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空中庭園

ファイル 129-1.jpg監督 豊田利晃
出演 小泉今日子 鈴木杏 板尾創路 大楠道代

 団地に住み、“何事も包み隠さず”というのがモットーである家族。なので、高校生の娘は「私が仕込まれたのはどこ?」という質問をし、つまり生を授かった場所は“野猿”なるラブホテルであったと、親は答えるのである。

 当然のことながら、家族それぞれに言えない秘密を抱え込んでいる。それぞれが“野猿”にかかわっている、あるいはかかわってくる。

 小泉今日子が見せる“完璧な笑顔”と呼ばれる表情がすごい。名優加藤治子さんの、無邪気な毒(すみません、矛盾してます、はい)を含んだ表情を思い出した。
 この妻とその母親との関係が、そもそもの原因で、この絵に描いたような仲の良い誕生日はもちろんのこと娘の初潮、息子の性の目覚めまでが家族でお祝いされる家庭ができているのだ。
 
 母と自分との関係を憎み、それを反面教師にするということ。
 
 別に不思議はないよね、ある娘は愛が少なかったことを、ある娘は過剰だったことを、理解されなかったことを、スポイルされたことを、なぜあなたはそうだったんだ?と心の中で責め、自分はああはならないと思う。

 脇役のキャストが豪華だ。国村隼・瑛太・ 勝地涼・ソニン・永作博美などなど。2005年作品だと瑛太をこんな風に…と思う。大楠道代さんなんてあの美人女優が・・・である。

 どんどん壊れていくかに見える母の精神状態、みんなの関係が、最後に光が射して、再生に向かって、終わる。

 のだと思うのだが、それすらも母の妄想かもしれない・・・ような終わり方でもある。ので、原作はどうなんだよ、と、それから角田光代の原作を読んだ。
 映画ではいまひとつパッとしない息子が、原作ではこれがなかなか良い。賢く、感性のいい男の子さんだ。この子によって救われている。
 原作によれば、映画の最後のシーンはまさしく母の妄想であったのだけれど、原作の終わり方もやはり光に向かっている。ああ安心した、映画もきっ$FILE1_rとそうなんだよ。

 すぐれた日本映画というものはすごい、と、『ぐるりのこと』と同時にDVDを借りて見てつくづく感じましたさ。2005年公開。

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comment(3) 2009.10.26 11:14

しゃべれどもしゃべれども

ファイル 109-1.jpg著者 佐藤多佳子
新潮文庫

 小説のほうです。映画でなく。
 この作家の“一瞬の風になれ”は(それ以外も)未読。友人から借りた数冊から、ちょっとめくった感じがきっと今の私はこれだ、と思って読み始めました。

 結論、まことに全く実に、うまい!気持ちよくうるうるして読了。見そびれた映画情報で国分太一が落語家役ということだけは知っていた、けれど原作の落語家今昔亭三つ葉に国分太一のイメージはない。
 対人関係を要領よく結べない、いわゆる不器用な人間が3人、若い女性、むくつけきもと野球選手、小学生の男の子、が、二つ目の落語家に落語を習うことになる。そもそもその落語家にしてからが・・・。

 自分にちょっと自信がない、なにかしらわが身を否定的に見てしまう、ような(時期があった)タイプの人には必読の書です。『本の雑誌』1997年度ベスト1だったそうです。

 で、映画のDVD借りてきました。ん?テニス青年綾丸良は出てこないのかー・・・。


追記 映画「しゃべれどもしゃべれども」DVD鑑賞。http://www.shaberedomo.com/
 これはこれで、なかなかいい作品です。映画としてわかりやすくするためにはこんな脚本になるわけね、と、それはそれで納得できます。ちょっと、香里奈がまだこの時点では女優として無理がありますな。猫のような、という原作の設定には合ってますが。内面の屈折が見えなくて、ただの仏頂面の若い女な感じがどうも。関西弁少年が大変よろしい。国分君もなかなか悪くない。本物の寄席に行きたくなります。
 
