MOVIE+BOOK - 風が強く吹いている              

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風が強く吹いている

ファイル 194-1.jpg著者 三浦しをん
新潮文庫

駅伝というのは駅馬・伝馬制から来た言葉なんだそうだ。もとは古代まで遡って存在する、それは知らなかった。

竹青荘というおんぼろアパートがある。そこの管理人もどきの役をしている学生・清瀬灰二(ハイジ)が、偶然銭湯帰りに見かけた走る男・蔵原走(カケル)を追いかけて、声をかける。走るの好きか?
カケルはパンを万引きして逃げていたのだが、そこにはそれなりに理由が・・・ってそれは正しくない行動ですよ、ですが。
実は高校陸上界で有名だったカケルをスカウトしてアパートに引き入れる。全室埋まって計10人の、まことに個性豊かな寛政大学の学生が住むことになり、そして、年月に薄れ汚れたアパートの表札には寛政大学陸上競技部錬成所と書いてあることが明かされ、箱根駅伝出場を強制される。

数十年前には、中学駅伝なんてものがあった。当時中学の体育教師だった父が駅伝部の指導もしていたので、襷を作ったり、その襷にゴムを通してひらひらしないようにしていた母の姿を覚えている。
で、昔から正月はいつも箱根駅伝を見ているが、ほとんどは陸上で有名な高校からスポーツ推薦で大学進学して、何十人もいる駅伝部員の中から選抜され、なのに運悪く体調万全でその日を迎えられなかった人は、当日にメンバーチェンジとなることも珍しくない。

そんな中、ぎりぎり10人ぽっきりの、ハイジとカケル以外は長距離経験の無い学生が集まり、訓練開始。無理やろ、そりゃ・・・失礼やろ、目指して生きてきたほかの学生たちに。と、思うが。

脚を傷めて陸上を続けるには致命的な欠陥を負ってしまったハイジ、高校時代、徹底管理型の指導に反発して部活を飛び出すことになった経歴を持つ走りの天才カケル、そして、それなりに周到なる観察を持って選ばれてアパートの住人となった残り8人。
実に、よく考えられた訓練であるように思われる。情けない状況に始まり、商店街を巻き込み、次第に、みんなが長距離を走る事に夢中になっていく。速くなることではなく、強くなること、という言葉のもとに。
―優勝できなきゃ、走れないのか?じゃあおまえら、いずれ死ぬからって生きるのやめんのかよ―
軽くビミョーな恋愛物語を絡めつつ、襷をつなぎ、人とつながり、成長していく。

後ろに著者による謝辞、並ぶ名前の中に大東文化大・法政大の駅伝関係者がある。徹底管理型ではなく、若者をどう伸ばしていくかに腐心している小さな陸上部、というものを求めて問い合わせ、推薦されたのだそうだ。そうか…その雰囲気のまま続いていることを願おう。来年の箱根駅伝の見方がちょっと変わりそうだ。

ラジオドラマ・演劇・映画化されている。映画は小出恵介、林遣都出演。

かつて読んだ『まほろ駅前多田便利軒』先日の『月魚』と、まことに面白かったので、続けて三浦しをんを読んでみました。守備範囲が広い、それぞれに面白い、かつ、この人のエッセー『夢のような幸福』まで読んでみましたところ、あの中島みゆきの歌としゃべりの落差を彷彿とさせるトンでも無さ(褒め言葉です)でありました。

BOOK
comment(0) 2011.08.30 09:30

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