2023年3月29日(水曜日)
脚本・監督・製作 ダニエルズ
出演 ミシェル・ヨー キー・ホイ・クァン ジェイミー・リー・カーティス ステファニ ー・スー
噂のエブエブ、観てまいりました。
予告編を何度か目にしたし、トンデモな展開になることはわかっていたけど。
くたびれた中国系アメリカ人のエヴリン、コインランドリーを経営している。夫は、実は離婚を考えている。娘には女性の恋人がいる。父親が中国からやってくる。ある日、国税局から呼び出しを食らう。経費と認められない出費のことで責められている途中で、夫ウェイモンドの様子が変わる。別宇宙から来た別のウェイモンドだと言う夫は、強大な悪人を倒せるのはエヴリンだけ、と告げる。
別の宇宙でも人々の姿かたちは同じで、別宇宙に同時に存在して行動している、マルチバースってもう付いていけないじゃないか・・・何がどうなってるって?かくもあり得た様々なエヴリンがあちこちの世界に存在する、そしてその別宇宙の悪人は、母子の関係が良いとは言えない娘ジョイだった。
展開が忙しく、マルチバースに移動するには妙な手段が必要で、そりゃあお下品な手段もあり、なんだこれ、こんなのがアカデミー賞総なめ?と疑問符もわくというもので。
全体では英語だが、中国人同士の会話は中国語、基本は北京語で、でもおじいちゃんは広東語だからエヴリンは父親とは広東語で話している。それ、変でないかい?そして、エヴリンの言葉の中に2回ほど神経病(シェンジンビン)てのがあった、キチ〇イというような意味だが、そんな訳は出て来なかった。夫の中国語がなんだか、と思ったが、キー・ホイ・クァンはベトナム系だから仕方がないのだった、発音はところどころ?なのだが声調は正しい、という地方訛りがあることにしよう、あるかもしれない。
結局、超壮大なホームドラマなのでありました。マイノリティ、LGBTQ、親子、イマドキの問題を満載してマルチバースにぶっ飛ばす、に、対応できる体力や技術を持った俳優がいて成り立った、超ドB級作品、が、アカデミー賞を獲る時代が、この今なのだな、と思います。もともと、エヴリンはADHDの設定だったそうで、なーるほど、と思われ。初めはジャッキー・チェン主役の映画として企画されたとか。全然別の話になったことだろうなあ。
2023年3月20日(月曜日)
著者 小津夜景
出版社 素粒社
先にatconさんのブログ Scrapbook で紹介されているので、タコブネがいかような姿のものか、などそちらへどうぞ。
そのatconさんに、私好みでありそうと薦められて。帯を、池澤夏樹が書いている、“この人、何者?”という書き出しで。まことに同意。俳人であり、漢詩について書いている、ということで、読み始めてしばらくは、男性だと思っていた私。ジェンダーバイアスってものですわ。
中国語学習者であるので(中級の入り口で止まったまま長年過ぎましたが)、紹介されている詩を、中国語読みして押韻を確かめたり、日本語の普通の読み下し文にしてみたり、そんなこんなで数か月。こんなに柔らかい日本語訳になるのは、著者がフランス住まいであることと関係があるのか?ほかの国に住んだことが無いから、漢詩の英訳や仏訳にお目にかかる機会はとんと無かった凡なる読み手の私。蘇軾の有名な詩『春夜』の 春宵一刻値千金 が、はるのよの ひとときは かけねなき ゆめごこち と訳される。そしてそこから、古田織部のお茶会で客が「春宵一服値千金」と感想を述べた、また、山東京伝の弟・三頭京山による“春宵一刻煙草二抄”という滑稽本、から、著者の母上が「春宵一服タバコにしよう」と口にしていた、と。さらにおさないころの著者はそれを開高健のコピーだと思っていたとは。おさないころ っていくつの頃?
