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ひとり日和

ファイル 254-1.jpg著者 青山七恵
河出文庫

埼玉で母と暮らしていた20歳の知寿、教師の母が交換留学かなにかで中国に行くという。行きたくない知寿は、東京で遠縁の吟子さん71歳と同居することとなった。縁側のある家。駅に近く、電車の音が聞こえる。猫もいる。

母は大学に行って欲しいのだが、娘は大学の勉強に興味は無く、コンパニオンとキオスクのアルバイトを掛け持ちして日々を過ごしている。なんだか情熱の無いボーイフレンドの部屋に行ったら、別の女といて、おやおや、と言って別れる。
駅のホームでアルバイトをしている若い男に恋をする。
吟子さんにも恋人であるらしいじいさんがいる。ダンスのパートナーだそうだ。

淡々と、というか、グダグダと、ともいえる日常が描かれ、そうか、二十歳から見たら71歳は明日にも死にそうに見えるものか、と思う。私は71歳のほうに近い年齢なので、周りの70過ぎはそんなふうには見えないのだが。
私は日本列島の端っこのほうで暮しているから、埼玉から東京の笹塚あたりに出ていくことがたいそうなことかどうかは良く分からない。

新しい恋人とも別れる。

と、私の感想文としては珍しく、ストーリーを紹介しているのだが、それは、なぜかこの小説の雰囲気がけっこう好き、その理由を説明できないからで。

1983年生まれの作家の、2007年芥川賞作品。私は全然知らなかった。しばしば交換図書をしている友人から借りたもの。

ちず かな?ちとせ かな?とその名前に振り仮名がないのでどっちかと思いながら読み進み、ちずだとわかった。

後半に収録の“出発”も同様に、一歩を踏み出す、或いは旧世界との別れ、というようなことが描かれる、が、何だろう、この作家を少し追いかけてみようと、思わせた気配を、やはりうまく言えない。好きでない人もいるだろうなあ。

BOOK
comment(0) 2013.06.26 23:54

歳月

ファイル 247-1.jpg著者 茨木のり子
出版社 花神社

    五月
 なすなく
 傷ついた獣のように横たわる
 落語の〈王子の狐〉のように参って
 子狐もなしに
 夜が更けるしんしんの音に耳を立て
 あけがたにすこし眠る
 陽がのぼって
 のろのろと身を起し
 すこし水を飲む
 樹が風に
 ゆれている

   
    泉
 わたしのなかで
 咲いていた
 ラベンダーのようなものは
 みんなあなたにさしあげました
 だからもう薫るものはなにひとつない
 
 わたしのなかで
 溢れていた
 泉のようなもlのは
 あなたが息絶えたとき いっぺんに噴きあげて
 今はもう枯れ枯れ だからもう 涙一滴こぼれない

 ふたたびお逢いできたとき
 また薫るのでしょうか 五月の野のように
 また溢れるのでしょうか ルルドの泉のように

    
    一人のひと
 ひとりの男ひとを通して
 たくさんの異性に逢いました
 男のやさしさも こわさも
 弱々しさも 強さも
 だめさ加減や ずるさも
 育ててくれたきびしい先生も
 かわいい幼児も
 美しさも
 信じられないようなポカでさえ
 見せるともなく全部見せて下さいました
 二十五年間
 見るともなく全部見てきました
 なんて豊かなことだったでしょう
 たくさんの男ひとを知りながら
 ついに一人の異性にさえ逢えない女ひとも多いのに


    (存在)
 あなたは もしかしたら
 存在しなかったのかもしれない
 あなたという形をとって 何か
 素敵な気がすうっと流れただけで

 わたしも ほんとうは
 存在していないのかもしれない
 何か在りげに
 息などしてはいるけれど

 ただ透明な気と気が
 触れあっただけのような
 それはそれでよかったような
 いきものはすべてそうして消え失せてゆくような


夜中にふと目覚めると、つけっぱなしのラジオから、茨木のり子さんの話が聞こえてきた。どうやら出版社の人だ。茨木のり子さんは美しい人だったそうだ。
23歳で医師と結婚、とても仲のいい夫婦として過ごし、1975年に死別。
結婚後、川崎洋の誘いで同人誌「櫂」創刊、すぐに谷川俊太郎や吉野弘や参加って、なんと贅沢なメンバーであろう。
夫に先立たれたあと、31年にわたって夫への想いを綴ったものがあり、彼女の死後、岸田衿子さんの尽力により出版、それがこの『歳月』だという。私がラジオで聞いた声は、花神社の大久保さんというひとだったのだろう。
『わたしが一番きれいだったとき』という茨木のり子さんの有名な詩は、今では教科書にも出ているらしい。ほかにも、自分の感受性ぐらい 自分で守れ ばかものよ というフレーズなど、読み返すたび自戒する。

