著者 松岡環
出版社 平凡社
もしもあの時SARSが流行っていなかったら、もしも中国人スポンサーがそのまま映画制作にかかわっていてくれたら・・・歴史にもしもはあり得ない、けれども、ほんの少し空気が動いただけでレスリーの人生は変わっただろうにと思うのだ。あの年の4月1日の夜にNetにつないだら、彼がホテルから飛び降りて死んだと言うニュースが飛び込んできたのだった。
そのレスリー・チャン張國榮の軌跡と、香港の現代史を重ねて描き出している。目次を紹介すると、2.少年期:中国とイギリスの狭間で 3.ティーン期:イギリスの旗の下に 4.デビュー期:香港文化の誕生 5.開花期:爛熟する香港芸能文化 ~ 9.萎縮期:時代の渦の中に消えた命 といった具合だ。香港映画や香港ポップスが好きな人はもちろん、必ずしも芸能には興味ないけれど香港好き、と言う人に是非お勧めしたい。
私はさほどレスリーファンだったわけではない。トニー・レオン梁朝偉や周潤發のほうが好きだ。けれども中華圏の映画で好きな10本を選べと言われたら『さらば我が愛覇王別姫』と『男たちの挽歌(英雄本色)2』は必ず入るだろう。不世出と言う言葉を使うならトニーだってチョウ・ユンファだって不世出には違いない、そしてレスリーの亜流はいくらでも出るだろう、が、レスリーは、本当に稀有な存在だった。レスリーの歌には興味無かった、が、その死後しばらくは、彼の歌う「月亮代表我的心」がラジオから流れるとウルウルしてしまうのだった。同性愛を犯罪視する中華社会で、パートナー唐唐にささげると言う形でカミングアウトしたも同然だったその歌。
著者はインド映画や香港映画のライター。NHKFMの番組アジアポップスウインドで、たまにインド映画の紹介をしている。
atcon 2008.07.07 08:51 edit
『さらば我が愛覇王別姫』は私にとってもベスト10に入る映画です。レスリーチャンは切ない片思いをするゲイの役だったけど、金城の「アンナマデリーナ」にもちょっこと出ていて、そこでは女の子から片思いされているのに気がつかない、ごく普通の妻子ある男性役でした。
中国って同性愛に厳しいんですね。知りませんでした。素晴らしいゲイ映画をたくさん撮っているのは、その反動かもしれないですね。