本心

著者 平野啓一郎

文春文庫

2040年代の入り口、という時代。母親と二人家族だった29歳の男が、母親のVF(ヴァーチャルフィギュア)を依頼する。

母は『自由死』を望んでいた。結局不慮の事故で亡くなったのだが。

男は、“リアルアバター”として働いている。カメラ付きゴーグルを装着して、依頼者の代わりにどこかに出かける。依頼者はヘッドセットを付けてその映像を見、体験する。

また、ヘッドセットを付けることで、自分のいる空間に存在している(ようにしかみえない)母と会話する、生活を共にすることができる。VFはテレビなどから現在のニュース、社会の動きを知り、学習することができる。アイボを育てるようなものか。

息子が知らなかった女性の友人や、ある作家の小説のファンであり、親しかったこと、などがわかってくる。

少しだけ先の世界、映画の『プラン75』に近いがもっと若くても自分で“死”を選択できる社会。リアルアバター、アバターデザイナー、などの職業が存在する。

母はどんな人だったのか?本心はどこにあったのか?何を思っていたのか?

今はいない誰かと、話をしたい、返事が欲しい、と、思うことが形の上ではかなうなら、それを望むだろうか、自分なら。やはり少しの違和にいら立ち悲しむのだろうか。

“分人”という、平野啓一郎が提唱している概念と、愛、というテーマで描かれるシリーズの一冊。初めの方の主人公の在りようが、年齢の割に幼く思えてしまうが、まあ、読み終わるまでには成長しているよ。ここからだろうけど。

 

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