タクシー運転手 約束は海を越えて

http://klockworx-asia.com/taxi-driver/
監督 チャン・フン
出演 ソン・ガンホ トーマス・クレッチマン ユ・ヘジン

1980年光州事件。聞き覚えはある、というぐらいのものだ。軍部が力をもって、民主化への動きを阻止しようとした、と。
日本はこれからバブルへ向かおうという太平の世であった。ので、隣の国で起きていた、戒厳令発令などという言葉がなかなか腑に落ちない。

ともかく隣国の光州では、学生をはじめとする民衆と軍部の衝突により、公式発表とは実態の異なるかなりの数の死傷者が出た1980年5月、という時があったのだ。

ソウルのタクシー運転手マンソプは、妻を亡くして女の子と二人暮らしをしている。暮らしは楽ではない。家賃を滞納している。そんな中、通行禁止時間までに光州に行ったら10万ウォン払う、という話を聞き、その契約をした運転手を出し抜いて、ドイツ人記者を乗せ。
観ているこちらは、途中までは、そう気分は乗ってこない。そういう、私と同じような観客殿、頑張ってもう少し先まで観よう!

日本に滞在していたドイツ人記者が、実際その時期に韓国に渡って、困難な中取材した、そんな人がほかにもいて、この事件が世界に知られることになったのだそうだ。
事実をベースにしているという。

だらしないおっちゃんのソン・ガンホが、途中からえらくかっこよくなっていく。うまいね、今更言うまでもないけど。

韓国映画の熱量は、やはりすごい。

29歳問題

監督 キーレン・パン
出演 クリッシー・チャウ ジョイス・チェン エレイン・ジン

2005年香港、化粧品会社の有能なキャリアウーマンであるクリスティは、もうじき30歳を迎えようとしている。長い付き合いの恋人はいるが、結婚というところにはなかなか進まない。
仕事が認められ、昇進する。しかしそれはストレスを強く抱え込み余裕がなくなることであり。そして父親の認知症が追い打ちをかける。早々に部屋を出なければならない事情まで出来。
家主の手配で、しばらくパリ旅行で留守にするティンロッという女性の部屋に住むことになる。
その部屋にあった日記を読み進むうち、クリスティとは全く違う人生を送っているティンロッの、生き生きとした姿が見えて。

ウォン・カーウァイ監督の『花様年華』のポスターや、レスリー・チャンの歌声、ロックグループBiyondの黄家駒(日本でのバラエティー番組収録中の事故で亡くなってしまった人)とか、香港芸能ファンが、おっ、と思うもの、そしてもっと詳しい人にとっては、ラップユニット『軟硬天師』のエリック・コッ(金城武主演の「初恋」の監督)とジャン・ラムが出演しているなど。

もともと、監督のキーレン・パン自身の作・演出・主演による舞台劇だそうで、最後にその舞台のシーンが出てくる。
たぶん、舞台で一人二役で演じられると、部屋の持ち主のティンロッとクリスティはパラレルワールドの同一人物、という感じがもっと感じられるのだろう。

クリスティとティンロッを足しても足りない私の年齢では、ちょっと脇のところで二回ほどウルッと来てしまった。はは。私は評判を目にしていたから楽しみにしていた。でも、地方都市には香港映画情報なんて届かないのね、悲しい人数でした、館内。

カメラを止めるな

http://kametome.net/index.html
監督・脚本・編集:上田慎一郎
​出演:濱津隆之 真魚 しゅはまはるみ 長屋和彰 細井学 市原洋 山﨑俊太郎 

Netで噂のこの映画、超低予算で作られたこと、元は舞台劇だったこと(そしてその監督かだれかに盗作と訴えられているらしいこと)しか知らずに観た。それが正しい。
なのにそんな作品を紹介するってどうよ。

血みどろが苦手な人にはお勧めできない。が、あまりの理不尽な血みどろぶりに、かなり初めのあたりから笑いをこらえられない私であった。そこはまだ笑うところではなかったが、あまりにあまりなんだもん。〇〇ビの動きはへたくそだし。

で。

途中から観客が笑いだした。

いや、よくできてる。観客まばらなことが多いミニシアターの補助席でしたぜ。

そんなわけで、なるほどねえ。どんなわけだか知りたいお方、どうぞ。

烏に単は似合わない

著者 阿部智里
文春文庫

実はこの作家の第二作である「烏は主を選ばない」から読み始め、「黄金の烏」「空棺の烏」と一気に読み、もう一度ざっと読み返し、そして一作目、という順序で読んでしまった。なぜなら三冊は友人からの借り物だったから。
いやいや、とっても好みのものを貸してくれてありがとう。巻末の解説にもあるように小野不由美の『十二国記』シリーズや上橋菜穂子『守り人』シリーズなどが好きな人、物語が好きな人、まだ読んでいなかったらお薦めですよ!

