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釣り上げては

著者 アーサー・ビナード
出版社 思潮社

 ファイル 138-1.jpg1967年アメリカのミシガン州生まれ、1990年に来日、2001年、この詩集を出している。もちろん日本語で書いて。

 詩集のタイトルにもなっている詩“釣り上げては”の最後、

  記憶は ひんやりした流れの中に立って
  糸を静かに投げ入れ 釣り上げては
  流れの中へまた 放すがいい。

 ついさっきTVをちゃんと見るでもなくマクロビオテックの話してるなあなどと目の端で眺めていたら、びなーどさん、と呼びかけている。ビナードさん?NHKBSのMiDoRi緑遊という番組に出ていた。

 初めて読んだのは『空からやってきた魚』(草思社)というエッセイだった。その頃外国人で日本語で書いた作品の感想を書くことが続いていたので、ここに紹介するのはやめたのだった。

BOOK
comment(0) 2010.05.04 13:38

暗く聖なる夜

ファイル 137-1.jpg著者 マイクル・コナリー
講談社文庫

 元(ハリウッド署)刑事ハリー・ボッシュの正しい名前はヒエロニムス・ボッシュと言います。あの、最近ではボッスということの多い地獄絵のような絵を描く幻想画家と同じ名前。読みたくなった?
 
 かつて迷宮入りとなった事件、映画会社の社員である女性が殺され、続いてその会社が制作していた映画に使われる現金強奪事件が起こり、警察の同僚が死傷した・・・その事件についての情報が入り、今では私立探偵となったボッシュが調べ始める。するとロス市警、FBIからも横槍が・・・。
 どこへ発展していくかと思うとあれあれ、なんということ。

 ジャズ好きの人には別の楽しみ方があるでしょう。タイトルはあの有名なルイ・アームストロングの“What A Wonderful World”の歌詞より。
I see skies of blue and clouds of white On the bright sunny day, or in the dark sacred night And I think to myself "What a wonderful world !"

と言っても、その歌詞が本文の中に出てくるけれど、もともとの英文タイトルは“LOST LIGHT”。
 
 ボッシュ・シリーズを初めて読んだと思っていた、が、訳者後書きのボッシュ履歴を目にしたら、知っている気が・・・何かを読んだのでしょうか?わたくし。

BOOK
comment(1) 2010.04.28 21:07

金魚生活

ファイル 136-1.jpg著者 楊逸
出版社 文藝春秋

 金魚生活って・・・読みたくなるでしょう、それは。タイトル勝ちというか。
 
 中国語読みでは魚という字を余という字と同じ音で発音する。で、物が余る=豊かということで魚は縁起のいいものとなっている。で、金魚といえば金が余るとなるわけだ。
 
 レストランで働く玉玲は、そこの金魚の世話係でもある。43歳の時旦那が車の事故で死に、今は50を過ぎているが今もなかなかの美人である。日本で結婚し働いている娘が出産するので、手伝いに来てほしいという。
 日本語がわからない玉玲が、日本行の飛行機の中で出会った北京出身で日本人と結婚している森田という夫人、娘のアパートの隣人のおばさんとのそれぞれなんだかちょっとズレてる交流があったり、娘に日本人との再婚を勧められてお見合いすることになったり。まあそうはいっても娘には話していないが中国で夫の友達だった男(うだつの上がらない)男と同棲している。

 お見合いと言っても無礼な状況もある。3人目の人は漢詩の愛好者で少し中国語も話す。心が揺れる。李白の詩を吟ずることは日本人にとっては教養だが中国では小学生で習うので、会話が進む。ここに出てくるエピソードで、『静夜思』牀前月光を看る 疑ごうらくは是れ地上の霜かと  頭を挙げては山月を望み 頭を低れては故郷を思う の、山月の部分が中国では明月である という話についてはしばらく前に日本の高校生?だったかその研究をしたということが新聞記事になっていたはずだ。おまけに最初の看明月の部分も明月光となっているバージョンもあると、以前通っていた中国語教室でも話題になりましたのさ。興味のない人にはなんのこっちゃでしょうが、中国語学習者の私としてはこの見合い相手のおじさんの気持ちがよくわかりますよ、心弾んだことでしょう。玉玲だってつい夢想する。・・・が。

