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獣の奏者

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作者 上橋菜穂子
出版社 講談社

 闘蛇(とうだ)と呼ばれる堅いうろこと角を持つ大きな水棲の生き物がいる。王獣という(本来)白銀に輝く翼を持つ闘蛇よりも大きい生き物がいる。それを権力の行使のための道具としようとする者たちがいる。
 真王(ヨジェ)と呼ばれるやさしい老女王が治める国リョザ神王国、闘蛇を操る大公(アルハン)、過去に犯した過ちを二度と繰り返さないために、自分たちが持つある種の能力を封印して生きる民族。

 闘蛇衆と呼ばれる闘蛇の医師だった母を失い(母は娘を助けるために禁を犯す)、蜂飼いの男に助けられるエリン。

 はるか古い時代のファンタジーという形であるが、現代の政治、権力、争いの構造そのものでもある。圧倒的な獣の力を持って世を治めようとする考えにふと原子爆弾を連想した部分もあった。

 エリンと蜂飼いのおじさんジョウンとの交流、エリンと王獣リランとの間に流れるもの。生き物に対する観察力が優れているエリンは、また人間の生きるための方便であるがごまかしでもあるものを見る力を持つ。

 作者上橋菜穂子さんは、文化人類学専攻でアボリジニの研究者だそうだ。蜂の生態の部分だけでも楽しめるのは、そんな背景があるからか。児童文学に属する作品だろうが、ファンタジー嫌いの人にこそ読んで欲しいとあるように、リアリティのある物語ですよ。
 「闘蛇編」「王獣編」2巻。厚いし2巻だけど読みやすいから平気。

BOOK
comment(0) 2007.09.03 20:39

吉原手引草

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作者 松井今朝子
出版社 幻冬舎

 第137回直木賞受賞作品。そういうものをすぐに読むことはほとんど無いのでありますが、吉原という舞台に惹かれて。
 吉原の位の高い花魁にはそうそう簡単にはお目にかかれない、いろいろと手順を踏まなければならない、程度の知識しかない者には、その世界のしきたり、言葉、など大変興味深い。芸者と比べて、一般には芸を売る芸者の方が性を商売とする女郎より格上のように言われる…がしかし、その成り立ちにおいて、吉原では幇間を男芸者と呼び、その後女芸者が生まれた?とすると必ずしも…。

 ストーリーは、花魁葛城が突然失踪した、ということについて調べている男が、吉原のいろいろな人にそれについて聞きまわる、それぞれの人の語りだけで成り立っている。さまざまな視点で語られる中から浮かび上がってくる葛城のひととなり、失踪の理由。
 時々ありますね、こういう手法で語られる物語。例えばなーんだっけ、と思っていた所、有吉佐和子の『悪女について』と比べている人がいました。
 
 ミステリーとしての仕掛けが、所々にあるのに気付かずにぼんやり読んでしまった私でした。吉原に(江戸風俗に)関心をお持ちの方にはとっても面白い作品ですよ。

BOOK
comment(0) 2007.08.23 22:27

武侠映画の快楽

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著者 岡崎由美・浦川留
出版社 三修社

 この夏予算のかかることが二つほどあった、だからさあもう本は買わない、絶対買わない、と心に決めた…とたんにめぐり合うこの一冊!
 岡崎由美さんはNHKラジオ中国語会話で金庸の武侠小説を教材にしていらっしゃったので知った名前、浦川さんについてはほぼ毎日そのブログを訪問して中華な映画ニュースを教えてもらっている私です。そして、竹林の上で飛びながら戦う荒唐無稽な武侠映画大好きなワタクシであります、買わずにいられなかったのでありました。
 
 そもそも限りなく不死身に近い男たち女たちが空中で剣を振るう、そんな馬鹿な話になど興味ない!という方もおありでしょう。 で、なぜ彼らは空中を飛ぶ?それは、かの麻原彰晃という人が結跏趺坐を組んだまま浮かんで空中移動できると主張していたのとよく似た理屈があるのです。気をコントロールするというか、武侠の言葉で言うと外功・内功(気功の種類)と呼ばれるものの内功の技を取得し、その内功が充実すると掌からパワーが出て敵をやっつけたり浮いたり飛んだり垂直な壁を駆け上がったりできる、ことになっているのですよ。つまりそれが中華圏の時代劇のお約束。
 で、現代武侠映画は、かなり我が日本のマンガ、アニメの影響を受けているということです。たとえばドラゴンボールとか、そんな物から。