八咫烏 という一族が住んでいる世界、山内と呼ばれるところで起こる事件。日本の平安時代あたり?いやもっと後?の異世界朝廷。なにしろ私は二作目から読んでしまったから、この金烏とされる若宮と、いやいやながらその側仕えとなった雪哉が共に、うつけ、ぼんくらとみなされているが実は、という設定、昔から好き!で。

権力争いが繰り広げられる、ファンタジーにして推理小説の性格を持つこのシリーズにはまり、第一作目を読まずにいられるか、となったわけだが、なんとこの一作目は、作者二十歳の作品ですと。若宮のお妃選び、というまことにありがちなテーマながら、巧緻に編み込まれた権謀術数人間の裏側。この視点を二十歳の大学生が…特にあせびの君という、ほかの姫君たちより幼く世間知らずの姫君の造形。
まいるね。2012年の松本清張賞受賞作だそうだ。そこそこブンガクショウジョ育ちだった自分の二十歳を思い起こすにまったく!

コミックになったそうだ。映像化もあるかな。

 

万引き家族

監督 是枝裕和
出演 リリー・フランキー 安藤サクラ 松岡茉優 城桧吏 樹木希林

東京の下町に取り残された古く狭い平屋、家主の初枝、治と信代の夫婦、息子の祥太、信代の妹の亜紀が暮らしている。初枝の年金、治が建築現場で、信代はクリーニング店で働いた収入と、治と祥太が万引きした品で生活している。亜紀はJKビジネスの店で稼いでいるが、金は入れていない。
ある日、マンションのバルコニーに出されている小さな子供を見つけ、連れ帰る。

と、いうあたりで、この家族はそういう、おそらく血のつながりの無い偽家族だな、ということは見える。

見えるが、実はもっとややこしい。

安藤サクラさんはすごい女優だ。なんてことは常識だろう。リリー・フランキーはなぜこんなに、人生途中から始めた演じることが自然なんだ?この人元々何やってた人だっけ?
私には、松岡茉優がとても良いと思われた。まあね、是枝監督の家族ものの映画だと、みんな自然なんだよね。

数回うるうるしちゃいました。脇のキャストが豪華すぎるので、ストーリーと別のところで、え、と意識が止まってしまう感じがあるのと、樹木希林さん以外にはおばあさんを演じる女優さんはいないのかなあ、今どきはみんな美魔女だからなあ、と、つい思ってしまう、というちょっとした引っかかりは感じたけれど、もちろんとても良い作品です。

リンちゃん、早く家出しよう。

星間商事株式会社社史編纂室

著者 三浦しおん
ちくま文庫

たまたま片付け中に出てきたので再読。
これ、今、この2018年、Me Too とか、セクハラ・パワハラにかかわる事件が公になることが多かったこの年に読むと、うむぅ…と、思われる話。

とても読みやすいですよ。ま、主人公の幸代が会社勤めの傍らBL物の同人誌をやっている腐女子だ、ということが普通に受け入れられさえすれば。
社史編纂室というところが彼女のいる部署。あってもなくても格別問題は無いらしい部門で、なんだか進みの悪い編纂中。特に、高度成長期イケイケドンドンであった時代のことを聞くと、誰もまともに答えてくれない。

なぜか?