そして、こんなふうにも豊かに、一人の男を愛したいのちだったのだ。傷ましく、羨ましく。

BOOK
comment(0) 2013.04.19 12:59

アクション映画バカ一代

ファイル 245-1.jpg著者 谷垣健治
出版社 洋泉社

谷垣健治の名前を知ったのは、香港映画にはまった90年代後半、当時はたくさん出ていた香港映画本で。調べたら、『続超☆級☆無☆敵 香港電影王』誌でありました。今や知る人ぞ知る天下のアクション監督の、スタントマン時代のこと。

さて、知らない人は全然知らないだろうけど、ジャッキー・チェンのファンが高じて倉田アクションクラブへ、そして93年、広東語も話せないのに香港へ渡った彼、以前この欄で『捜査官X』http://art-container.net/mbblog/diarypro/archives/215.htmlの出演者としてちょっと紹介済み。
ジャッキーやジェット・リーと違って、日本では一般的には知られていないアクションスター、ドニー・イェンとの出会い、そのあたり、私には手に入る限りの香港映画ビデオを借りまくっていたから『Cool』見ましたよ、なんだこの変な男は?ドニーさんのことをと思いましたよ申し訳ないが。レスリーと常盤貴子の『もういちど逢いたくて星月童話』にも関わっていたのか、映画館で見ましたよ。
へーえ、と思うのは、釈由美子主演の『修羅雪姫』って2001年にあったけど、その釈由美子ベタ褒め。そして、そんなん知りませんがな『ああ!一軒家プロレス』なる作品で橋本真也やニコラス・ペタスと並んで出たというソニンベタ褒め!この子はスゴイ!と。わかる気がする。私は結構ソニンちゃん贔屓なので。残念なことに、日本にはアクション映画というジャンルがほぼ存在しないので、土壌のないところでは花開かない。
えーと、どこかに、日本のそんな優秀なアイドル女優さんと比べて、生意気な上に頭も悪い香港の女優、なる一節があり、脚注に、主にセシリア・チャンのこと、とあった・・・そうなのか、セシ・・・。

そして、原題・武侠、日本のタイトル『捜査官X』のところでは、金城武について、面白い人だったな、と語っている。自分をカッコ良く見せる気はサラサラ無くて、「ねえ、こうやったら面白くない?こういうのは?」とどんどん提案してくる、などと。この映画では金城のほかジミー・ウォングも日本語ペラペラで、ストレスが溜まっても、お前らみんな死ね!と叫べなかったそうだ。

『るろうに剣心』この佐藤健のこともベタ褒め、あ、忘れてましたが『カムイ外伝』の松山ケンイチのことも。

『映画秘宝』連載に加筆、となっているけれどブログ『谷垣健治のアクションバカ万歳』でも紹介されていることがいろいろ。

あー面白かった。るろうに見そびれてる、ああ損した。『捜査官X』は本場中国香港では興行的にはコケたそうだ。いい作品なのに。評価は高いのに。   すみません、オタクで。

BOOK
comment(2) 2013.04.15 15:01

ブギウギ

ファイル 243-1.jpg著者 坂東眞砂子
角川文庫

敗戦前・敗戦後 と前後編に分かれている。戦前・戦後ではない。
配線間近の箱根、ここにドイツ人がたくさんいたというのは史実?とにかく箱根のホテルに滞在していた(その時点ですでにドイツは無条件降伏している)ドイ軍潜水艦長が水死体で発見される。発見したのは女中のリツ。
その調査の通訳である法城という男が、自殺とされた事件を疑って調査を始める。ナチ、捕虜収容所、また日本軍の捕虜に対する人体実験、純血という考え方、様々な問題を挟みながら、マイクロフィルムが絡む殺人ミステリーが解かれていくのだが。

