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千年の愉楽

ファイル 244-1.jpghttp://www.wakamatsukoji.org/sennennoyuraku/
監督 若松孝二
出演 寺島しのぶ 佐野史郎 高良健吾 高岡蒼甫 井浦新

若松孝二の遺作。原作・中上健次。

はるかな昔、初めてテレビで見た中上健次は巨大だった。その巨体で、実は“星の王子様”が好きだ、と言っていた(たしかそのはずだ)。「これが中上健次だと思うと可愛い」と弟が言い、私もそう思った。
『青春の殺人者』1976年『十八歳、海へ』1979年などの映画の原作者として知ったのだったか。すごい作家だと思っていたが、その作品は数冊しか読んでいない。

寺島しのぶ演じる産婆が、生まれそうだ、という連絡で飛び出して行く。どうやらその生まれる子供の父親であるらしい男(井浦新)が、腹を刺されて血まみれで転がっており、産婆の夫の僧侶である男(佐野史郎)がその男に話しかけている。
美貌に生まれ、何人もの女と関わり、孕ませ、凄惨に死を迎える、中本の血を引き継ぐ男たち。半蔵(高良健吾)、三好(高岡蒼祐)、達夫(染谷将太)。
映画は、その凄惨な事柄、生き方を、おばあの「お前はそのままでいい、そのまま生きればいい」という言葉が受け止める。

中上健次が被差別部落の出身だと知らなければ、路地と呼ばれるこの地の気配はわからないものだろうか?
今際のきわにあるおばあの、夢の中の景色としてそれぞれの男の話が進んでいく。それぞれの俳優は渾身の演技である。が、寺島しのぶの、役では、無いよなあ、と思ってしまう。今はとっくに亡き乙羽信子さんみたいな人が・・・と妄想する。

中本の血、というものの連鎖を、次代の子供は断ち切ったのか?

意外にあっさりと仕上がっている気がするのは、母性、その受け止め、を、前面に出しているせいか?

まあでも、原作を読みたいと思います。おそらくもっともっと、濃い話だろうから。

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comment(0) 2013.04.12 15:07

王になった男

ファイル 241-1.jpghttp://becameking.jp/
監督 チュ・チャンミン
出演 イ・ビョンホン リュ・スンリョン ハン・ヒョジュ 

王子と乞食を下敷きにした話。

李朝の王・光海は、毒殺されることを恐れていた。瓜二つの男を見つけ、影武者とする。陰謀渦巻く宮中にあって、疑心暗鬼の暴君となっていた王。ある日、アヘンを盛られて倒れる。
密かに王座に座る影武者
偽物が、次第に本当の王よりも民のことを思う正しい采配を振るうようになっていく。

適度に笑い、適度に泣かせ、誠に良く出来ている映画。韓国映画お手の物、という作品。イ・ビョンホンうまい。だが、どうもね、イ・ビョンホン様の横顔が、王様に見えないのね。ちょっとほら、威厳のない鼻がね・・・、って言っても仕方ないのでありますが、誰だったら王様らしいかな、と、妄想しながら見てしまいましたね。
年配者の多い劇場で、年配者に受けていましたよ。

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comment(0) 2013.02.26 15:28

ライフ・オブ・パイ 虎と漂流した225日

ファイル 239-1.jpghttp://www.foxmovies.jp/lifeofpi/
監督 アン・リー
出演 スラージ・ジャルマ イルファン・カーン タブー ライフ・スポール

このタイトルを見て、どんなストーリーを想像するか?例えばターザンとか、少年向け冒険物語?

冒頭あたりと最後の方に流れるインド音楽(女性ボーカル)が美しい。

創作に行き詰まった作家が、ひとりのインド人男性パイのもとを訪れる。彼が体験した話を聞くために。ヒンドゥー教徒で、クリスチャンで、イスラム教徒でもある(!)男が、なぜパイ“π”と呼ばれるようになったか。そして、インドで経営していた動物園と共にカナダに移住しようと、家族で日本の船に乗り込む。嵐に襲われる。

救命ボートには、パイのほかにシマウマ、ハイエナ、オランウータン、ベンガルトラが乗っていた。やがて、ベンガルトラのリチャード・パーカーとパイだけが残される。肉食獣である虎。
救命ボートだから、非常食や水は積んであった。が、自らが食べられる状況を阻止するためには、虎の食料を捕獲しなければならない。

映画館で、3Dで、見て欲しい。水中の(幻想の)シーンだけでも、見た甲斐がある。

ラストの展開が、え?え?え?そういうこと?え?と。

台湾出身の李安監督、私にとっては「ウェディング・バンケット」「恋人たちの食卓」「グリーン・デスティニー」など、そして「ラスト、コーション」などがすぐに浮かぶが、「ハルク」や「ブロークバック・マウンテン」ほか、今や世界の名監督、その舞台は地球上のどこに広がっていくか。

