MOVIE+BOOK - 光の指で触れよ              

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光の指で触れよ

ファイル 178-2.jpg

著者 池澤夏樹
中公文庫

『すばらしい新世界』と言う前作の続編という形だが、私は前作を読んでいない。それはそれとして読める。

前作ではとても仲の良い家族だった(らしい)が、今はバラバラに生活している一家がある。夫の恋愛をきっかけに、妻が5歳の娘を連れて家を出て、オランダで暮らし始めた。
夫は風力発電の設計者で、ネパールの奥地に小さな丈夫な風車を建てたことがある。

原発がいけないのは複雑すぎることだよ、熱源である原子炉に対して周辺機器が多すぎる。放射能の問題とは別に、形がエレガントじゃない。

岩手県は風力発電の先進地域で、今の体制ならば総需要の3パーセント近くを風力でまかなうことができる。ところが、このところ、電力会社の姿勢が消極的になった。

世界中の八千か所の地点の風速を集めて、そのうちのどれだけで発電ができるか計算した(学者がいる)。全体の13パーセントで発電が可能、その総量は72テラワット。
(電気は自分で作れませんか?という質問に対し)
風力で定格出力400ワット、太陽光とバッテリーを組み合わせてあって、実際の発電量は一日に300ワット時くらい、液晶テレビなら5時間見られる。風力で定格出力400ワット、太陽光とバッテリーを組み合わせてあって、実際の発電量は一日に300ワット時くらい、液晶テレビなら5時間見られる。
とか、パーマカルチャー(有機農業の一種)、コンポストトイレ、などなど、今の、この地震、津波、原発事故の、起こってしまったこの世界に、なんとふさわしい時期に文庫化されたのだろう.。宮城こそでてこないけれど、福島や、岩手の土地に関連した人たち、物事。

物語のほうは、妻はコミュニティーと呼ばれるエコロジー系だったりスピリチュアル系だったりそれぞれの特性を持つ共同体で生活する体験を通して、農業に関心を持っていく。夫は夫で、高校生の息子を介して知り合った人々、その環境から、農業に近づいていく。シンクロニシティー。娘は可南子という名前がキノコに変化していてこのキノコちゃんの言動がとてもかわいい。だれか身近にモデルがいたのかなと思われる。

「いい惑星はめったに見つからない」
いい標語でしょう?玄関のガラスに張っていた人がいたのだそうだ(小説の中のお話)。今、ACのCM,いろいろ言われているけれど、おはようさぎ、とかあの、あいさつしよう、というやつ、私はあいさつの苦手な子供だった、母のスカートの端を掴んで後ろに隠れがちだった、ことなど思い出していたら、やっぱりあいさつの苦手な子供だった人のブログにぶつかった。挨拶が苦手なことを責めないで、というもの。ちょっと先に頭で考えてしまう子供はあいさつが苦手なんだ、って。うちの近くでも小学校の教育だろう、出合い頭にこんにちは、と言われる、のは気持ちはいいけどね。と、これは脱線。

妻が習得しているレイキという気功の一種のようなもの、そしてコミュニティーの仲間の男との、マッサージの延長にある交合によって得られる精神の高みを得る行為。

ヨガをやっている私はタントラヨガと言うものの存在は知っている。チャクラ、クンダリニーという言葉の何物かも一応知っている。が。

鍬を持って土を耕すことをやり始めたところの私自身と、この未曾有の災害のさなかの日本の状況に、狙いすましてぶつけたかのようなこのお話の中の人物たちが、ちょっとした実在の知り合いのような・・・近しい気持ちになっている私です。
でももともとこれは新聞小説で、2005年~2006年にかけて連載、2008年に単行本出版、2011年1月文庫化。

芥川賞受賞のころの池澤夏樹は、その生物学上の父上である福永武彦氏によく似ていたけれど、最近の写真ではあまり似ていない気がする。

BOOK
2011.04.04 10:18

Comment List

atcon 2011.04.07 00:54 edit

高校生の頃、福永武彦さんの本が大好きで、よく読みました。短編がとてもいい。

挨拶のことについては、私は見知らぬ小学生に「こんにちは」と挨拶されると、気が滅入ったりします。ソツのない大人に出会ったような気がして、大人げない私は、ちょっと卑屈な気分になったりして。

あある 2011.04.07 18:14 edit

う、福永武彦ファンだったとは・・・。
実は、私にとっては福永先生で、短大時代に講義を受けました。これだけは優をとりたいと思い、実際にそれとフランス文学ぐらいが優で…国文専攻の学生だったのに。

私は母と一緒に散歩してるからね、あいさつされる気分が違うと思う。

atcon 2011.04.07 22:44 edit

すごい!講義を受けたんですか。いいなあ。私は福永武彦さんのことは作品以外は何も、顔も話し方も、何も知らない。勝手に想像しているんですけど、輪郭の柔らかい細面で、体型もほっそりして・・・ま、いわゆる文学青年的なイメージをもっているんですけど。作品は「草の花」から読み始めて、ほとんど読んだと思いますが、長編よりは短編の方が記憶に残っています。ちなみに短編の「世界の終り」というのが福永作品では一番好きだということは、誰かに伝えたかったことのひとつ。

あある 2011.04.08 11:48 edit

確か萩原葉子さんだったと思いますが、ピンと張った弓のよう、という形容をしていました。それはよくわかる。
世界の終り って、記憶に無い…加田伶太郎名義のミステリーまで持ってるのに。
ところで、中村真一郎・堀田善衛とともにモスラに係わったこと知ってる?

atcon 2011.04.08 12:50 edit

加田伶太郎名義のミステリー、というのもあるんですか。それも知らなかった。今度探してみます。モスラのことも全く知りませんでした。
私には美しい文章を書く作家としての記憶しかない。
「世界の終り」は「夢見る少年の昼と夜」という短編集に入っていたと思う。
医者の妻となった女性が徐々に狂っていくというストーリーです。

あある 2011.04.08 13:43 edit

お、それならうちにあるはず、読み返してみます。かだれいたろう を並べ変えてみてください。ちょと余るけど。船田学名義のなんだかもあるという記憶が。

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