短くて恐ろしいフィルの時代

著者 ジョージ・ソーンダーズ

河出文庫

国土が極端に狭い国、内ホーナー国には、国民が一度に一人しか入れなくて、残りの6人は、内ホーナー国を取り囲んでいる外ホーナー国の領土内の一時滞在ゾーンに身を寄せている。

どうやって眠るんだ?なんて疑問をまず抱いたが、読み進むと、ここの住民の外形が、それぞれ想像を絶するのであり。八角形のスコップ上の触手を持つエルマー、黒くつややかなフィラメント、振り子のように揺れ動く半透明の被膜、露出した背骨、毛皮に覆われたグローブ状の突起物でしとやかにベアリングを掻くキャロル…全体像をイメージできない。

外ホーナー国の住人、平凡な中年男フィルが、内ホーナー国に住むキャロルに恋をし、頑張って気を引こうとしたが、報われることなく、キャロルは内ホーナー国に住むキャルという恋人と結婚してしまった。二人が仲良く暮らしているのを見るにつけ、フィルはひねこびていき、二人に息子が生まれるとそのひねこびが頂点に達し。

フィルの脳は巨大なスライドラックに固定されているのだが、ボルトが時々外れて地面におちてしまう。そうすると、彼は突然自信たっぷりに弁舌を振るうのだ。ヒトラーを思い起こさせるその雄弁な姿。

このおかしな物語が世に出たのは2005年だそうだ。まさかドナルド・トランプが大統領になるなど誰一人思いもしなかっただろう時代。ロシアとウクライナの本気の戦争も。ト〇〇〇になにがしか脳みそがあるとは思えないし、プ〇〇〇は認知症もしくはなにやら脳に関する病だという噂が絶えない。

全体を読み終えれば、まあわかりやすい寓話なのだ。が、一人ひとりの造形、またはその世界のありようが、私の想像力を飛び越えているので、なかなか読む進むことができなかった。後書きによれば、登場人物がすべて抽象的な図形であるような物語は書けるか?と言われたことがきっかけだったという。とにかく、記憶に残る作品となるだろう。

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