ちょっとしたミステリー仕立、小説のストーリーの中に挟み込まれる幸代が同人誌に書いている、おっさんが同僚の青年から迫られるゲイ小説・10年近く前だからセクハラなお言葉満載な男でも受け流されてきたのかな、とは思うが実は結構誠実かもね、という同僚・に、恋している色っぽい若い女性社員・幸代の同人誌を目にして、君、腐女子なんだね、と言う退職前の本間課長64歳・まことにエンターテインメント性を詰め込んだ作り。

かつてサリメリという国との取引があり。そのために大統領に献上された女性がいたのでした。

ということが分かってくると、色っぽい同僚みっこちゃんが、自分も仕事のつもりでで会った相手に襲われそうになった、と言う。上司は彼女をそういう目的で行かせたのだと。

なんか、昔の芸能界でそんなような噂があったなあ。賞獲りレースの時とかさ。だから、今の時代になっても、実際にレイプされた被害者に対して、女の方からトラップを仕掛けた風に言うやつがいる。同じ女性の中にもいるのが日本という国。

社史に会社の闇を掲載するわけはないので、そこで本間課長が・・・で。

三浦しおん、この人編集者になりたくて試験を受けた時の作文を読んだ人から勧められて小説家になったのだとか。ほおお。で、辞書編纂とか社史編纂とかのお話が。いや、それよりちょっと普通社会に適応しないしないかもしれない系の人がよく出てくるよね、この人のものには。この場合は陰でBL書いて普通に社会に適応している主人公だけど、こんな趣味を持ってます、とは言えないやね。

いろんな種類のハラスメントが表面に現れてニュースになっている今だから、ちょっと読んでみませんか?

 

 

ラストワルツ

監督 マーティン・スコセッシ
制作 ロビー・ロバートソン
出演:ザ・バンド、ボブ・ディラン、エリック・クラプトン、ニール・ヤング、ジョニ・ミッチェル、ヴァン・モリソン、ニール・ダイヤモンド、リンゴ・スター、ロン・ウッド、ドクター・ジョン、ポール・バターフィールド、ロニー・ホーキンス、マディ・ウォーターズ他

公開40周年記念上映だって。観終わったあと一週間ぐらい、ラストワルツのメロディーが頭から離れなかったあの日から40年…も経った。
16年一緒にバンドをやって、もう終わりにしたい、と語るロビー・ロバートソン。彼やほかのメンバーの話をはさみながら、ラストコンサートの豪華絢爛なゲストたちとの演奏。ニール・ダイアモンドってこんなに素敵だったっけ、とかこのころのボブ・ディランきれい、とか、クラプトンはずっと素敵、と、まあミーハーばーさん。なんで私これがマディ・ウォーターズだって知ってるんだっけ?なども思いつつ、今を盛りの時期だったアーティストたちの演奏に体を揺らすのでありました。
圧巻の、ボブ・ディランを囲んでの「I shll be released」、そして、ラストワルツ。

下手にネット散歩すると、要らぬ情報が目に入るので、観たことがない人は、一切調べないでまず観る、ことをお勧め。

BlackBox

著者 伊藤詩織
出版社 文芸春秋

ジャーナリストを志す女性が、顔見知りであったTBSワシントン支局長にインターンシップの依頼メールを出す。紹介すると言われる。
一時帰国した男に誘われ、一緒に飲む。気が付いたらホテルで男が上にいた。デートレイプドラッグを使用されたと思われる。

ふざけた話が、事実であり警察に訴え、一時は逮捕一歩前まで行った。が、警察トップからストップがかかった。何故?男は政治家に顔が利くから。首相と一緒にしばしばお食事なんてことがよくある人だったから。「総理」と言う本を出しているから。

週刊新潮がそれを報じた。司法記者クラブで記者会見を行った。
でも、日本のTVでそれが問題とされたか?ほとんど無視されている。

私はこの本を早くに手に入れたのだが、あまりのことに読む進みことができなくて、あちこちめくってしばらくそのままだった。並みの女性なら目を背け目を閉じ逃げるしかないだろう状況を、克明に記し、追及すると言いう姿はもうそれだけでつらい。実際、似た男を見かけるだけでパニックに襲われそうになったようだ。

最近、BBCでこのことが取り上げられた。「Japan’s Secret Shame(日本の秘められた恥) 」というタイトルで。伊藤詩織さんが英語が堪能でジャーナリストとしての資質がきちんとある人で本当に良かった。

#me tooの運動が日本ではあまり広がらない。それどころか、この詩織さんの行動に対して女性の国会議員とか女性漫画家でひどい中傷をする人がいる。世にはびこるネトウヨの男達は言うに及ばずである。ハニートラップの汚名を着せる。
美人が得をするのは入り口だけのことであり、非常に美人で有能だったからこそクソな男の手にかかってしまったのに。ドラッグまで使う男はたくさんはいないかもしれないが、それに近い目に遭った人はたくさんいて、日本ではほとんどの女性は無かったことにしようと無理をするのだよ。露出狂に出くわしたぐらいでも声なんか出ないよ。そうそうぎゃあぎゃあ騒いだり泣いたりしない、感情が内側にめくれ混むことって珍しくない。あ、その後詩織さんが男にメールを送っているのは奇異に見えるかもしれないが、何かが麻痺してしまう、そういうことだと思う。そしてPTSDということになる。