ちょっとやっぱり、屈折度には欠けるけどね。

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comment(2) 2009.01.29 13:02

グーグーだって猫である

http://www.gou-gou.jp/index.html
ファイル 101-1.jpg監督 犬童一心
出演 小泉今日子 上野樹里 加瀬亮
原作 大島弓子『グーグーだって猫である』角川書店
 
 大島弓子といえばまず『綿の國星』、それから『バナナブレッドのプディング』、好きなマンガ家さんだけどそんなにたくさん読んでいるわけでもないんだな、と、映画の中で麻子さん名義で出てくる全集を見て思い知った。
 私は吉祥寺の町に住んだことは無いけれど、妹が数年住んでいたので、井の頭公園とか、いせやとか、そうそう、と思う。妹は楳図かずおサンを見かけると言っていた、吉祥寺と言えば楳図かずお。
 授賞式のパーティーのシーンで、この人誰だっけ?と思ったら角川継彦氏だったみたい。槇村さとるさんはわかったけど、きっとほかにも意外なカメオ出演がいたんだろうな。

 小泉今日子サンが、静かな穏やかな表情で天才マンガ家を演じる。サバという猫のことは大島弓子サンのマンガを読んでる人なら知っている(はず)、そのサバが死んでしまう。人間だったらおばあさんのはずだけど、擬人化した姿は少女。で、マンガを描けなくなった麻子さん。

 元メガデスのマーティ・フリードマンが狂言回しの感じで出てくる(中華な映画ファンなら、「ラブソング」に出てきたクリストファー・ドイルを思い出さなかったかな?)。

 ちょっと、脇役の面々が気にならなくもないのだが、後半、状況は一変し・・・。
 
 猫好きの人たちには、猫のシーンが少なかったと文句を言われているようです。私は格別な猫好きではないせいか、充分可愛いグーグーちゃんを見た気がする。

 今、わたしの身近に緩和ケアを受けている人がいます。そういうこともあって、私にはよく笑えてしーんとする良い映画でした。
 レイトショーで見て、12時ごろ帰りついて、目の前の○タヤに原作を探しに行きましたさ。たぶんこれはずいぶんアレンジされてるのでは?と思って。ちょうど文庫で新刊が出たばかり、、その2巻めしか読んでないけれど、これまた良い、マンガ形式のエッセーでした。まあこんなに淡々と、入院・手術に向かえるものなのね。残りも読みたい、でも残りは一冊1100円の単行本しか置いてなかった・・・ちと高くないかい?

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comment(0) 2008.09.13 22:44

クライマーズ・ハイ

ファイル 93-1.jpg
climbershigh.gyao.jp
原作 横山秀夫
監督 原田真人
出演 堤真一 堺雅人 尾野真千子

 1985年夏、御巣鷹山日航機墜落事故発生のその時、群馬の地元新聞社の記者たちがどう動いたか、それとその当時全権デスクとして指揮に当たった男と息子との関係、現在その男が山に登るシーンとを交錯して描いていく。

 すごい臨場感。その頃はまだ携帯電話はほとんど普及していなかった。その地方新聞社では無線すら備えてなかった。編集部ぼ記者たちの勢力争い、思惑違い、瞬時に判断しながら刻一刻変化する状況との戦い、新聞社内の他の部門とのせめぎあい、中央紙に対抗する思い、クソ腹立たしい社長・・・観客の私も堤真一演じる主人公と共にコイツケチラカシタイようなこともたびたび。
 
 原作が横山秀夫で監督が原田真人なら、あるレベルは保障されている。が、原田真人監督作品のなかでも私の好きなものとそうでもない物がある。どうなんだろう・・・と思いながら見に行ったのだ。私にしては珍しく、こういう正統派の(日本アカデミー賞候補確実な)作品を、今年の日本映画No,1候補に挙げることとなった。

