著者 車谷長吉
文春文庫
くるまたにちょうきつ と読むそうです。
映画の感想文も書いたものと思っていた・・・このサイトができる前に見たものらしい。
車谷長吉の作品を読んだのは初めて。続けて読むことはないと思う。それは今の私が読みたいスタイルの文章ではないからであって、この人は優れた作家であり、これは優れた小説である。などと私が言わなくてもいいことであるのは119回直木賞受賞という事実でもわかる。なぜ直木賞?芥川賞でなく?ということはその当時話題になったようだ。
70年前半ごろの日活ロマンポルノにはあったような気がする(“(秘)色情めす市場”という田中登作品を思い出したのだけど)猥雑な底辺の社会で生きている人々、の中に紛れ込んだ男、背中に迦陵頻伽の入れ墨を背負ったすごい美女(映画では寺島しのぶ、美女度はそんなに高くないと思われた)。
言葉の使い方が独特。SEXではなくまぐわい、ラブホテルではなく連れ込みホテル。そして、ハイネの“流竄の神々”だとか新藤涼子という詩人の『遅い』という詩などに強く反応する主人公の男。その詩の載っている詩集“ひかりの薔薇”というタイトルには私にも覚えがある。当時少なくとも部分的に読んだはず。
この作家は慶応文学部卒業ののち広告代理店や出版社勤務を経て実際に関西方面のタコ部屋暮らしをしていた時期があるという。小説の中で新聞社勤務の旧知の男から小説を書けと言われるシーンがあるが、それに似た状況で担当編集者からの強い呼びかけで作家として再デビューしたのだそうだ。