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人のセックスを笑うな

ファイル 42-1.jpg
山崎ナオコーラ著。河出文庫。
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 ぶらぶらと垂らした足が下から見えるほど低い空を、小鳥の群れが飛んだ。
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 と始まる。なんだ?あー、小鳥の足ね。にんげんの足をイメージしてしまった。

 39歳のユリちゃんと美術の専門学校の学生のオレ、の、恋愛、セックス。まあ、はっきり言えばその学校の教師であるユリちゃんに押し倒されたようなその関係、しかもユリちゃんは既婚。そのだんなさんである猪熊さんに、ちょっと好意を抱いてしまうオレ。なんんだかわかるようなわからないような悩みを抱えているユリちゃんに、結局振られてしまうオレ。

 女性にとっての夢みたいな小説、とも思える・・・。若い男性が読んで、どうなんだろう。若い男性にとっても、やっぱりある種夢みたいな、小説だろうと思う。ぴちぴちギャルにしか興味のないオトコノコもいるだろうけどね。ワタナベジュンイチと言う人がいつもある種の男の夢みたいな小説を(本人は現実を書いているつもりだろうけど)書いていて、読みたくもない私ですが、そういうのと、は、違う。言葉、表現のセンスがね、まるで。

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comment(0) 2007.01.22 21:37

恋文の翻訳ー日中おうらいー  陳躍

 ファイル 41-1.jpg 通い始めた頃の中国語講座の、隣のクラスの先生は、南日本新聞に連載されていた「日中おうらい」をを書いている人だった。ラジオやテレビの中国語講座を頼りに独学で中国語を勉強しているころ、中国関係と見ると何でも飛びついたものだったのだ。が、そんなことを抜きにしてもとても楽しく読めて発見が多い読み物だった。
 まとめて本になった物をあらためて読み直すと、実に、うまい。時に鹿児島弁を交え(~だがね、とオクサンが言うとか)、時にオチンチンを中国語でなんというか(小鶏鶏シャオジージと言うらしい)など入り込み、人に読ませる、読んでもらう文章を書くこととはこういうことか、と思う。それでいて中国人と日本人の違い、誤解がどこから来ているか、理解できてくる。それはもちろん著者の人柄と、身に備わった文才あってのものだが、それに加えて、どんな風に努力し、工夫したことだろう。1958年上海生まれ、文革を経験、上海師範大学卒業、筑波大を経て1994年鹿児島大学大学院文化人類学研究室修士号修得、とプロフィールにある。
 そして、この陳先生は、日本語で書いた詩集『故郷』によって2004年には地元新聞社の主催による南日本文学賞を受賞している。詩ですよ!

 これを読んだあとに、梨木香歩の随筆『春になったら苺を摘みに』(新潮文庫)を読んだ。 1959年鹿児島生まれであるという著者が、英国滞在中に出逢った人々との交流が描かれている。下宿の主人ウエスト夫人という稀有な豊かな女性を中心に、交友が広がって行く。
 両方の著作に共通しているのは、他国の言語を、日常生活に不自由ない以上、ある程度哲学的形而上学的なことまで表現できるところまで修得した人の、出来うる限り公平であろう、わからないことまでわかった気にならないで、且つ、自分の位置にしっかり立っていようとする姿勢、というようなことだ。

 自戒し、ああもうちょっと中国語をきちんと勉強しようと思うああるであった。
 

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comment(0) 2007.01.15 13:24

聖なる黒夜

ファイル 2-1.jpg文庫化で再読。できるだけ同じ作家の作品は取り上げないよう心がけたいのですが、柴田よしき作品感想文2作目です。
 RIKOシリーズ・花咲探偵シリーズの読者ならKOされてしまったに違いない、山内練、と麻生龍太郎の、冤罪に始まる出逢いからの物語。
 よく出来ているんですよこの物語。緑子や花ちゃんを知らなくても、この物語だけで成立しています。伏線の張られ具合は、あの香港映画『インファナルアフェア無間道』並(すみません、知ってる人しかわからないお話で)。やくざ・警察・男と女・男と男・男妾・恋愛・情事・冤罪・・・。
 山内練、朝日に透けると金髪に見える柔らかい癖毛を持つ見事に美しく恐ろしく酷薄な経済やくざ、に、まだなりきっていない、時期の物語。育ちのいい少年がなぜそうなっていったかが明かされる物語。そこに何重もの異なる人々の思惑が絡んでいた…。マイノリティに生まれついた人間たちの物語。
 再読でいっそう酔わされました。山内、麻生、それに初めに殺害されて発見される韮崎ほか、実在の俳優でキャスティングを考えることが大変難しい、けれどもつい考えてしまう、深く捩れてしかも魅力的な男たち女たちの造形です。

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comment(2) 2006.12.24 23:30

プラダを着た悪魔 ローレン・ワイズバーガー

ファイル 6-1.jpg ハヤカワ文庫

 映画はご覧になりましたか?私は見ていません。これは本の感想です。
 いやあ面白い!作者がなんたってあの“ヴォーグ”に実際勤めていたのだそうですが、超有名ファッション雑誌の超有名女性編集長のアシスタント新人の奮闘記、この編集長のわがままぶりアシスタントこき使いぶりがすごいのであります。・・・という話は映画の予告編だけでもだいたい御存知ですよね、皆様。
 映画でどんな風に描かれているのかわかりませんが、なんと言っても世界の何百万の女の子の憧れの雑誌の編集長は、それはやっぱり偉大な人なのだと、そこはかとなく感じられる気配が描かれています。そして、そのことが最後近くに至って・・・!なのだけれど・・・!