 この映画関連で出演者3人でおしゃべりする番組に出ていた堤真一、私にとってはたいへん印象的だった1987年のNHKドラマ「橋の上においでよ」あたりではまだまだ俳優をやっていく気は無かったらしい。JACがオーディションに行かせるから・・・ぐらいで。舞台やってるんだなーと思いながらその後サブ監督の映画でむやみと走っているなんだか理不尽な姿を追いかけていたんだがワタクシ。

 御巣鷹山というのは、坂本九が亡くなったあの航空事故ですが、映画にはそれは一言も出てこない。
 
 この作品は原作をどの程度変えてあるんだろうと思って、すぐ原作を読んだ。うーむ、そうか・・・。
 
 最後のクレジットで名前が流れる中に、南日本新聞社の人の名前があった。地方新聞社としてなんぞ協力したのかな。

 
 

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comment(0) 2008.07.24 14:49

サウスバウンド

ファイル 70-1.jpg
小説
奥田英明 著
角川文庫 上下巻

映画http://southbound-movie.com/
監督 森田芳光
出演 豊川悦史 天海祐希

 管理人actonさまお勧めの奥田英明「サウスバウンド」です。小説については、読み始めこそ父親語る全共闘世代言語が嫌いな私にはつらいものがありましたが、いや、面白かったです。ただの過激派バカ(こんな言葉はありませんが)ではない、最近の環境問題をテーマとするさまざまな動きについて時に胡散臭く感じられたりすることなどがきちんととらえられた、作品でありました。
 元過激派で破天荒な父親を持った子供たち、実はお嬢様だったのだがこれまた実は元活動家であった母親。世の流れになあなあで同調することの無い父親の故郷である、沖縄の西表島に移住することとなる。そしてそこでも開発業者や政治家相手に戦う日々となり・・・。最後のシーンが、なかなかファンタジーな匂いである。これ、『ティファニーで朝食を』は、カポーティの原作によると主人公ホリー・ゴライトリーはどうやらアフリカに行ったり“旅行中”の生活を送っているらしい結末になっている、ということを連想させる(のは私だけかも)。
 
 で、映画ですが。
 森田芳光監督作品は、佳作と駄作の波が大きい。で、佳作ではない。が・・・駄作と言うより、中途半端。
 予告編を見た時の違和感が、そのまま当てはまってしまった。まずここは、トヨエツ、ではない。破天荒だけれど彼なりに筋が通っていて、豊かであるからこの妻や子供が付いてくる、というキャラクターをやるのにほかに誰が?と思うとたとえばいにしえの坂東妻三郎、緒形拳、原田芳雄、うーん、松田優作・・・今の40代の男では?50代だけれど三浦友和なんて良いかもしれない。父性が見えそう。40代・・・佐藤浩市では?
 で、肝心な台詞が無い。その島が琉球に支配された歴史を持つこと、環境問題を高らかに口にすることでろくに仕事をしない言い訳にしている人間、など。だからただのやかましい全共闘オヤジにしか見えない。脚本の問題。

 とても良いのが島の警官役の松山ケンイチ。それと上原家が移り住んだ島の家はセットだそうだ。すごい。

 かつて豊川悦史・天海祐希・金城武で『ミスティー』という失敗作ありけり。この組み合わせがいけないのか?最後のシーンも、ニライカナイ求めて旅立つような風を感じない・・・。

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comment(2) 2007.10.27 00:05

アルゼンチンババア

ファイル 50-1.jpg
http://www.arubaba.com/
監督 長尾直樹
出演 堀北真希 役所広司 鈴木京香

 木曜日のレイトショー22時過ぎから、だからと言って…1人で貸切状態のシネコン。
 なんというか、これはちょっと原作と離れた脚本なんだろうな、と思われる雰囲気、読み慣れたよしもとばなな作品の匂いと違う、と思ったので、あとから原作を読みました。

 で、やはり、ちょっと違う作品で、たとえば森田芳光監督『キッチン』は原作の雰囲気そのままを表していたと思う。香港映画で富田靖子が主演したものだとまた変な気配だったけれど。同じように身近な人の死から始まる、そこからの再生の物語、なのですが。
 うーん、私の好みは、やはり原作の淡々とした運びです。それぞれ役者さんはいいのですが。原作では鷲鼻痩せぎすのアルゼンチンババアを鈴木京香さんにキャスティングすることをまず決めて始まった企画か?
 が、しかし、この映画のホームページはなかなか楽しめますよ。御訪問ください。

