MOVIE+BOOK - すばらしい新世界              

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すばらしい新世界

ファイル 181-1.jpg著者 池澤夏樹
中公文庫

4月に紹介した『光の指で触れよ』の家族の、その数年前の物語。
私は読む順序が逆になりましたが、2000年に単行本が出版されていると言うのに、まことに現在の日本に向けたかのようなお話。

夫・林太郎は、原発にも関わっているような(つまり日立・東芝だな)会社で風力発電の開発に携わっている。妻・アユミは、学生時代はインド哲学をかじったが、今は環境系のNGOで仕事をしている。ちょうど、節電用の機器(使っている電量がデジタル表示されるもの)の普及という仕事からの誘いがかかったところである。

アユミの友人からの依頼に始まり、ネパールの山の中のナムリン(架空の国名です)で、発電に使う小型風車設置のためネパールへ向かうこととなる林太郎。

カトマンドゥーと発音するのね、と、大昔atconさんからもらった葉書で知ったのでしたよ。ポカラという地名もそれで。もっともっと山の中の、たどり着くに馬に乗ったりしなければならない場所、いわゆる秘境の話ですが、ネパールに行ったことのある人にはより面白いでしょう。

ちょうど東海村臨界事故の後という時代に書かれている。私はその時東京にいて、茨城の友人と会う約束をしていた。そのただなかに起こった事故で、友人は屋内退避しなければならなかった。…でもそれは数日でおさまったのだ。2011,3,11以後の今は、その規模をはるかに超えた放射性物質が存在している。微量とは言え、鹿児島産のお茶にもセシウムが含まれていたほどに。

日本の開発援助が、しばしば現地のお荷物になっている問題、NGOの名を借りてあやしげなことが行われるケース、民族問題、宗教、などさまざまな内容を含んでいる。

続編『光の指で触れよ』につながるエピソードもいくつか。林太郎は現地の神に気に入られてしまい、そこを離れられなくなって、小学生の息子が迎えに行くこととなるのだが、女神の化身?ナジマと無上瑜伽タントラ体験をする(ごく平たく言うと無上の性体験です)という経緯がある。続編のアユミのタントラ体験につながることを、初めから考えていた?かどうかわからにけれど。

今となっては、この小説でおもにアユミによって語られる環境問題はまだ日本にとっては人ごとだったようにも思うし、政治家の選挙運動を広告パブリシティのようだと絶望しているのも、まだ甘い気がする。が、時に小説が現実を先取りする例の一つである。

タイトル“すばらしい新世界”は、オルダス・ハックスリーによる1932年発表のSF小説からとられている。それこそ未来予見している作品のようだが、未読。

BOOK
comment(0) 2011.06.13 09:34

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