 たとえば村上龍の『13歳のハローワーク』を読んで自分に一番合う職業を探す、と言うところから始めるやり方もあるでしょう。が、決して自分が望んだ形でなく、決して反論できない、ハイ、と言って引き受けるしかない状況で一年働き続けることは、ヒトの成長にとって必要なことかもしれない、と、言う気が、するこの小説でありました。

 ジュディス・クランツという作家の小説『スクループルズ』とか、映画界やファッション界や超の付く一流の人たちの世界を描いたもの、にしばらくはまって読みました。その面白さに、ちょっと似ています。ゴージャスな世界を覗けるとかね。

 さて、わがままで馬鹿だったのはこの主人公か編集長ミランダか?は読むヒトの立場によって受け取り方が違うでしょうが・・・ワタシには無理、ワタシったらなんてアホなムスメだったんでしょう、あのころ。あーごめんなさい、昔の職場の方々。

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comment(0) 2006.11.28 12:48

「プリズンホテル」 浅田次郎 著 集英社文庫

ファイル 16-1.jpg 初めて浅田次郎を読んだのは『蒼穹の昴』だった。その年の私のベスト1を、『斗南の翼(12国記シリーズ)』-小野不由美著-と争ったのだったと思う。
 その後『鉄道員(ぽっぽや)』で直木賞、次々映画化される売れっ子作家となられたのだった。短編だと、泣かせ方が、あざといほど上手い。もういいよ、と思ってしばらく読んでいなかったのだ。

 で、この、もっと前、1993年に書かれているプリズンホテルを読んでみたら・・・う・ま・い!なあ、今更だけど。

 極道小説を書いている小説家木戸孝之介が、やくざの親分である叔父の経営するホテルに行ってみると、そこの従業員は極道さん及びタガログ語を話す中居さんたちで・・・。

 何だこいつ、とはじめに思わせておいて、その物語のたどり着くところでは…お上手! はまってしまいましたわ、きっと秋編もすぐ読んでしまうことでしょう。いや、こんなやくざさんたちいないやね、それはそうだけどね。

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comment(0) 2006.08.08 21:43

「我が手に拳銃を」「李歐」 高村薫 著

ファイル 19-1.jpg 「我が手に拳銃を」第一刷は1992年講談社より出ています。が、現在は古本しか手に入りません。これを元にしてあらたに書き下ろした作品が「李歐」講談社文庫。

 「我が手に…」たまたまブック○フで目にしたのです。元々「李歐」は大好きな作品、なので読み比べてみました。
 なるほど…なるほどこういう風に、と思いますよ。小説の成り立ちと言うのはこういう風に、と。

 1992年初版ということは、改革解放政策実施から時はたったものの1997年の香港返還までまだ時間がある中国、この時代背景でしか成り立たないかもしれないのではないかというつくりになっているのが「我が手に…」。
 リ・オウも李歐も複雑な政治のからむスパイでありやくざ社会に身を置く者として描かれることは同じ、一彰と李歐の、互いの一目惚れ(限りなく恋のような)から広がる物語であることも、さまざまな背景・道具立ても同じような物であって、で…。  「我が手に…」の方だと、なぜその一目惚れが起るのか、どうもそこの化学作用がうまく描かれていないのです。必ずしもゲイではない男二人が、出会いの初めから魂が惹かれあう、ということが、「李歐」では映像的に読者を納得させる描き方になっています。
 そして、桜の木。どちらにも、一本の桜の老木が出てくるのだけれど、そうそう、この「李歐」に出てくる桜の木の下の花見、これが出てこなくちゃ、この妖気をまとう満開の桜のもとに、これが物語を支える大きな軸なのだから。そして、最後の章で、大陸の大地に五千本の桜を植樹したという櫻花屯へ。この壮大な映像によって、幾多の悪事に手を染めながらも、その生が美しいものとして受け止められるのですよ、李歐。
 そして、かの○○ファンドや○○○ドアに似た形で巨額のお金を手にしたけれどもその後大陸で農地開拓をしているのです!ぼろもうけしたあとのお金の使い方。1999年初版の「李歐」が、この2006年のIT成金たちに警告している感があるのでした。
またつい最近、我が日本でかつて民社党という政党が結成されたのは、社会主義勢力の拡大を懸念したアメリカCIAが当時の有力政治家に資金協力して社会党右派を分裂させた結果、という報道なんてねえ、事実は小説よりも…でしたね。魑魅魍魎。
 