主役は、実は、箱根の旅館の女中だった安西リツと、その旅館の女将、そしてハンブルグ日報通信員のオルガ、この女たちのそれぞれの生き方だ。

ミステリーとしては、不完全燃焼な感もあるけど一気に読ませる。そして、できればもう少し、あれあれ?という間に敗戦後ジャズ歌手へと変身を遂げるらしいリツを描いて欲しかったなあ。

この作家が好きな人には物足りないのだろうが、ちょっと苦手で『死国』を読んだ覚えはあるがストーリーを覚えていない、『魔女』を最初の方で読みやめた私には、面白かった。

BOOK
comment(0) 2013.03.20 15:46

ぼくとユーレイの占いな日々

ファイル 242-1.jpg著者 柴田よしき
創元推理文庫

このところ軽いおやつのような小説ばかりを読んでおります。いつになったらあの『銃・病原菌・鉄』を読み終わることでせう・・・えーと、とても興味深い本ですのよ、でも集中を必要とするのです、ちょっと今の環境がきびしいので、後回し。

で、本題、またまた贔屓の柴田よしきです。就活中の石狩くんが、バイト帰りに厚化粧の占い師・摩耶優麗(まやゆうれ)に声をかけられ、なぜか現在状況をずばり当てられ、そしてなぜかその占いの館に就職することに・・・。

推理小説と呼ぶものかどうかはともかく、各章のタイトルがこれです。“時をかける熟女”“まぼろしのパンフレンド”“謎の転倒犬”“狙われた学割”“七セットふたたび”・・・はへ〜な気分になりませんか?
もちろん、時をかける少女(筒井康隆)・まぼろしのペンフレンド・謎の転校生・狙われた学園(それぞれ眉村卓)の、もじりですね。ちなみに私は謎の転倒犬の元ネタがわからなかったへなちょこです。あなたが思い出したのは角川映画?NHK少年ドラマ?はたまた学習雑誌の連載とか(古すぎる!)。

ユーレイでは無くユーレと読む摩耶優麗は、占い師ってのはね、カウンセラーなの、と言う。実はマスコミ志望である石狩くんに、向いてない、と言う。人のいい石狩くんに、不幸な事故で肉親を失った遺族に向かってマイクを向けるようなことができるのか?と言う、のです。
その摩耶優麗をはじめ、おネエ言葉のウサギちゃんこと宇佐美儀一郎とか、魅力的なキャラの登場人物たちに、まだまだ出会いたい気分になってしまうのですね、どうやらお話は続くようです。

BOOK
comment(0) 2013.03.08 15:25

鹿児島学

ファイル 240-1.jpg著者 岩中祥史
出版社 草思社

県民性研究の第一人者だそうだ、この著者。

県外に住む弟が、この本を面白がっていたので、手に取ってみた。
山形屋は、なぜ山形屋という屋号なのか?初代が山形県出身だったらしい。何故渋谷でおはら祭りをやっているのか?かつて渋谷には薩摩藩の屋敷があった。で、その時代よりずっと前、鎌倉時代、相模国を領有していた渋谷氏が、北薩摩の地頭職を得た。とか。
で、おはら節と東京音頭の前走はほとんど同じとか。で、東京音頭の作詞は西條八十、作曲は中山晋平、種子島生まれの芸者・喜代治という人がおりましたとさ。中山晋平が喜代治をいたく気に入りまして・・・なんだかんだ。

まあこんな調子で、知ーらなかったわー、ないろいろが学べます。氷白熊の起源について、“むじゃき”と“セイカ食品”は全然別の主張をしているらしいよ。

鹿児島の住民の皆さん、ちょっと郷土の雑学仕込んでみませんか?広馬場通りの住民なんて、悔しがると思うよお、あっちに市電が通っていたら!って。

BOOK
comment(0) 2013.02.15 15:20

アナザー・ワールド 王国その4

ファイル 237-1.jpg

著者 よしもとばなな
新潮文庫

アリシア・ベイ・ローレルの『地球の上に生きる』は、二十歳頃の私のバイブルのような本だった。いわゆるヒッピー生活、自分で手作りする、大地と主に生きる生活。当時実際に周りにいたヒッピー的な人たちの仲間になりたいと思ったことは全く無いけれど。