 で、ハリウッドにおいてはその中華な武侠片のアクション監督を招いて『マトリックス』『キルビル』といった作品が作られているこの頃なんですね。欧米の映画ファンに武侠を知らしめ、武侠の北京語読みWUXIAを英語として定着させる元となったのが「グリーンデスティニー」その後の「英雄ヒーロー」という流れであるとか、その辺の有名どころの作品からその他さまざまな作品の紹介、解説があります。数少ないこととは思いますが、武侠映画のファンの皆様、読んでみませんか?
 私、岡崎先生から大学で講義を受けている学生さんがうらやましゅうございます…が、私のほうが早く生まれちゃってるんでありました。
 

BOOK
comment(0) 2007.07.23 20:38

卵の緒

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著者 瀬尾まいこ
出版社 新潮社

 瀬尾まいことい言う名前は「幸福な食卓」というタイトルとセットで記憶にインプットされていた。けれども作品を読むのはこれが初めて。

 僕は捨て子だ。子供はみんなそういうことを言いたがるものらしいけど、僕の場合は本当にそうだから深刻なのだ。という書き出し。  
 それが子供のありがちな妄想なのか事実なのかあいまいなまま母と子の生活が進行し(母にへその緒を見せてくれと言うと卵で産んだのだと言う)、母の好きな人の話、学校に出てこなくなった同級生の話、おいしい食事、などあって、母がその好きな人と結婚、姓が変わり新しい姓に慣れたころ、母さんのお腹が少し大きくなる、あれ、今度は卵で産まないの?と聞くと同じことを二度したってしょうがないでしょ、と言って、出来損ないの昼ドラみたいな話なんだけど、と、どうして主人公育生と母さんが家族になったかについての話を始める。

 少しおかしな母さんのいる物語詩のような繊細なお話。
 
 もうひとつ収録されている「7's blood」は半分血がつながっている年の離れた姉弟のお話。これも家族とは、家族のつながりとは?というテーマが流れて、しーんと痛い。

 もうとっくに作家デビューしていた2005年に正式に教員採用試験に受かって今も中学校の国語の先生だそうです、瀬尾まいこさん。

 とても好きな作品でした。これがデビュー作だそうです。これからこの人の物を読み進んでいくだろうと思います。今年映画化された「幸福な食卓」のビデオも見ます。

BOOK
comment(0) 2007.07.05 00:20

バルバラ異界

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著者 萩尾望都
出版社 小学館
http://flowers.shogakukan.co.jp/barubara.html

 第27回日本SF大賞受賞作品。
 花の24年組と呼ばれる少女漫画家がいることを知っているのは若くないマンガ読みたちでしょう。
 で、その、今や大御所たちの今に至る活躍ぶりに感嘆してしまいます。さてこの「バルバラ異界」ですが、第一巻を読んだときにはいやあすごい!なんと面白い!と思ったのですが読み進む内に混乱をきたした・・・のーみそがなかなかついていかないのよー・・・!
 7年間眠り続ける少女十条青羽がいます。少女は両親の心臓を食べたらしい、のです。人の夢に入り込むことが出来る男渡会時夫(作家本人が、モデルは金城武といっています、確かに5・6年前の彼のヘアスタイル)が、その夢に入っていきます。夢の中の彼女はバルバラと呼ばれるところに住んでいます。
 時夫の息子キリヤの夢には、火星が出てきたり、或いは青羽が出てきたりするのです。そして彼はパソコン上にバルバラと名づけた自分の世界を持っています。
 
 老化の早い遺伝子を持った人類がいるのです。若返りを試みます。そこに心臓の蛋白質が係わってきます【このへんちょっと彼女の代表作“ポーの一族”を思わせる】。

 クローン、遺伝子操作、カニバリズム、火星に海がありそこの生命体は皆すべて同じ記憶を持って存在していた・・・などなどなどなど、よくもこんなにたくさんの要素をひとつの作品の中に構想できるものです。萩尾望都サマより少し若いワタクシですが脳トレが必要であることを痛感いたします。
 