 この小説の、リアルなんだけど変なおかしみ、例えば張芸謀の映画『至福の時』の感じによく似ている。中国出身の作家の言葉の使い方が、間違いではないけれどどこかちょっと変なところも、結構重い事情もはさみながら淡々と進んでいく気配に加担している。

 なんかね、まいったぜ、と思ったのですよ、読み終えて。この短い小説の中で、文化の違いや、人間性や、人生が描かれていることに、ということかな。

BOOK
comment(1) 2010.04.14 22:31

食堂かたつむり

ファイル 135-1.jpg著者 小川糸
出版社 ポプラ社 ポプラ文庫

 法要のあとの会食の時にいとこのダンナサンに勧められた本があったことを思い出し、ちょっと探してみたけれど近所の○タヤには無かった、やはり(ちなみに有吉佐和子の“一度はあること”というもの)。
 で、ぷらぷら眺めて“小川糸”という名前って・・・気になってた、し、“喋喋喃喃”という単行本のタイトルも気になっていた、が、まず、同じ作家の文庫本売れ筋第2位を手に取ったのだ。

 トルコ料理店のアルバイトを終えて家に戻ると、部屋の中が空っぽになっていた。もぬけの殻だった。テレビも洗濯機も、蛍光灯もカーテンも玄関マットも、あらゆるものが消えている。  という出だしで、決めた。

 同棲していたインド人の恋人に一切合財持ち逃げされ、そのために声を失い、十五歳で家を出てから寄りついていなかった田舎の母親のもとに帰る、といっても母親はスナック経営の派手な女であり、不倫の娘でありしかも倫子と名付けられてまことに相性のよろしくない母娘である。
 実家の物置だった所で一日ひと組だけを客とする食堂を始める。

 ざくろのカレーって想像できる?
 http://www.ogawa-ito.com/index.html糸通信という彼女のサイトには料理のレシピがいくつか出ていて、たぶんこの小説に出てくる料理は実際に作られたことがあるのだろうと思われ・・・料理ってそういうものだったか・・・母と二人の生活になったら料理が手抜きになりがちで、自分でも今ひとつ…な代物だったりすることを、反省いたしました。
 
 喪失と再生の物語。んなわけねーだろ、と突っ込みたい人はたくさんいるでしょう、いい人ばかり出てくるし、実に都合よく場所があって古いシャンデリアが降って湧いて由緒正しい食器があって、でもまあそれぞれがのちのちへの伏線になっていて、今の私が読みたかったのはこんな本でした。

 柴崎コウ主演で映画になっていたのですね。いずれDVD見てみましょう。

BOOK
comment(1) 2010.04.03 10:30

幸田文きもの帖

著者 幸田文
ファイル 134-1.jpg者 青木玉
出版者 平凡社

 はるか昔、高校の図書館に“幸田文全集”という渋い布表紙の全集があり、愛読したものだった。ハタキの使い方から父・幸田露伴の指導を受けて、正しく生活する姿を美しいものと思いながらもまあ見事にかけ離れた人生送ってます・・・。

 幸田文さんの娘であり自身もエッセイストである青木玉さんが、台所帖・しつけ帖と三冊テーマ別にまとめたものの中から、台所帖とどちらを買おうかと思案したのだけれど、きもの帖を買いました。
 一生を着物で通した幸田文さんの、子供のころからの身につける者に対するこだわり、またそのことを鮮明に記憶していることに、まず驚きます。私は着物を見ることは好きだし、できれば着たいと思うけれども、生活形態が・・・というのは言い訳になりますが。

 着物のことをよく知っている人が読むともっと深く理解や同感が生まれるのでしょう。知らなくても、この生き方、観察力はみごとです。

BOOK
comment(0) 2010.01.18 10:11

横道世之介

ファイル 133-1.jpg著者 吉田修一
出版社 毎日新聞社

 噂の横道世之介です。噂・・・聞いてない方もいらっしゃるでしょうが、あちこちの書評で目にしました。

 田舎から進学で東京に出てきた世之介、新宿アルタ界隈の特設ステージで本物のアイドルがインタビューを受けている、でも誰も大して気にもしないで通り過ぎるのに驚愕・・・というところから始まる。時代はバブリーな90年ごろ。
 ごく普通の平凡な男の子、なんですが、例えば身内にゲイのおじさんがいて、子供のころその恋人ともども遊んでもらったりしたから、友人がホモセクシュアルであることを知っても特に珍しいことと思わない、という具合になにかしら普通ではないところがあり。何事にもNOと言わないから勧誘されるままいつの間にかサンバ部にはいってるし。

 クスクス、くっくっくっ、と笑ってしまうシーンがあちこちに。またなんで親御さんは“好色一代男”から名前を付けたりしたんでしょうかいなあ?