本作の撮影はインドと台湾で行われ、台湾の、元空港だった場所に巨大なタンクを作って海の撮影をしたという。そうだったのか。どうやって撮影したんだろうと思いながら見ていた。

宗教的な、大人の冒険物語です。子供が見るなという意味ではなく。

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comment(2) 2013.02.12 09:03

桃さんのしあわせ

ファイル 238-1.jpghttp://taosan.net/
監督 アン・ホイ(許鞍華)
出演 ディニー・イップ アンディ・ラウ チン・ハイルー

久しぶりに広東語の香港映画を見た。あー懐かしい!
そしてまたなんと豪華キャストであることよ!香港映画ファンなら、お、わ、と声が出てしまうはず。

映画界でプロデューサーとして活動している独身男ロジャー、その家に少女の頃から60年メイドとして働いてきた桃さん。雇い主だった家族は世界のあちこちに移住して、残るはロジャーのみ。綺麗好き、料理上手の桃さんだ。
ある日、桃さんが脳梗塞で倒れる。不自由にはなったが、重症ではない桃さんは、老人ホームに入るという。ロジャーの知人(黄秋生)が経営しているホームに入る。個室とは言え、入口はカーテン、辛うじて最低限のプライバシーを守られた部屋。土地自体が狭い香港では、こんな感じなのだろうなあ。清潔好きの桃さんにはきびしい環境。

ロジャーはしばしば中国に出かける。事実、現在の香港映画界は、中国資本に頼っていて、ほとんど北京語であるという状況だ。あれ?ツイ・ハーク監督?こっちは?顔が見えたら、サモ・ハンだー!その二人が中国の映画関係出資者の前で喧嘩を始めるシーン、実は予算を出させる演技という設定。

ロジャーは忙しく飛び回る中でも桃さんを訪ねてくる。息子と思われるほどに。
桃さんも、次第にホームに慣れて何かと入居者に手を貸す。その桃さんにちょっとした金を借りに来るじいさんキンさん役は、チョン・プイ、これもヤクザな映画やいろいろ見かける昔からのスターさん。この、女好きのじいさんが、最後に泣かせる。

映画のプレミア上映に桃さんを伴って出かけるそのシーンには、本物の映画関係者がたくさん出ているらしい。あーそれがすぐわかるまでの香港映画通ではないのが残念。
医者の役でちょっと出てくるチャップマン・トーとか、大女優さんが本物だとか、は、わかるけど。

許鞍華監督は、日本人のお母さんを持ち、マギー・チャン主演で日本を訪れる自伝的な作品『客途秋恨』がある。私は『女人四十』という秀作でファンになった。
主役ノディニー・イップは、70年代〜80年代にかけて歌手だった人。

ところで、桃さんと書いてタオさんと読ませている。しかし広東語読みではトーさんになる。原題桃姐、映画の中でもトーチェ、と呼びかけていた。

ロジャーの立場も、桃さんの立場としても、今の私には身にしみる、かつての香港映画らしい香港映画でした。

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comment(0) 2013.01.18 10:56

レ・ミゼラブル

ファイル 236-1.jpghttp://www.lesmiserables-movie.jp/
監督 トム・フーパー
出演 ヒュー・ジャックマン ラッセル・クロウ アン・ハサウェイ

2時間50分が全然長くなかった。
以上、感想文終わり。としたいところだ。

ヴィクトル・ユゴーの名作を、キャメロン・マッキントッシュが優れたミュージカルにし、私は舞台を見る機会はなかったけれど、日本でもレミゼと省略されるこの作品のメロディはよく知っている。島田歌穂サンの歌とかで。

「ああ無情」という翻訳タイトルの、小中学生版しか読んでいなかったらしい私は、そうかこんな時代背景だったか、と今更に知る。フランス革命・ナポレオン・王政復古。
詳しい時代背景はこちらをどうぞ。http://www.d9.dion.ne.jp/~natsukon/haikei.htm

ヒュー・ジャックマンといえばX-メンしか知らない方(私のことですが)、彼を始め、みんな歌ってるよ、どうぞ劇場へ!

