「鉄のテツ学」展観てきました(3)

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オリジナル燭台
彫刻作品、それも私のもののように「白い、やさしい、かわいらしい」が表現の枠内に存在しないものは、なおさら、ほとんど売れるものではありません。何か売れそうなものをと思って、キャンドルスタンド展を何回かやっていますが、やっぱりやさしく親しみやすいものがつくれないので、今後も売れる可能性は薄いと思われます。

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写真館のための唐草燭台
写真館のための椅子装飾金物
福岡での工房勤め時代には、仕事として作っていた装飾金物。本来なら、本展での展示は「芸術」には頼らず、このような技をみせるものであるべきだったと思いますが、あまりにも数が少なく、むしろこの二点があってよかったと思うことです。

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「月夜」—————– 右「山に月」

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「黒と白の対峙」
2000年代に入り、鉄素材にこだわらないという意識のもとに鉄を使った作品が、『黒と白の対峙』や『月夜』といった作品です。石と組み合わせたり、石の形をつくったりして、なぜか風景彫刻の形になりました。

鉄と石
学生時代は、ただただ石を彫ることが好きで、後の1994年に初めて、仕事として石のモニュメントをつくりました。大きな石彫は、仕事がなければ作れない状態なので、商品を少しずつ作り続けており、構想もまだまだあります。
鉄彫刻と石彫とは、いろんな面で違いがありますが、私にとっては違和感がありません。素材の違いを楽しめば、共通するものを見つけることができます。

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羽根のアイデア 2001

出水市歴史民俗資料館では「写真撮影OK」だったので、私は「作品を全部撮るぞ」と調子に乗って撮り続けたものですが、帰ってきて確認すると撮り残しがだいぶありました。
仕方ありません。ここにアップされていない作品や作家のコメントについては、ぜひ会場で観ていただきたいと思います。
下の3点は新聞のコラムに添えて描かれたもの。
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まだまだ、続きます。
次回は、お宅訪問編です。後日、アートにあふれた通畠家の写真をアップしたいと思います。

『鉄のテツ学』展観てきました!(2)

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無常の地球儀(1991年)私が「理科室シリーズ」と呼ぶ小品群のうちの一点。このシリーズ作品は、自分でも気に入っていますが、それだけに人気もあり、友人知人関係に買ってもらったり、預かってもらったりしており、私の手元には一点もありません。第二弾も考えてみたいシリーズです。

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Soul boat-月の舟ー(1999年)彫刻は構築物であり、「骨格」が、その基軸であると考えます。多様な現代美術が存在し、私もさまざまな試みをして来ましたが、つまるところ、私の彫刻の概念は、敢えて限定的です。1990年代に入り、『無常の地球儀』に始まる「骨格そのもの」の作品が生まれて来ました。それからもうひとつ転換して「外骨格」の概念にたどり着きました。それが舟の形として具体化し、「魂の入れもの」という意味で、1995年に「Soul boatシリーズ」が始まりました。

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Soul boat ’96

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Soul boat-海の呼び声ー(1997年 コールテン鋼、全長450cm)
ハウステンボス光のギャラリー金賞受賞
2000年、サンアリーナせんだい(薩摩川内市)に展示

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「星月夜ー海の呼び声ー」(1995年、黒御影石)
’95日向現代彫刻展大賞 日向市御鉾ケ浦公園に設置

この続きはまた、のちほど。

『鉄のテツ学』展観てきました!(1)

昨日、出水市歴史民俗資料館にて、通畠義信氏「鉄のテツ学」展~鉄を素材とした空間造形の世界~を観てきました。
出水市歴史民俗資料館は出水市立中央図書館の2階にあり、その名の通り歴史的な民俗資料、(旧石器時代の遺跡物とか、先人たちの使用した生活用具や特攻隊関連資料など)を展示している施設です。今回のように現存する(!)作家の作品を展示するのは異例のことのようです。
普段は2階までは訪れる人のほとんどいない施設らしく、案内係のきれいな女性が、この特別展のおかげで「来館者が増えました」とニコニコされていました。

通畠氏の作品の性質上、展示されているのは移動可能な小品が主で、野外設置作品はその模型や写真の展示になります。
小品が多いとはいえ、学生時代に遡った作品から近年まで、私は初めて目にする作品も多く、それぞれの作品の素晴らしさに圧倒され、改めて「通畠氏って凄い芸術家なんだなあ」と感動しました。
何しろ普段の通畠氏は、あまり物事にこだわらない、来るもの拒まず、寛容でひょうひょうとした人物。オレは芸術家だぞ!という自己アピールもせず、芸術家にありがちな(と私が思うところの)奇矯な言動や気難しさもなく、私などにも心安く接してくれます。でも本当は私が考えている以上に偉大な人物なのだと、今回認識を更新しました。

前置きが長くなりました。そろそろ会場で撮ってきた写真を、一部ですが、アップしていきます。作品に対する通畠氏本人のコメントがファイリングされて置いてありましたので、合わせて紹介していきたいと思います。
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蝗(こう)(1977年)学生時代に作り始め、卒業後に完成し、福岡県美展でいきなり受賞した、私の鉄彫刻の原点といえる作品です。いきなり受賞はいただけません。二匹目のバッタ(?)を狙ってしまいます。ここにあった本質的要素が、形を変えて現れてくるのは、ずっと後のことでした。

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歩く猫(1979年)
くずれかけた廃屋の中で見つけた猫のミイラのヴィジョンが、普段掃き集めて捨てていた、鉄クズを呼び寄せて立ち上がり、歩き始めました。