若い女性に、できれば読んでみてほしい。そして、もしも運悪く自分がそういう罠に落ちてしまった時にどうするのが一番いいか、を知ってほしい。

著者 アーナルデュル・インドリダソン
創元推理文庫

アイスランドの作家による「湿地」「緑衣の女」に続くレイキャビク警察エーレンデュル犯罪捜査官シリーズ第3作。

アイスランドと言う国のことは本当に何も知らないに等しい。なんだか冬季オリンピックがあったような気がしていたけど気のせいだった。レイキャビクと言う都市の名前は知っているから、なにか冬季スポーツがらみで目にするんだっけ?とにかく人口33万人ほど、北海道より少し大きい面積の国だそうだ。

そのレイキャビクのホテルで、クリスマスシーズンに一人の男が殺された。サンタの扮装で。
捜査が進むと、その男は子どもの頃のある時期スターだったことがわかる。
亡くなった男にも、捜査官の側にも、捩じれた過去の事情がある。男の事情と捜査官エーレンデュルの心情が交差する。

なにしろ作家の名前もなかなか覚えられない。3作目ともなるとさすがに字面であ、あの作家のあのシリーズ、と思うのだが作家の名前を書こうとすると書けない。1作目の時は登場人物の誰が誰だかわからなくて何度も登場人物紹介欄を見直した。そんなわけで初めて読む人にはとっても読みにくい、だろうと思う。でもね、インドリダソンという作家は、子どもは大事にするべきだ、と、ずっと言ってる人で。
エーレンデュル捜査官の、離婚した妻に引き取られた娘も息子もろくなもんではない育ち方をしているのだが、シリーズが進むにしたがって、ああ、この娘は救われるかもしれない、と言う希望を、持たせて終わる。と、前作でも思われたけどね。

事件も、人間関係も暗い。でも、読後感は重くはない。私はこのシリーズに嵌った感がある。いつかエーレンデュルも娘エヴァ・リンドももう少し理解しあっていくらか救われてくれ、と期待をこめて。

 

ダンガル きっと、つよくなる

http://gaga.ne.jp/dangal/
監督・脚本 ニテーシュ・ティワーリー
出演 アーミル・カーン ファーティマー・サナー・シャイク サニャー・マルホートラ

アーミル・カーンを知ったのは2009年制作の映画「きっと、うまくいく」で、日本では数年遅れて公開されたその映画の中では大学生の役だった。1965年生まれと言う実年齢を知って驚いたものだ。
で、この映画では若い時から白髪の目立つ年齢までを演じているが、その見た目の変わり様、体型の変化に驚く。凄い俳優だ、アーミル・カーン。
彼が演じる父親は、かつてレスリングの国内チャンピオンだった。世界に出るチャンスが無かった彼は、息子にその夢を託そうとするが、生まれたのは娘ばかり。夢をあきらめた彼だったが、ある日娘二人が男の子をボコボコにやっつけて帰ってきた。それをきっかけに、娘たちにレスリングを教える。インド初の金メダルを獲るために。

インドの田舎の話だ。我が日本の女性の地位も先進国水準に遠く及ばないが、そこはインドだ。はるかに厳しい目にさらされるだろう。娘たちも、厳しい指導を嫌がる。が、ある日、友達があなたのお父さんはいい父親だ、と言う。自分は14歳になったら顔も知らない男に嫁に行かされるだけだと。
そして、娘二人、金メダルを目指して頑張り始める。
子役の子たちも、育ってからの娘たちも、レスリング未経験なのにトレーニングを積んだというからまあ大変。とんでもない根性。

結果、本当に強くなり、強化選手として別のコーチのもとに集められ、父親の教えは忘れろと言われてしまう。
このところ、日本ではまさにその女子レスリングに関するパワハラだとか、大学アメフトのパワハラがニュースになったところだから、リアルな問題として感じられることがいろいろ。

観終わって、ダンガルダンガル♪と帰り路に口ずさんでしまった、痛快なお話、実話が元になっているのだそうで、またびっくり。