BOOK
comment(0) 2007.06.21 21:57

死神の精度

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著者 伊坂幸太郎
出版社 文芸春秋
 
 あーなんてこったい…昨日書き込んだはずの物がなーい!仕方ないからもう一度チャレンジ。(別件ですがブラウザからホームのアイコンが消えている、元に戻るボタンもない、どーした、死神ー、あんたの仕業じゃないよね!)
 コウベとかマチダとかで撮影しているのを見た情報がいろんなブログで出ていますが、まだ正式発表していない、ので詳しくは申しませぬ。
 音楽(死神本人はミュージックと言う)が好きで、ちょっと言葉の感覚がずれていて(年貢の納め時、と聞くと“年貢制度は今もあるのか?”と訊ねるような)死神が、主人公。ヒトとは時間の感覚が違う、いろんな時代にいろんな年齢、タイプで出現する。そして、死の予定をプログラムされている人間と知り合い、その予定をそのまま実行するか延期するかを決定する、そういうお役目。だから黒いマントや鎌なんか持っていません。
 短編集で、最後のお話で前にあったエピソードとつながります。伊坂幸太郎作品は、映画化ドラマ化されることが多いのですが(ここでも『陽気なギャングが世界を回す』を紹介済み)この「死神の精度」はNHKでラジオドラマ化されたそうです。青春アドベンチャー聞きたかったな。
 生・死をテーマに、淡々と進みますが、これ、何年か時を置いて読み返したら、違う味わい方をしそうです。

BOOK
comment(0) 2007.06.21 20:48

赤朽葉家の伝説

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著者 桜庭一樹
出版社 東京創元者

 時は戦後しばらくたった時期の鳥取県に、『辺境の民』に置き去りにされた女の子がいた、それが後に赤朽葉家の千里眼奥様と呼ばれる万葉、そしてその娘毛鞠、またその娘瞳子の三世代にわたる物語。
 1953年に10歳ぐらいだった、と言うのだからそんなには古い時代のことではないのだけれど、まだまだ山陰などにはいわゆる山の民、文明と離れて暮らしている民がいたという設定。
 わたくしこういう物語は大好きです。
 戦後の昭和の時代の変遷が、明治大正の時代のことであるかのような奇異な或いはファンタスティックな、事件と絡めて描かれていきます。で、作者はおそらくわざとそうしているでしょうがなんだか時々変な言葉遣いというのか、ん?な文章あり、また、ああ?な表現あり、ところどころ引っ掛けどころを作って書いているのねあなた>桜庭一樹様。
 突然ザ・ピーナッツの恋のバカンスの歌詞がまるごと出てくる60年代、学生運動の70年代、暴走族からバブルへの80年代、バブル崩壊の平成、と、思えばいろいろあったのね、の流れの中、脇役の女性までさまざまな生き方が描かれて、うーん、これは今年のベストⅠ候補に挙げておきましょう。
 ただ、鳥取が舞台だけれど、伝え聞く鳥取の様子とはちと違うぞ…と思ったら、桜庭一樹は、米子市生まれのしかも女性でした。鳥取市とは違うのかも・・・。

BOOK
comment(0) 2007.04.25 20:41

舞姫テレプシコーラ

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作 山岸涼子
出版社 メディアファクトリー 
 山岸涼子のバレエマンガと言えば『アラベスク』、あれでバレエの基本知識を得た人も(かつては)多かったかも。テレプシコーラは雑誌「ダ・ヴィンチ」連載の初めのころ、空美が出てきたちょっと怖い方向へ行きそうだったあたりをちょっと読んでいただけ、友人が10巻まとめて貸してくれた物を読んだら、はまりましたね。姿勢のことなど書いてあるので、うっかり(か?)まことに正しい姿勢で正座して呼んだり致しまして。
 アラベスクの時代には、バレリーナは小柄な方が良かったのだけど、今では背が伸びた方がいいのねー。小さかったらプリマでなければ生きのびていけない、そうね、それはそうだわ。
 骨が成長する時期に筋トレしすぎると、筋肉によって骨の成長を妨げられる、だからある時期バレエの訓練はセーブすべき・・・むむむ、なるほど、そういうこともあるのかあ。
 と、80年代に森下洋子さんのすばらしいオディールを見、数年前にシルヴィ・ギエムの公演を見たぐらい長生きしてるといろんな事情にびっくりするのであります。
 ストーリーは、ダンサーとしては致命的な欠点を持って生まれた女の子六花(ゆき)、その姉で将来を嘱望されているけれど…の千花、どうにも救いのないような環境下で育っている天才空美の…読んでね。上野水香ならぬ野上水樹なんて名前の脇役も出てきますよ。
 これまだ第一部が終了したところ、第二部に空美がまた出てくるはず、どんな形で?怖いもの見たさ・・・。

BOOK
comment(0) 2007.04.16 20:39

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