たいそう教養あるヒッピーみたいなご両親の元に育った?小津夜景さん、と、勝手な想像。
小津夜景日記 というブログを今開いて、2023年3月13日付の文章を読んでみた。フォークとナイフ、そしてハサミ というタイトルのその文章がああうるわし。本で読むと、たぶん時間がかかるはず、まずこのブログからいかがでしょう。
2023年3月16日(木曜日)
監督 チャン・リュル張律
出演 ニー・ニー倪 妮 張魯一 辛柏青 池松壮亮 中野良子
自分がステージ4の癌であることを知ったドン。兄、チュンを日本の柳川への旅に誘う。かつてチュンの恋人であり、ドンもまた想いを寄せていた女性の名前も、“柳川 リウ・チュアン”だったから。彼女はある日突然姿を消してしまったのだったが、今は柳川で暮らしているという。
前半は、中国人向けの観光映画ですか?な、但し白秋とかお花とか柳川鍋とかワラスボとかムツゴロウとかトンと出てこない。水郷柳川の川下り、舟のシーンはふんだんに。オノ・ヨーコの生まれたところであることが、アクセントとして出てくる。
バーで歌っているリウ・チュアン、その歌はレノン、ヨーコの“Oh my love”、歌い終わるとまっすぐに兄弟のテーブルに向かってくる。なんと同じ宿に泊まっている。宿の亭主(池松壮亮)とイギリスで出会い、自分と同じ名前の場所が日本にあると知って、やってきたのだ。
死を前にして、唐突に消えてしまった青春の日の女性を思う、のはわからないではない。が、兄のほうはあり得ねえ!と言いたい。次第にわかってくるのだが、かつて兄はほかの女性に心を移したのだ。振ったくせに昔の女とやりたい男はそりゃいるだろうが、20年も前に自分を振った男と寝たい女はいねえよ。
池松壮亮演じる男もまた、リウ・チュアンを好きなのだが、この男、17歳で父親になってしまった過去を持つ。
この監督の作品を初めて観た。朝鮮族の中国人で、今は韓国在住なのだそうだ。なるほど、それでリュルなのか。説明の少ない、格別の物語があるでもない、行間を読む、といった映画。中野良子が居酒屋の主で出演、その昔『君よ憤怒の川を渡れ』という作品により、高倉健とともに中国で人気者になったのだ。今はめったに日本ではお目にかからないけど。まあその“君よ・・・”もなんだかな妙な映画だったんだが。
ニー・ニーはドラマ『桃花』シリーズの仙女役で知った女優だった。歌も、ダンスも、うまい。主役3人とも、ダンスうまい。さすが中国の役者は訓練度が…と思う。英語力もさ。いったい何歳と何歳で恋愛してたんだよ、高校生?この映画の中ではあまり年齢差は無い設定だと納得しよう。そして、この兄弟仕事は?と思ってしまったが、少なくとも弟のほうは親の遺産で暮らしていることになっているようだ。
原題『慢長的告白』長ーい告白。
2023年3月16日(木曜日)
監督 チャン・イーモウ
出演 チャン・イー ユー・ホーウェイ チン・ハイルー リウ・ハオツン チュー・ヤーウェン
1934年冬、満州国ハルピンを舞台に、ソ連でスパイ教育を受けた男女4人が、“ウートラ計画”実行のため、潜入する。秘密組織から逃げ出した同胞を国外に脱出させ、日本軍の横暴を世界に知らしめる目的で。
変な日本語を話す日本人がそのうち出てくるかと思ったが、全く出て来ない。みな中国人で、中国語をしゃべる人ばかり。で、誰が誰やらどちら側やらわからない。共産党側やら特務委警察やらわかりにくい。誰か裏切り者がいるらしい。一番若い小蘭だけは認識できる程度で。この役の子、だんだん見覚えが、あの子か、『ワン・セカンド 永遠の24フレーム』の。とっても謀女郎らしい小柄でかわいい女優。
その時代の自動車はそんなに性能がいいかなあ、バリバリ走り回り追いかけ、バンバンつぶれている。ついもったいないと思う。
監督はスパイ娯楽作を作りたかったのか?まあお金のかかった大作を撮ると、だいたいなんのこっちゃになる張芸謀監督であるよ。しかもこの共産党ヨイショ国策作品の匂い、最後に流れる主題歌の歌詞といい、お国万歳しないといけないお立場なのか。まあ次の地味な小さな作品を待ちましょう。がけうえではなくて、がいじょう と読むようで。CLIF WALKERS という英語タイトルのほうがわかりやすい。
