私を離さないで

著者 カズオ・イシグロ
ハヤカワepi文庫

カズオ・イシグロの小説を手に取っても、なかなか読み進められなくて書棚に戻すという状態だった。本作は、TVドラマ化されたものを観ていたこともあって、スムーズに読むことになった。

ドラマよりずっと抑制された描き方。

“介護人”であるという女性の語りで進む。かつてヘールシャムという施設で、語り手の女性を含む少年少女が暮らしていた。抑制されているが何がしかの違和感を匂わせながら、それは実は、ということが見えてくる。
先にドラマを見ていたことが残念に感じられる。この小説のテーマにどこで気づいただろう?もしも小説が先だったら。

臓器提供のために作られたクローンだったのだ。そのヘールシャムで育っていた子どもたちは。そして、いつかそこを巣立って、コテージというところに行く。先輩たちもそこにいて、それぞれそのコテージをも去る時が来る。そして介護人になり、臓器提供をした人に付くのだ。いずれ自分が臓器提供する日までは。数回の提供が待っている。

クローンは生殖能力は無いということらしい。でもみんな恋愛も性愛もする。ドナーだから病気には気を付けなければならないが。ヘールシャムで美術教育が盛んだったのはクローンの感受性や表現能力がどんなものかの実験だっただろうか。

ヘールシャムのあり方に疑問を持った先生によって、自分たちの役割というものを知らされた彼ら。淡々と受け入れた、はずは無い。
けれども数年の延期が得られるかもしれないという希望が、とても切実に大きなことのように描かれ。

語り手キャシーがヘールシャム時代に好きだった、Never Let Me Go という ジュディ・ブリッジウォーター の歌が、この小説のタイトルになっている。実在の歌手の実在の歌なのか?と疑いながら読んだけれど、hold me never let me go という歌声を探してみた。なるほど体を左右にゆすりながら聞くだろう。

2011年の映画では、校長役でシャーロット・ランプリングが出ているらしい。観たい。

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