香君

著者 上橋菜穂子

出版社 文藝春秋

香君と呼ばれる、物の香りですべてを知り、それによってさまざまな指示を与え、国を支える女性の活神がいる国。初代の香君によってもたらされたオアレ稲の豊かな実りが、この国を支えている。

ある時、オアレ稲にオオヨマという虫が発生する。その頃、アイシャという少女が都にやってくる。アイシャは鋭い嗅覚を持ち、香りが叫びにもささやきにも聞こえる少女だった。

ネパールのクマリとかチベット仏教のダライ・ラマのような形で選ばれる香君は、一般人よりは嗅覚が優れているものの、実のところアイシャのように声として聞こえるほどの能力があるわけではない。それは人民に知られるわけにはいかないことなのだ。かつての日本の天皇のように、神として存在するために守られる。初代の香君にはより優れた能力があったらしい。その時代に、オアレ稲の肥料の規定が定められ、代々それを守ってきたのだが、ひそかに絶対の下限とされる肥料を減らして植えてみた結果、それでも育っている地区があった。そしてオオヨマにたかられても育つ〈救いの稲〉まで。

アイシャには、その稲が「来て、来て、来て」と叫んでいる声が聞こえる。

そして、救いの稲を食べる異郷のバッタが襲う。

アブラムシにたかられた植物があげる声によってテントウムシが来て、アブラムシを食べてくれる、そんな連鎖が、オオヨマがあげる声に答える虫がいない、そのため、稲ばかりかその周りの植物まで、大きな異郷のバッタにより食い尽くされていく。

ここ10年ほど、畑で野菜を育てている。今の時期、例えばキュウリにはウリハムシが、ピーマンにはカメムシがたかる。今年は玉ねぎがべと病?により育たなかったし、ミニカボチャの葉っぱはウドンコ病で白くなっている。農薬を使わないのでそんなものだ。とにかく化学肥料に頼らず土作りを、と、言うは易し、行うは…。ともあれそういう経験が多少ともあるか無いかで、この物語の理解度は違うと思うよ。そして、『ルポ 食が壊れる』堤未果 で読んだ、巨大企業(GAFAM)のアグリビジネスにより使い尽くされた後、痩せた土、借金を抱える農民が残るなどの状況を思い出しながら読み進めた私である。

一つの種に依存することの恐さ、共存の道を探り続けていくということ。と、香君として生きることの孤独。

もしかしたら、オアレマズラという場所を描く続編があるかも?と思われないでもない、よね。

 

 

 

 

コメント (2)

atcon2023年8月11日(金曜日) at 3:12 PM

野菜作り、もう10年になるんですね。
安全でおいしい野菜が食べられるのは羨ましい。
10年くらい前、市内の大学の講堂で上映されていた、『モンサントの不自然な食べもの』という映画を観ました。
農薬、化学肥料、除草剤、遺伝子組換え作物、、、
私にとってはトラウマ級の怖い映画でした。
モンサントは消滅したけど、食の安全より企業利益を優先するアグリビジネスが無くなることはないのでしょうねえ。

あある2023年8月14日(月曜日) at 3:24 PM

モンサントの名前は消えたけど、バイエルに吸収されただけだし、日本ではラウンドアップは普通に売られているし。
野菜畑も台風の風でトマトの柵も茄子の支えも崩れ、草ぼうぼう。明日まで気温36度の予報だし、お盆明けまで草刈り延期です。

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