MOVIE+BOOK - 無銭優雅              

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無銭優雅

ファイル 122-1.jpg著者 山田詠美
幻冬社文庫

 単行本の時に、これどっちみち絶対読む、今じゃなくても、と、心の中でお取り置き、だったもの。

 40代の男女の、全然大人らしくない恋の成り行き。の、間に、いくつもの小説の引用が挟まっている。予備校の国語教師である男(栄)が、哲学科出身であまり恋愛小説なんて読まない女(慈雨)に勧め、女が読んだ本、であるらしい。20冊を越す引用の中、私が詠んだものは半分もないんでありましたね、なんたってエドナ・オブライエンから泉鏡花、樋口修吉、草間弥生、坪井栄・・・聞いたことも無い著者もいる見事なバラエティ。

 42歳で知り合って、現在45歳である男女が、大人気ない恋愛をしているのは、10代20代の読者にとっては違和感があるかもしれない、が、実際私の周りでは格別珍しくない形の男女だ。恋愛って、そもそもそうしたものでしょ。大人の分別を持って結婚する、ということはあっても、分別ある恋愛なんてある?いつでも子供みたいなところがあるものでは?
 花屋を共同経営している女の店に毎日やってくる老女がいる。“ここのところ原因不明の楽しい気分に襲われて”という慈雨に、“更年期前の発情期かも”とおっしゃるのだ。滅びゆく者の最後の栄華、だそうで。・・・そういえば、そのあたりで意外にチヤホヤされた記憶がないでもなく。

 人と人の関係がそうお気楽なばかりですぎるわけもなく、事件が起こる。そのあとのあるシーンで、私はびいと泣いてしまったが、どこだったかは教えない。

 慈雨という名前の女の子が出てくる坪井栄の短い小説があるのだそうだ。満員列車の中で押しつぶされて死んでしまう女の子。
 滅びに向かう命であるからこそ、出会った者たちは子供のようなじゃれあいをしたり臆面もない言葉遊びをするものでしょう。そもそも、“心中する前の日の気持ちで、これから付き合っていかないか”と言われて始まっているのですよこの二人。

BOOK
comment(0) 2009.08.17 13:57

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