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comment(0) 2007.04.11 12:25

陽気なギャングが地球を回す

ファイル 26-1.jpghttp://www.yo-gang.com/

監督 前田哲 出演 大沢たかお 鈴木京香 松田翔太 佐藤浩市 

伊坂幸太郎 著 祥伝社文庫

人の嘘を見抜ける男 ( 大沢たかお ) 、体内時計を持つ女 ( 鈴木京香 ) 、天才スリ ( 松田翔太 ) 、饒舌なる演説男 ( 佐藤浩市 ) の 4 人による銀行強盗、それを略奪する別のギャングたち、さてその成り行きは、というお話。こういう映画ってこういう結末になってくれなきゃね、という作品です。本広克行監督の『スペーストラベラーズ』と似た設定だな、とかメル・ギブソン、ジョディー・フォスター共演の『マーヴェリック』に雰囲気似ているかな、とか思いつつ見ていると、なんだか佐藤浩市演じるところの男がいろいろ薀蓄かつ屁理屈を述べてくれるのでして、そんなことや、銀行強盗になんとまあサイケデリック ( 死語? ) 漫画チックなスーツをお召しで、なんてことによく笑いました。

素っ頓狂な役柄になると鈴木京香さんはとってもいいのですね、いつもながら ( 『ゼブラーマン』のゼブラナースとか ) 。松田翔太は・・・まだ素のままそこにいる、という感じ以上ではなく、この素材を上手く生かしてくれる監督・作品に出会うことをお祈り申し上げたいものです。大沢たかおさんは佐藤浩市より松田翔太より背が高いのね。こんなかっこいいい強盗団がさっさとつかまらないなんて、と言っちゃいけません、かっこいい男たち、かっこいい女たちが、おー、そうですかこんなことに、と楽しんでしまえばいいシンプルな作品。

小説の方は、それぞれの章ごとにキーワードの解説がついていますが、
じかん【時間】人生の充実と比例して進みが速くなる。退屈と比例して進みが遅くなり、授業中には止まっていると錯覚を受けることもある。
 がその一例。
 響野氏の饒舌な薀蓄も映画よりバリエーション豊か。
 4章からなる構成というのはリチャード・スタークの“悪党パーカー”シリーズと同様なのだそうです。それにも手を伸ばして欲しいと解説にあるので、いずれ手を伸ばす所存です。

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comment(0) 2006.05.28 14:55

博士の愛した数式

私にとっての2006年の日本映画ベスト3確実。浅丘ルリ子さんの助演女優 賞ほぼ確定。薪能のシーンがあります。そこで、手が重なる、そしてそのあとの 浅丘ルリ子さんの表情、だけでも。
『雨上がる』『阿弥陀堂だより』に続き、小泉座座付き役者?の寺尾聡は、ち ょっとこの背中かっこよすぎ・・・と思われたりするけれど。
中学2年の担任に、おまえの数学は算数以下算術以下忍術だ、と言われた経験 を持つ身、この映画を見て数学に興味を持ってくれる子どもが増えることを祈り たい。素数ぐらいは知っているけど、階乗とか映画だけでは理解 不十分だったワタクシ、帰りに原作を買って帰り、読みましたよ。なーんでこれ 早く読まなかったかなー。原作の博士、ルリ子さんの演じた役の人、ともにかな り映画とは造形が違います。小説を、全体の雰囲気をそのままに映画というエン ターテインメント化する場合のお手本のような形とも思えます。寺尾聡をキャス ティングする前提で選んだはずだし。原作を先に知っている人にとって、浅丘ルリ子さんではないかもしれない、でも彼女の姿があってこの映画は成り立ってい ると思われます。

MOVIE+BOOK
comment(0) 2006.02.09 14:08

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