2023年3月13日(月曜日)
監督 片嶋一貴
出演 東出昌大 入山法子
最低の男、最低の女の組み合わせ。東出昌大は芝居がとは言わないがセリフが下手だと思う。入山法子演じる、ひたすら美しいわがまま女は、次第になにかしら人間味を見せてくる。観客の私は時にクッと笑えてしまう。制作側の文学青年の香りを感じるのもなんだかである。萩原朔太郎、三好達治を描いて文学青年臭が漂うのは当たり前かもしれぬが。
と、久しぶりに、心が“ケッ”と言ってしまう映画を観てしまった。
『天上の花』という萩原葉子さんの小説は1996年に出版されている。私はおそらくすぐに読んだはずだ。ともかく原作を読み返してから、続きを書くことに、と思ったが、それが本棚に見つからない。三好達治の詩集も、萩原朔美のエッセーなんて3冊もあるのに。
そしてその朔美さんがどこかに出演しているはずなので注意していた、けれど全く分からなかった。で、なんだとー、あれがー!と、のちに知る。中年の頃までは何かの雑誌で写真を見たけれど。
どうやら評判の悪い作品ではないのです。熱演です。詩人・三好達治が、敬愛し師と仰ぐ萩原朔太郎の妹、慶子に恋し、とうとう3人目の夫となる。その後はストーカー、ドメスティックバイオレンスを絵に描いたような経緯。愛している 愛している そりゃ執着だ。朔太郎の妹でなかったら?ここまで?どうなんだろう。私がケッと思い時に笑ってしまうのは、かつてのどこかで出会った者(たち?)とのある時代などを想起し、それにケッと言いたいものでもありましょう。まあそれでも三好達治の詩を嫌いにはならない。今の季節だと、 あはれ花びらながれ をみなごにはなびらながれ と始まる「甃のうへ」桜散るころにいつもそのフレーズを思うひとは少なくないだろう。改めて読み返してみることか。
追記 越前三国で暮らし、朔太郎の妹、本名をアイと言ったひとに捧げられたものであるらしい詩集『花筐』を読む。美しい4行詩たち。
2023年3月9日(木曜日)
著者 堤未果
文春新書
コロナ禍で、あるいはロシアがウクライナに仕掛けた戦争により、もう一つは地球温暖化により、様々なものの生産・流通に問題が起こり、値段が上がっている。地球の食の問題を助けるということで、妙に昆虫食が推進されたりなど。一方で国産の牛乳が余って捨てられ、できすぎた野菜が捨てられる。
ベジタリアン、ヴィーガンである人も増えているようだ。動物愛護の精神から、人工肉で作ったハンバーガーなどもしばしば紹介されるようになった。
大豆ミートを成分とする人工肉だから健康維持に良い、ように受け取られがちだ。が、乳化剤、結合剤などを使った超加工品である。遺伝子組み換え大豆も使われる。そして、ゲノム編集、培養魚、培養母乳、果ては合成生物、生物のDNAをハイジャックし、再設計して3Dプリンターで作成する、と、言われても何なんだそれは!
世界の農業は多国籍企業と投資家の手に渡ったらしい。GAFAMグーグル・アップル・フェイスブック・アマゾン・マイクロソフトが、広大な土地を支配し、新品種の穀物、農薬や化学肥料、農機具をセットにして農家に売り込み、数年は収穫量が増える、そのあとは土壌が痩せる、役に立つ菌や虫のいない土にまた新しい化学肥料、農薬、新しい遺伝子組み換え・ゲノム編集作物。結果、土は痩せ、固くなり、雨で崩れる。農家には借金が残る。
牛がゲップすると出るメタンガスやその糞尿の中の窒素ガスが温暖化の原因になるから、畜産を縮小し、人工肉に切り替えよう。ビル・ゲイツも人工肉を推進している。
モンサント(現在はバイエルに買収されている)のグリホサートを主成分とする除草剤ラウンドアップの大量消費によって癌を発症した欧米の人々が、訴訟を起こし、巨額の補償金を払ったことなどは知っていたが。デジタル農業?スマホに搭載されたアプリを通して、すべての作物情報や知識などがゲイツ財団委回収される?
