眠れる美男

著者 李昂

訳 藤井省三

出版社 文芸春秋社

川端康成の『眠れる美女』は、性的機能を失った老人男性のための秘密くらぶがあり、薬で眠らされた若い女性に添い寝する、という話だった。若かった私にとって、手元に置きたい小説ではなかった。

で、こちらはその川端康成作品を意識して、女性側が若い男性に対して思いを募らせ、という、台湾の女性作家による小説。

川端作品がある種幻想的な、デカダンスと言う言葉であらわされる状況なのに対し、若い男になんとも切実に恋心を抱き、肉体を切望する、50代更年期の、教養あるお金持ちの台湾女性。

女性作家が、フィットネスジムの更衣室のロッカーに残された携帯電話を見つけた、そこにはその作家宛ての言葉、男女二人のLINE、長文が残されていた、と言う設定。

ジムのトレーナーは、鍛えた肉体を持つ若い美男子、台湾の少数民族の血を引く男。外交官だった夫はバツ1で、彼女が40歳間近で出会い、家柄、教養など釣り合いの取れたカップルとして、格別に熱愛があったわけではないがすぐに一緒になった。夫やそれ以前の恋人たちとまるで違う若い肉体を持つ男に惹かれるが、男には嫉妬深い婚約者がいることも知っている。

しれっとチャタレー夫人の方向に進むわけではない。一人想う心と焦がれる肉体のご婦人である。台湾はアジアで初めて同性間の結婚が認められた国だが、実際、映画などで同性愛者が出てくることが多い。で、日本で言うところのタチであるマニッシュな女性と知り合い、性具によって快感を与えられる場面があったり、上海ではビジネスで出会った男と、オプションでこんなことも、とでも言うようなセックスをしたり。オプションの分は金を取るくせに、お母さんとセックスするようだ、なんぞと文句垂れる男。銭が介在するならサービスするもんじゃないんかい。

そもそも途中で横書きのラインのやり取りが挟まれている、各章のタイトルのページ下に、小さな文字で横書きの文章がある、型を外した形であるのだが。このような内容にしては訳文が格調高い、ような気がしたそばから日本語がどうもおかしい。内容自体が、川端康成へのオマージュとして、レイプドラッグらしきものを男に与えて眠らせる(そりゃ犯罪だ)、妙な設定なのだが。男性の訳だからか?女性の翻訳の方が良かったのか?だけどこの翻訳者、藤井省三さんは名を知られた人で・・・と思ったら、元々の中国語の文章が、本来の文法を外したまことに翻訳しにくいものであったらしい。訳者の解説に縷々と。

アンバランスさは狙いなんでしょうねえ。中華圏の古典が引用され、最近の流行り言葉が使われ。なーんだか梯子を外されるみたいな読後。

高齢女性(いや、この小説ではまだ更年期女性だ)の性を描くことがちょっと流行りなのかな。でもね、そこ言うなら、我が日本には『源氏物語』ってものがありますね、源典侍なる色好みの年増女官が出てきますよね。年増ったってその時代の事だから40歳に届くか届かないかぐらいのところかと思っていたら、Wikipediaによりますと初登場ですでに50代後半、最終的に70歳前後、だそうで、ちょっとした誘いにもすーぐ乗っちゃうぞと言う姿勢のままでしたよね。

なので、上野千鶴子サンが帯で推薦しているけど、そこまで新しいことも無いかも、と私は思ふ。

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