そのアリシア・ベイ・ローレルが表紙の絵を書いている。・・・ってすごい。

『王国』という3部作は、薬草茶を作る名人だったおばあちゃんと山で暮らしていた雫石という名前を持つ女の子が、都会へ移り住み・・・という物語。占い師でゲイの目が不自由な男・楓のアシスタントになって、少し浮世離れした少しカルトな展開、守る、守られる関係。

で、本作は、その雫石の娘、ノニの物語である。ノニの父は楓、そのパパは亡くなり、パパを愛していたパパ2がいる。
舞台はミコノス島。そこで運命の出会い。

こんな説明に意味がない物語なのですよ。
実は、王国3部作には今ひとつノレない私であった。が、ノニのこの物語はすっと読めて、うん、おいしいお水、という感じ。

私の周りの奄美がルーツという人の中には、ちょっとした超常現象、スピリチュアル体験が身近に起こっている、ということがさほど珍しくない。霊の存在を感じるとか。
沖縄や台湾も舞台になるこの物語の、ファンタジーな展開は、その場所、その人の資質によっては、ありえなくはない気がしてしまうのです。

好きな人、わからない面白くないという人、分かれてしまうでしょう。

まあ、だからアリシアのあの手書き文字の本を読んでなにかその中の手作りを試したことのある人なら、この物語(全然どこにもたどり着いていない話だけど、今のところ)が好きなのではないかと思います。

自分の人生を生きる、とは?という話、かな。

BOOK
comment(0) 2013.01.15 10:29

あなたも奔放な女と呼ばれよう

ファイル 234-1.jpg著者 内田春菊
講談社文庫

新年の初感想文に、こんなタイトルも何ですが、まあ2013年初めに買った2冊の漫画と一冊のミステリーのうちの一冊がこれでしたんで。

内田春菊さんというマンガ家・歌手・女優・小説家さんに、なんだかややこしい関係のお子さんたちがいることは知っていたが、これを読んでもすらっと分かることもない、くらいだ。それぞれ父親が違う、一緒に暮らしていた男ではない男の子ども、3度目の離婚をした年下の男との間にも子ども二人、で、その男とまだ同居している(今現在の情報では同居解消したらしい、もっと若い恋人がいるらしい)。

うーん、でもねえ、男の趣味良くないというか、DVマザコンヒモ、そんなのばかりを引き寄せてしまうあなた・・・と、言いたくもなる。そんなのが別れるとなると莫大な慰謝料請求するのか。別れるよね、そりゃ。別れる前にほかの男がいて、ややこしくなってるだけだけど。

女が浮気することがすごく珍しいと言われる、が、親に愛されなかった私にとっては病気の人が他の医者をセカンドオピニオンとして求めるくらい切実な問題

戸籍制度は日本と台湾と韓国にしかないらしく、韓国は2008年1月に廃止された
おお、あの、二世代三世代同居が当たり前であるらしい(韓流ドラマによれば)、儒教国韓国で廃止されたのか!

フランスでは書類上では婚姻していないいわゆる事実婚が多い ということは有名だよね、ゴクミとジャン・アレジもそうだし。それで、権利などの差別は何もない。2006年時点で婚外子の割合が50.5%というお国。同年で日本では2.3%だって!05年の数字でスウェーデン55%、イギリス43%、アメリカ37%とのこと。ユニオン・リーブル自由な結合と言うそうです、書類上で結婚してないカップルのことを。で、25歳〜49歳の女性の80%以上が働いているそうです。

斎藤学さんという人の言葉として出てくるこの言葉、「仕事しているのが珍しい(結婚後)」ということは、社会保障としての結婚が多いということですよ
結婚は何のためにあるのか 離婚しにくくするためですよ 恋愛は恥かくことの連続ですから

恥かくことの連続しかしてない、婚姻したことのない私は、別に奔放のススメなんてするつもりはないけど、選択は自由であって欲しい。男は、とか女は、とかいまだに言いたがる人がいるけれど、そう言う人同士がカップルになるなら何も問題はない。いろんな形が有りうることを認めて、制度を整えて欲しい。だって、現実にいろんな人がいるんだもの。

あ、深い愛で結ばれた人たちのエピソードもありましたよ、結婚を全否定しているものではありませぬ。

BOOK
comment(0) 2013.01.03 12:54

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