この本の後ろのほうに、救いのあることが出てくる。日本の土壌は優れているそうだ。そしてその土をより豊かにして健康な作物を作ろうとする、作っている話。
さて、菜園の真似事をしている私も、もう少し、自力で刈り取った雑草をちゃんと発行させ堆肥化することについて勉強しよう。
2023年3月2日(木曜日)
監督 松永大司
出演 鈴木亮平 宮沢氷魚 阿川佐和子 柄本明
初めに画面にふっと現れるとゲイにしか見えない。鈴木亮平!
パーソナルトレーナーの宮沢氷魚演じる龍太に、初め、好意はあっても恋愛感情とは見えない浩輔、呼び止められて振り返るとふいに龍太からのキス。そこから始まる肉体の絡みは濃厚で、つい、よくここまで、と思ってしまう。インティマシーコレオグラファーという人がついていたという。ゲイの行為として適切かを判断する人も入っていたそうだ。濃厚なのだけれどいやらしくない。それは宮沢氷魚という人の持つ透明感からくるものが大きいかもしれない。決してうまい俳優ではなく、この印象を生かし切れてもいなかった気が今まではしていたが、彼にとって一番のはまり役だろう。
こういう映画って、死ぬよなあ…と思いながら観ている、『藍宇』『美少年の恋』・・・。
浩輔を含むゲイたちの会話が楽しい。『Wの悲劇』ってそんなにゲイ受けする映画だったの?知らなかった。最後、字幕にドリアン・ロロブリジータと出て、どれがそれだったかわからなかったよ。それにしても亮平さんは相当ゲイバーに通ったことだろう。首とか肩とかの傾き具合、視線、見事。ちあきなおみもゲイ受け歌手だったのか。あの浩輔の歌うすんごい“夜へ急ぐ人”は、元歌の友川かずきを思い出させる感じもあったけど。
龍太の母役の阿川佐和子さん、こういう母だからこういう息子が育った感じだけれど、息子がやっていることに全然気づかなかったってさー、と、ちょっとね。
映画が終わって、タイトル「エゴイスト」と出る。あー、そういうタイトルだったんだ。あー。
蛇足です、この二人で『聖なる黒夜』麻生龍太郎と山内錬いけるじゃん、と思ってしまったよ。
2023年3月1日(水曜日)
監督 パク・チャヌク
出演 パク・ヘイル タン・ウェイ
切り立った断崖から転落した男。事故か、事件か、追う刑事、そして死んだ男の妻。刑事は、中国人である妻に、疑いの目を向けると同時に、関心を抱く。
不眠症の刑事、元看護士で、今は介護の仕事をしている美しい女。女の母方の祖父は朝鮮の独立運動家だった。
時間軸が揺れ、いつのことか事実なのか妄想なのか、追いきれない中で進んでいく。途中、王家衛か?と思ったのは先日『花様年華』を観たせい?マーラーが聞こえてくるあたりとか。
パク・チャヌク監督と言えば、『JSA』『オールドボーイ』『親切なクムジャさん』『お嬢さん』など衝撃的な名作を今まで観ている、それらと、ちょっと違う。何が、って、時空がとっ散らかって美しくてそりゃないでしょでそれでもつきすすんでしまう男ともっと遠くに突き破ってしまう女。と、述べてもたいして違わないじゃないかでもありますが。
突き進んだり突き破ったりする展開を追っている間に、結局事件のもとは何だった?となってしまった私ではありますが。私は湯唯(タンウェイ)のファンであり、この人あってのこの作品だったのだろうと思う、韓国のキム・テヨン監督と結婚しているから韓国語は流暢だし。彼女が着ていたワンピースが青に見えたり緑に見えたり、見え方が変わるというのが、悪い女であるのか必ずしもそうではない不幸な女と見るか、視点によって違うことの象徴となっている。互いが、相手への想いを募らせながら核心に触れぬのか、ファム・ファタールの網にかかったか。
スマートウォッチで録音するとか、スマホの翻訳機能を使うとか、新しい道具が出てくる。そして車の中でずっと監視し続ける従来の方法の刑事の姿。
いつかもう一度観たい映画でした。
2023年2月28日(火曜日)
著者 斎藤倫
出版社 講談社
「いらっしゃいませ」 グラスを、ふいている手が、ふさふさしていた。 バーテンダーは、いぬだった。