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一番手前にあるのが、「柱’84-PASSAGE-(1984年)」
不定形の暗雲に中心を貫かれた三本の柱が、波うち、ゆらぎ始めています。「9.11 同時多発テロを受けて制作しました」と言っても信じてもらえるかもしれませんが、実は1984年の作品。
不安や危機感、そして不満は、どの時代にもあるものであり、当時の私の「柱シリーズ」のテーマが、そのようなものであったということです。「柱シリーズ」は三部作でしたが、まともな形で現存しているのは、この『柱’84』だけです。

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ペガサス 1993伊佐市 速水荘 設置

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龍座宮 (1990年、鉄、コンクリート)

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はばたき式UFO開発計画(1992年)

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時の巣(2000年)モニュメント等、大きな彫刻のコンクールの場合は、模型による審査が一般的です。この他にも、いくつも作ってきましたが、私の鉄の作品は、まったく採用されません。石やブロンズにない形の鉄のモニュメントを実制作させてもらえたらと思ってきました。「記念碑」という意味でのモニュメントではありませんが、唯一『時の巣』(霧島アートの森)の場合は、内定指名の上で作ったので、実制作が実現しました。

続きは、またのちほどアップします。

通畠義信「鉄のテツ学」展のお知らせ

通畠義信の彫刻「鉄のテツ学」展
会期:平成25年2月9日(土)~3月23日(土)
会場:出水市歴史民俗資料館

66-1当サイトで紹介しています、通畠義信氏の作品展が開催されます。
会場となる出水市歴史民俗資料館の「歴民館だより」によると、出水は刀鍛冶や刀装身具制作の「鉄の職人」を輩出した土地柄だそうです。地元作家である通畠義信氏の作品を紹介することにより、「現在に息づく『鉄の技』そして『鉄の芸術』を紹介したい」とのこと。
今ではなかなか目にすることのできない、氏の過去の作品が展示されますので、ぜひ、この機会に『鉄の芸術』をお楽しみください!!

出水市歴史民俗資料館
住所: 〒899-0205 鹿児島県出水市本町3−14
電話:0996-63-0256

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「ららら科學の子」矢作俊彦

lalala出版社: 文春文庫(2006年10月)
第17回(2004年) 三島由紀夫賞受賞

タイトルの“ららら科學の子”は、ご存知「鉄腕アトム」のテーマソングのワンフレーズですが、このタイトルからは想像しにくい内容の作品です。

1968年、20歳だった主人公は学生運動による殺人未遂に問われ、中国に密航した。文化大革命、下放を経て30年ぶりに帰国した彼は、まるで浦島太郎。未来にタイムスリップしたかのような現在の日本を、違和感を持って見つめる。
彼が変えたいと思った30年前の日本と、30年間過ごした中国の生活と、50歳となった現在の自分への想いが交錯する中、幼くして別れた妹の行方を探す、といったストーリー。
1960年代の空気を知っている者にとっては、当時と現在を引き比べ、ノスタルジックな気分にさせられる1冊です。

著者の矢作俊彦(やはぎとしひこ)は1950年生まれというから、全共闘、文化大革命、天安門事件など、まさしく著者自身のリアルな時代感覚で書かれている作品だろうと思います。そして50歳という年齢に対する想いもまた。

実は、私が矢作俊彦の本を読むのは、これで3冊目です。
そして、すんなりスムーズに読み終えたのは、この作品だけ。

最初に読んだ「THE WRONG GOODBYE―ロング・グッドバイ 」(角川文庫 /2007年)は、私好みのハードボイルドタッチであるにも関わらず、なかなかページを読み進めることができなかった。
矢作ワールドに不慣れだったせいもあるけど、舞台が横須賀中心で、基地との関わりや街の背景にある程度知識が必要で、知識も土地勘もない私には、ちょっと入り込みにくいところがありました。
途中で何度も他の本に心を移し、それを読み終わると「THE WRONG GOODBYE」に戻って続きを読み、登山のように重い足取りで半年くらいかけて最終ページにたどり着きました。
読むのを完全に放棄しなかったのは、主人公である神奈川県警の刑事・二村永爾が魅力的だったのと、物語の結末が知りたかったから。しかし、あまりに時間をかけ過ぎたため、少々疲労感が残った作品でした。

2冊目は「あ・じゃ・ぱん!(上・下)」 (角川文庫/2009年) (第8回(1998年) Bunkamuraドゥマゴ文学賞受賞)
第二次世界大戦後、日本はベルリンのように東西を隔てる壁によって、東日本と西日本に分断される。東日本は東京を首都とする共産主義国家。西日本は大阪を首都とする資本主義国家で標準語は関西弁という、大阪市長が読んだら喜びそうな設定です。
戦後日本の壮大な歴史パロディ。
これは面白そう!と上下まとめ買いしたのが、8ヶ月以上前の話。
この本もスルスルとは読むことができず、ようやく上巻の三分の二程度まで来ましたが、これ以上読み進めることが億劫になり、ついにギブアップ。
歴史パロディだからオリジナルの歴史を正確に知らなければ、偽歴史の面白さが分かりません。いえ、昭和史など知らなくても、ただ矢作ワールドを楽しめばいいのかも知れませんが、実在の人物や実際に起こった歴史的事件と偽歴史が混合されているので、読んでいるうちに微妙な部分で事実か虚構か判別がつかないところが、私にはちょっと面倒な気分でした。
歴史だけでなく、いろんな文学の引用、というかパロディも散りばめられているらしいので、戦後の日本史に詳しい人、文学作品を多く読んでいる人には、きっと楽しめる作品だろうなあと思います。

それにしても「THE WRONG GOODBYE」に疲れ、「あ・じゃ・ぱん!」でギブアップしながらも、私は何故懲りずに3冊目を買ってしまったのか?
自分でも分かりません。
でも、いずれまた矢作作品に手を出してしまいそうな予感がしています。