花桃実桃

著者 中島京子

中公文庫

文庫版の帯にはクスクスほっこり系小説とあるが、ほぼ引き攣って笑った。古語の解釈のものすごさ!

主人公花村茜43歳が、祖父の残したアパートを相続する。たまたま会社から肩たたきされていたタイミングで、そのアパートの管理人となりそこに住むことを決意。“花桃館”というそのアパートの住人は、泣きのウクレレを弾く青年、3人の子持ちのシングルファーザー、祖父の恋人だったらしい老女、探偵、整形を続ける女性、国際東京江戸川大学山田の挟間校舎客員教授のクロアチア人イヴァン・ほろほろヴィッチなど。

で、そのイヴァン・ほろほろヴィッチ(聞き取れないのでそう呼んでいる)は、百人一首の英訳版を口ずさむのだ。ワンハンドレッド・ポエムズというのか、百人一首のこと。英語で綴られた詩の、naniwaという部分だけがわかって、百人一首を買って難波の出てくる歌を探すと3首出てきて、そのうちの 難波潟 みじかき葦のふしのまも 逢わでこの世をすぐしてよとや を気に入る茜。よとや が調子のよい掛け声のようだと思う茜。男 会わないでこの世を過ごしたんだよ、へいっ! 女 そうだよ、ほいっ! あるいは、男 会わないでこのよをすごしてちょうだいよ。女 嫌よ。か。・・・って、独自の解釈にもほどがあるというかある種天才的。しかもそれなりに勉強家、研究熱心。

そして、『青いライオン』というバーを営む高校の同級生尾木くん。青いライオンと金色のウイスキー、田村隆一の詩を、筆者わたくし一時暗記していたのだが、もうタイトルしか覚えていない。そういう男、ことわざ好きの、茜とはなんの共通点も無い、男。が・・・。

参考文献として『英詩訳・百人一首 香り立つやまとごころ』集英社新書が紹介されているので、読んでみたくなる。原文と比べながら。英語力無いのをしみじみ感じたけれど。

解説では、どこかで聞いたことのある響き、ということから“~花も紅葉もなかりけり 裏の苫屋の~”定家の歌を思い出したとある。私はというと、すもももももももものうち を思った。教養の差はこんな風に。

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