という書き出しで、第一夜が始まる。ふらりと入ったバーに、犬のバーテンダーがいて、突き出しに詩を提供する。その夜最初の詩は、T・S・エリオットの『アルフレッド・ブルーフロックの恋歌』。
T・S・エリオットをまともに読んだことはない。田村隆一という詩人はT・S・エリオットの影響を受けている、と何かで読んで、そうなのかと思っている程度。恋歌というタイトルだが、恋歌?この小説の中での紹介は端折ってあるので特に。で、突き出しその2が大岡信の『倫敦懸崖』、その、エリオットと、妻のことを書いたもの。
と、いう具合に、いつもだいたい3軒めぐらいにこのバーに入ると、つきだしとして詩を出され。
これ、“ラジオ深夜便”というNHKラジオの番組で紹介されて、いずれ見つけたら買う気でいた。気になるでしょう、大昔の高校生時代、文芸部員だった私としてはさ。
第2夜から、この店の客である主人公が、犬の話題を口にする。バーテンが犬なんだけど、自分の飼い犬の話していいのか?と、なんだか軸が揺らぐ気がするこちら読み手である。そして次第に、語り手がなにやら病んでいる、より病んでいく気配が見えてくる。
よーく知っている詩は、富岡多恵子の『身上話』ぐらい、読んだことがあるものが少し、それぞれ出典が記してあるので、ゆっくり図書館で探してみたいものだ。
ゆっくり、ゆっくりとしか読めない。途中から、これは結局どう着地するのか?と思う。
読み終わり、おお、そうですか、と思い、改めて読み返した。ら、まず巻頭に、次に来る波をむかえにゆきなさい尾を高くしてわたしのけもの と、村上きわみさんという人の短歌があるのだった。そうでしたか。
犬飼っている人、飼っていたひと、お薦めします。著者も詩人で、以前ここで紹介した『えーえんとくちから』の編集にも関わったと、著者紹介にありました。表紙を外すと、内側の装丁も楽しい。
2023年2月27日(月曜日)
監督 リー・ルイジュン
出演 武仁林 海清
家族から厄介払いされるような形で引き合わされ結婚した、貧しい農民ヨウティエと身体にいろいろ障害のあるクイイン。それでも後にわかるのだが、クイインは、ロバの扱いが優しいヨウティエに初めから好意を抱いていたのだった。
2011年、貧農の生活、ロバ1頭と夫婦だけで畑を耕し、麦やトウモロコシを育てる。中国のことだから上からの一言で空き家を壊せ、となると、そうは言っても住んでるじゃないかと思うが、簡単に持ち主の意志により壊される。すると、家を建て始める。それが、土を練り、粘土を固めてレンガを作ることから始めるのだ。レンガがたくさんできて、乾いてきた頃、大雨が降る。飛び出してレンガを積み重ね雨除けのビニールを被せる二人。
レンガを積み重ね、空き瓶で何を?と思ったらそれが雨水を通す樋の役?屋根を載せて、とうとう家が出来上がる。自分の家が持てるなんて思わなかったというクイイン。
なんだかねえ、お兄さんはBMWに乗ってるって何?弟を都合よく使ってるよねえ、何?あれ、と思うが、実直を絵に描いたようなヨウティエ(有鉄)は、だからと言って弟ヨウトン(有銅)に何一つ要求しない。
私自身、畑仕事の真似事をやっているので、あれだけの農作業を手仕事で、ってどれほどのことかと思う。畑の横にかつて父が自ら建てた小屋の周りに、雨除けとして波板などで作られていたものが壊れかけていたので、取り壊したり片づけたりしている最中でもある。それと比べるのも恐縮至極だが。
ヨウティエ役の武仁林は、監督の叔父さんで、実際にこの映画の舞台である甘粛省で、農民として生活しているのだそうだ。監督の映画には何度か出演しているという。そしてその彼の家で、クイイン(貴英)役の海青は、10ヶ月生活して、実際の農民生活を体験したとか。
このあとの展開については、映画を観てください。なぜかこの地味な作品が中国でヒットしたそうです。それも若い人が観たらしい。ネット情報では、中国当局から何かと横槍が入ったと。
アジアに人権という言葉は定着しないねえ、日本でよく聞く自己責任とかさ、と思いながら鑑賞いたしました。