 あー、二作とも中国語の表記に問題があるのではないかと思われます。私のつたない中国語力で確実に指摘できるのは「我が手に…」の方の簡体字(中国大陸で使われている漢字)にひとつ存在しない文字があること。 
 
 「李歐」は、WOWOW開局10周年記念ドラマとして放映されたことがあります。李歐が香港のダニエル・ウー(呉 彦祖)、日本語ぺらぺらのはずなのにあーひどい日本語、だけどあれだけ美しいから許そう。一彰役のRIKIYAは、あの時点では演技がへたくそ過ぎました。李歐に彦祖を、というのは高村薫さんのたっての希望だったとか。

 ところで、高村薫原作の『レディ・ジョーカー』を映画でしか知らない方、合田刑事はあんなに若いおとこではありません。もしお読みになるなら『マークスの山』『照柿』と順に読んでくださいね、でないと「李歐」とよく似たあの△△と◇◇のあの・・・に!!!とならないと思うので。

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comment(0) 2006.07.23 14:02

「青鳥」 ヒキタクニオ著 光文社文庫

ファイル 21-1.jpg この本を手に取ったのは、「青鳥」にチンニャオと北京語読みの振り仮名があったから。ヒキタクニオという作家の名前を見た憶えはある、という程度。中にもちりばめられている中国語読みの振り仮名が、なれない人にはしばらくわずらわしいかも。
 
 台湾出身、アメリカ留学経験のある29歳の女性が、日本の広告代理店に勤めているのです。顧客は(この場合クライアントは、と言わなきゃね)、外資系企業、さまざまな国籍の同僚がいて、不可解なコスプレが日々変化する上司(ただし有能)がいて、ポリティカルインコレクトが舞い踊り、トラブルは嵐と吹き荒れる。その中でいかに生き抜くか?恋のカケラも…。
 
 コスプレ上司の藤原統括部長を古田新太で連続ドラマ化、と妄想しました。ちょっと29歳台湾女性がね、むずかしいな。映画『村の写真集』http://www.murasha.com/に出てたペース・ウーさんなんかいかがでしょうか(って誰にお伺い立てているのか)?
 
 まあとにかくTV映像化をすぐ考えたくなるつくりの、キャラクターたち、ストーリーです。この業界にかかわってた人かな、ヒキタさん、と思ったら、イラストレーターでマルチメディアクリエーターだって。
http://www.faceful.org/odoruganmen/hikitakunio.html「踊る顔面」ここで遊べますよ。
 気楽に読めて気分が良くなる、つい藤原統括部長をもっと見せてくれといいたくなるお話でした。

BOOK
comment(0) 2006.07.02 23:18

「イルカ」よしもとばなな

たまにはベストセラーを、と、噂の本屋大賞『東京タワー』リリー・フランキーか、あの劇団 ひとりの『陰日向に咲く』かどちらか読んでみるつもりで書店に行ったのに、買ったのはよしもとばななの新作「イルカ」だった。
十いくつ年上の女性ユキコと長く付き合っている五郎と、小説家のキミコの出会いがあって、妊娠ということが起り、結婚はしないけれど出産する、と短く言えばそういうお話。
あっさりと淡々と性的に放縦な人が出てくることがよくあるばななさんの小説、以下はたとえば「イルカ」におけるその種の表現の例。
☆当時あまりにもやりまくりすぎて、今は肉体関係を結ぶことは盆暮れ正月にもない
☆たいていの人はなんだかんだ言って、セックスのマナーが気持悪いのだ。なにで勉強したかわかってしまう。人間相手に勉強した人は意外に少ない。
☆「ええと、失礼ですが、あの時期に俺以外の人と寝ましたか? 他に可能性のある男はいますか?」
そして、超自然的な、オーラの泉的なことがこの小説の中でも当たり前のように起っていく。イルカには人間の心を読む超能力があると言う話をよく聞くが、3回目のデートで 水族館に行ってイルカをみたその夜、五郎と寝た、というエピソードがあるだけ、それでこのタイトルになる。
たとえば「キッチン」でも、肉親ではない人たちとの擬似家族関係のようなことが描かれる。そしてある種、浮遊・変動するであろう関係、のなかでの信頼というようなものが 描かれる。
☆「私たちにはこういうフレッシュな生き物が必要だったのね!」と妹は何度も言った
というシーンがある。
私にもね、こういう、命の、光の、物語が必要で、梨木香歩の「沼地のある森を抜けて」や、 この「イルカ」にふっと引き付けられたのだと思う…高齢家族との、滅びに向かう日常のなかで。そして、今生における我が身の人との関係のありようを反省し、来世にはもう少しまっとうに潔く、と心するのでありましたよ、いや、私事にて失礼。

BOOK
comment(0) 2006.05.08 14:40

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