著者 エイミー・ベンダー
角川文庫
二十歳の誕生日に、私は斧を買った。
と始まる。19歳~10歳まで誕生日に何を買ったかが続く。
十歳の誕生日は父が病気になった時で、その時から私は「止(や)めること」をはじめた。
枝で桃が甘くなるように「止めること」が塾したときとか。
ファンタジーだろうと思って読み始める。読み進むと、ジャンルが分からなくなる。
成長を止める話なら、『ピーター・パン』とか『ブリキの太鼓』とか、例はある。そうではなくて、陸上をやめる、映画を見るのをやめる、デザートをやめる、なのだ。
彼は私のうなじにキスで銀を吹き込み
石鹸を食べてしまうのだ、この女の子は。
止めることができなかった唯一のことが数学で、ある日、小学校之校長先生からの電話で、算数の先生になる。リサ・ヴィーナスという生徒がいて、その母は眼球癌を患っているという。
キーワードは父の病気。父は病気だが、青いガラスでできた美しい病院の医者を続けている。
元数学教師のジョーンズさんは、蝋でできた数字のネックレスを下げている。それは、その日の彼の気分のレベルを示している。
ではSFなのか?と、読み進めて思う。え?ホラーなの?誕生日に自分にプレゼントした斧で、自分自身を伐り倒したい二十歳。木をノックする癖がある。父が病気になってから。
そして私はここで自分自身にくるまっている。自分というマントにくるまっている。
まあ、この娘が、自分というマントを脱ぐ、閉じた円を開くまでの物語です。引用したこれら丸ごと詩のような文章たち、原文で読めたらいいのにと思います。原文タイトルは?と思ったら、An invisible SIGN of may own そのままやんけ、でした。自分というマントにくるまっている、という感覚を知っているある種の若い人にお勧めしたい作品です。
ところで、私自身の見えないカビ、じゃないシルシ、と一瞬思わなかったかな?私だけ?翻訳の菅啓次郎氏は明治大学工学部教授で詩人だって。