MOVIE+BOOK - 千年の祈り              

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千年の祈り

著者 イーユン・リー
新潮クレストブックス

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 1972年北京生まれ、96年渡米、アイオワ大学大学院で免疫学修士号取得の後、創作科修士号取得、と言う履歴の女性が、英語で書いたデビュー短編集。
 その短編のそれぞれが、見事な名作です。
 たとえば最初の作品「あまりもの」、51歳で林ばあさんと呼ばれる独身女性が、年寄りのヘルパー代わりのような縁談を世話される。アルツハイマーのその夫を風呂に入れているとき突然正気に戻った夫が暴れだし、バランスを失って倒れ、死んでしまう(認知症だったのに亡くなる前には正常な物言いをしたのが私の祖母、そんなことがあるらしい)。息子は義理の母に一銭も渡さず、代わりに全寮制の学校の仕事を紹介する。1人の小学生の面倒を見るうち恋にも似た思いを抱くようになる。不憫な子の変わった性癖を見逃してやる。ある日、その子が起こした事件が元で林ばあさんはクビになる。
 まあそんなようなストーリーの運びなのだが、一つ一つのエピソードはかなり厳しいものなのに、いわゆる自然主義的な描き方にならない。淡々とどこか日本昔話とか、寓話のような空気を帯びて、救いがある。
 かつて宦官を輩出した村を背景にした話や、そうかもちろん中国にだってゲイピープルはいるんだよね、いないことになってるから迫害されるけど、で、偽装結婚してアメリカにわたって、と言う話、中国四千年とも五千年とも言われるその歴史の、今に至るまで理不尽な問題は尽きないあの国を背負った、深さ。

 中国人が英語で書いて、ところどころ中国語の表記があって、それを日本語に翻訳する過程で、その英文の空気はかなり正しく伝わっているのか?英語でこのレベルの文学を読みこなす力があったらなあ・・・と思う。

 2007年の年末から2008年の年明けにかけて読みました。短編集なので少しずつ読んでも大丈夫。

BOOK
2008.01.13 00:55

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