作者 上橋菜穂子
出版社 講談社
闘蛇(とうだ)と呼ばれる堅いうろこと角を持つ大きな水棲の生き物がいる。王獣という(本来)白銀に輝く翼を持つ闘蛇よりも大きい生き物がいる。それを権力の行使のための道具としようとする者たちがいる。
真王(ヨジェ)と呼ばれるやさしい老女王が治める国リョザ神王国、闘蛇を操る大公(アルハン)、過去に犯した過ちを二度と繰り返さないために、自分たちが持つある種の能力を封印して生きる民族。
闘蛇衆と呼ばれる闘蛇の医師だった母を失い(母は娘を助けるために禁を犯す)、蜂飼いの男に助けられるエリン。
はるか古い時代のファンタジーという形であるが、現代の政治、権力、争いの構造そのものでもある。圧倒的な獣の力を持って世を治めようとする考えにふと原子爆弾を連想した部分もあった。
エリンと蜂飼いのおじさんジョウンとの交流、エリンと王獣リランとの間に流れるもの。生き物に対する観察力が優れているエリンは、また人間の生きるための方便であるがごまかしでもあるものを見る力を持つ。
作者上橋菜穂子さんは、文化人類学専攻でアボリジニの研究者だそうだ。蜂の生態の部分だけでも楽しめるのは、そんな背景があるからか。児童文学に属する作品だろうが、ファンタジー嫌いの人にこそ読んで欲しいとあるように、リアリティのある物語ですよ。
「闘蛇編」「王獣編」2巻。厚いし2巻だけど読みやすいから平気。