MOVIE+BOOK - 高峰秀子の流儀              

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高峰秀子の流儀

ファイル 145-1.jpg著者 斎藤明美
出版社 新潮社

婦人画報で連載されていた。某待合室でいつも読んで、読むたび驚愕していた。

子役は大成しないと言われる。最近でもよく、あの人は今、なんぞのTV番組でかつて子役スターとして一世を風靡しただれかのその後を伝えている。子供の収入に頼った大人がいた場合、およそせつない話になる。そういえばあのマーク・レスターの名前を、マイケル・ジャクソンの死に絡んで久しぶりに見かけた。洋の東西を問わない。

元祖子役上がりの高峰秀子さんはその後今でいうアイドルへ、その当時は少女スターと呼ばれ、そして演技派女優の名をほしいままにする、のであるが。

4歳半で実母を亡くした彼女は、叔母の養女となり、ほどなく子役デビューする。この叔母を彼女はデブと呼んでいるがこのデブ、とんでもない生き物であるのだ。もちろん初めから食い物にするつもりはなかったに違いない。かわいがったのだろう、が、想像を超える巨額のお金を手にするようになると、普通の人間が怪物に変化するらしい。自分ばかりか、親戚を呼び寄せて一同が一人の若い女性に寄生することになるのだ。

普通はつぶれる。精神に破綻をきたしても不思議はない。何より読者の私自身が腹が立つという言葉ではおさまらない思いをしたのが、長兄がたった一枚残った実母の写真を持ってきてくれた時、継母はその写真を跡形もなく破り捨てたというエピソードである。他人の私が殺意を抱く。

ほんとにね、稀有な人だ。
スターである人は大概、複雑な背景をしょっている、そしてそのことこそ演技や歌に深みを与えたりするものだろう。その代わりに、どこかでなにかを深くあきらめたことがあると、見えたりもする、ような気がする(ただ気のせいかもしれない、ごめん)。が。
4歳にして,「わたしがあんたのほんとのカアサンなんだよ」と言われた時に人間不信を植えつけられたと、高峰秀子さん自身のエッセー『にんげんのおへそ』で最近読んだ。その同じ『にんげんのおへそ』の中に、自分のきれい好きと食べ物の好き嫌いが無いことについて、養母に感謝している文章がある。…信じられない。信じられないがしかし、実際、いつでもその住まいも冷蔵庫の中も、大変にきれいなのだそうだ。うう・・・。いや、そういう話ではなくて、この品格というのはなんでしょうか。どんな育ち方をしようと、本人が見事な原石であり、ほとんど学校に行けなかった中でのちに名文家として知られることになるまでの学びを重ね、身の丈に余る欲を持たない、と、こんな風にもなりうる、か。

大女優は結婚して幸せになれないというジンクスも破って松山善三というパートナーと添い遂げようとしている、完璧に表舞台から降りて悠々自適、前半生のすさまじさを思うと恭喜恭喜!

BOOK
comment(3) 2010.07.28 12:43

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atcon 2010.07.28 21:38 edit

すごいですね。知らなかった。勝手にお嬢様女優だと思っていました。
そういえば岩田宏さんの詩集に「産み出すものの死」という文章があって、「マリリン・モンローがハリウッドに儲けさせた金額が9千億円で、女優自身の取り分が1億8千万円であった」と。マリリン・モンローにも、高峰秀子さんのような幸せな老後があっても良かったのにね。

あある 2010.07.28 22:41 edit

また雨になり、二階の雨漏りという不幸な事態があり、小さい本棚を動かしたら向こう側の壁が!!!で、その隣の本棚を動かすには前後二段構えに並んだ本を出さないとどうにもならない。土曜日には弟が来るという問題が無ければほったらかしておくのだが、そうはいかない事情、明日明後日はほとんど動きが取れないし。
おおざっぱにカビを退治し、雨受けを置き、本を片付け、ていたら、岩田宏こと小笠原豊樹訳『魔術師』という本が出てきた、というお話。それは読んだ覚えぐらいはあるけど、全く何の記憶もない『猫の心を持つ男』なんてのも出てきた。
さて、瓦一枚と壁の問題をどこに頼めばいいのだろー、ぐす。

atcon 2010.07.29 00:04 edit

『魔術師』『猫の心を持つ男』・・・どちらも心くすぐられるタイトルです。再読することがあれば、「MOVIE+BOOK」へ投稿を是非。
小さなリフォームを安価で受ける、大工さん知っています。見積させてみてもいいと言うときには、私にご一報くだされば紹介します。決して怪しいものではありせん。