがあった」などと、職場でのコミュニケーションが不十分だった現状が浮かび上がりました。

その一方で「問題が起きて自分もチームもすごく落ち込んで、モチベーションが上がらない状態だったが、対話活動が始まってからいろんな会話ができるようになった」と、経営層との対話がきっかけで、職場の雰囲気が変わり始めているといった意見も出されました。

対話は半年間で延べ、およそ120時間行われ、業務量の多さや繁忙感に対する会社のサポートの必要性や核セキュリティ部門など他部署との情報共有の難しさなどの課題もあげられたということです。

参加した第一運転管理部の40代の男性社員は「こんなことやっても変わらないという意見もあると思うが、変わろうとしなければ変われないし、われわれは変わっていかなければいけないというスタートにしたい」と話していました。

さらに、一連の問題によって地元の信頼を失った発電所を生まれ変わらせようと一般の社員が中心となった動きも出てきています。

新入社員からベテランまで幅広い層の社員10人で構成されたプロジェクトメンバーを発足。「いい発電所を目指すためにはなにが必要か」を考えるため、まず、アンケート調査を始めました。

アンケートでは職場環境をよりよくするための取り組みを募集していて、回答の内容を分析したうえで、できることから実行に移す予定だということです。

官房長官「信頼の回復を」

加藤官房長官は22日午後の記者会見で「今後、原子力規制委員会において、東京電力の報告書の内容を精査し、追加的に実施する検査の内容について議論がなされ、原子炉等規制法などの法令に基づき、厳格な検査が実施されるものと承知している。東京電力は、原子力規制委員会の監視のもと、再発防止に徹底して取り組むことで、原子力発電所の安全確保と地元をはじめとした信頼の回復に努めてもらいたい」と述べました。