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comment(0) 2013.01.09 13:24

有りがたうさん

ファイル 235-1.jpg監督 清水 宏
出演 上原謙 桑野通子

1936年、昭和11年作品。
録画しておいた、NHKBS山田洋次が選ぶ映画の一本。

バスの運転手・上原謙が、道を避けてくれた人に必ず「ありがとう」と声をかけていくからあだ名がありがとうさん。ありがとー と平版に言う。
まことにのんびりと語る客たち。その頃の伊豆の山の中ではこんなにゆっくりと喋っていたのか?演出か?とにかくゆーっくりと話す。うまいとも思われない。

客にはそれぞれ事情があることがその会話の端々からわかってくる。娘が都会に売られていくところだったり、いかにも水商売風の女がいたり、口ひげの傲慢な態度の男が、実は夢見た事業に失敗して娘を売ったことが知られたり。まあ、個人情報の保護されないことこの上ない話だ。

そして、バスに乗らない客たちもいる。ただ運転手に伝言を事付ける。なんだろうこの白い衣装の女たちは、と思ったら朝鮮人労働者で、そこの道路工事が終わったら、そこを歩くことなくまた次の現場に行くから、父親の墓に参って欲しいと頼む。

なーんとなく、運転手が、売られていく娘のことを気にかけている様子がうかがわれる。運転手は、中古のバスを買って独立するために金を貯めていることを、すぐ後ろの席の水商売女に語っている。

女が運転手に囁く。「ここを出て行って帰ってくる女はいないんだろ?その金で娘さんを自由にして嫁にしてやりなよ」

帰り道は、なにやらほのぼのなのでした。

シュールなまでにのどかな、おとぎ話なような、でもその時代が見える様々なことたち。あーびっくり、な、2・26事件の直後に公開されたというロードムービー、機会があったら見てください。

MOVIE
comment(2) 2013.01.05 11:44

王朝の陰謀

ファイル 229-1.jpg

http://www.dee-movie.com/
監督 ツイ・ハーク
出演 アンディ・ラウ リー・ピンピン ダン・チャオ レオン・カーフェイ カリーナ・ラウ

インディ・ジョーンズと指輪物語が合体したかいな、という映像で、唐王朝の時代が描かれる。則天武后の顔を模した巨大な仏塔の建立、そのさなか、人体発火事件勃発。体の内部から発火しているのだ。
投獄されていたディー判事が、則天武后の命により捜査にあたる。則天武后の側近である男装の麗人チンアル、そしてペイ・ドンライと共に。

地下の国(裏社会)があったり長い針を数本刺して顔を変えたり鹿が喋ったり、ひゅんひゅん空中を飛ぶくらいは中華なアクション映画の常識だし、人体だって発火してなにか問題あるか?な、お話であるが、そこは権力争いの世界、犯人を探さねば。

則天武后を演じるカリーナが、美空ひばりサンによく似ている。ように思える。
麗しのリー・ピンピンは、このところの尖閣騒ぎで、反日の態度を見せたのだが、あー思い出した、昔、F4の誰かと共演、恋の噂が立ったが、当時台湾在住日本人タレントのGFが騒いで元サヤ、とかそんなスキャンダルに見舞われたんだったっけ、そりゃあそんな経緯があれば反日感情だって湧くってもんかも。

アクション監督はサモハン。
ディー判事は実在の人物だそうだが、オランダ人作家によりシリーズ化されている探偵小説、日本でも出版されているらしい。

謎解きは・・・あー、そういうこと、なんだが、まあとんでもないスペクタクルぶりは、前日にホラーに近いきびしい作品を見た身にはスッキリ楽しめました。
米タイム誌が選ぶ2011年ベストムービー第3位だそうです。

MOVIE
comment(0) 2012.09.21 12:59

少年は残酷な弓を射る

ファイル 228-1.jpghttp://shonen-yumi.com/
監督 リン・ラムジー
出演 ティルダ・スウィントン ジョン・C・ライリー エズラ・ミラー

子育てストレスの悪夢に満ちた悪い遊園地にいるような作品。妊娠中の女性には決してお薦めしない。中途半端に反抗期の息子に手を焼いているお母さんだったら、むしろうちはまだマシだと安心できるかもしれない。

息子ケヴィンは、幼い頃から母親エヴァにだけ反抗する。
あまりにクソな態度に、観客としては笑ってしまうほどだ。なんだろう、極端なマザコンの姿とも見えなくもない。

父親が弓のおもちゃを与える。

今と過去を跳びつつ映画は進んでいく、何があったの?と、途中つぶやいてしまっていた私(観客が少なくてよかった、少なすぎたけど)。
そして、事件の日へと向かう。

映画のタイトルが、私を映画館に引っ張っていったのだが(atconさんのブログ「整形前夜」穂村弘の項参照、と言いたい)、最後に、細い細い一筋の救いが・・・あるようにも思える。
どうして?答えの出ない問いを、私も問いたい。原題は“We need to talk about Kevin”

音楽がいい。レディオヘッドのジョニー・グリーンウッドによる。

蛇足・アジアでリメイクするなら、ケヴィンはチャン・グンソク、と、こんな恐ろしい映画を見ながら、イメージしていた。

MOVIE
comment(2) 2012.09.19 20:35

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