 時間が急に飛んで誰だかよくわからない大人のエピソードが挟まる、のだが、それは学生時代に世之介とかかわった人たちの現在なのです。 横道世之介 というタイトルですが、どちらかといえば、世之介という男の子とある時期交流があった人間たちが、その後をどう生きているか、というお話、かな。結構苦いものも。

 ネタばれになるので書きませんが、えーっ、そんなあ!…と思ってしまうのだけど、あの事件から発想したお話だったのでしょうか?そんなあ・・・ ・・・。

 祥子さんその後のエピソード、本物のお嬢様育ちの人にたまにいるなあこんな生き方、と思われますが、世之介と一緒に体験した事件が後々にこんな仕事に携わることになるとは!
 
 まあ、読んだ人それぞれにある時代、そこにいた人たちのことを思い出すことでしょう、私の学生時代には、アルタはまだ二幸だったんだけどね。あ、なんのこっちゃって、ごめんなさい。

BOOK
comment(2) 2010.01.16 10:03

まほろ駅前多田便利軒

ファイル 132-1.jpg著者 三浦しおん
文春文庫

 いわゆる便利屋を営む多田啓介が、バス停で出会ったのが高校時代の同級生、行天春彦、行天は同級生といっても高校時代に一言も(ある事故で指先がちぎれたときに“痛い”といった以外は)言語を発しなかった男。それが、多田にくっついてくることとなり・・・。
 
 ちぎれた指先はすぐに病院に行ったからつながった、けれど指先の色も温度も違う、というこのことが、一つのテーマとなっている。二人とも心の奥に取り返しのつかない思いを抱えているのだ。

 男二人が素人探偵を演じることになる、まあ設定は珍しくないお話なのだが、脇役の自称コロンビア人娼婦ルルとその同僚ハイシー(ってなんだその名)とか、行天の元結婚相手凪子とか、チャーミングな人々が次々出現、芯に繊細な流れがあってのバチバチバンバン、私は初めて読んだ三浦しおんですが、まことに失礼、世の中まだまだとても面白いエンターテインメントがあるのね。
 例によって、勝手に映像化キャスティングを考えているのだけど、もうちょっと若いトヨエツまたはもうちょっと年がいってからの松田龍平で行天・・・なぜなら伸びた前髪をゴムでくくってちょんまげ状態、冬に裸足で健康サンダル、というファッションで、それなりに見られる人って。

 子供のころ、同じ本を続けて3回は読んだ。初めはストーリーを追い、二回目はじっくり、三回目気になったところを中心に。久しぶりに、そんなような読み方をしましたね、読みやすいからできることだけど。
 第135回直木賞受賞作。まほろ駅前番外地 という2作目もでているようです。こちらはサブキャラ中心だとか。たぶん、それはTVドラマ向きかな?シリーズ第一作のほうは、どちらかというと映画化がよさそう。

BOOK
comment(0) 2010.01.09 10:58

所轄刑事・麻生龍太郎

著者 柴田よしき
ファイル 131-1.jpg新潮文庫

 すみませんね、また柴田よしきです。別の本を探していたんだけどね、近所の○タヤに先日あったものがその日には無くて。これが目について。

 RIKOシリーズに出てくる麻生の若き日々、事件とどんなふうに係わったか、というような短編集。たとえば最初の事件では、80年代の下町の路地に飾られている植木鉢が次々壊される、三輪車が壊される、という些細な事件の中にひとつ異質なものを感じた麻生。
 麻生龍太郎は、剣道を続けたくて警察という職場を選んだ男で、ごく平凡な普通の男であると、自分で認識している、けれどね、これが天性の刑事というか、アンテナを備えた男なんだなあ。平凡という割には、真正のゲイではないけれど同僚の(男の)恋人がいたりするのだが。

 地味だけどカッコイイ男だなあ、さすがあの山内錬と・・・になるだけの資質は若い時からあったのね。・・・というか、誠実で真面目で、のちに石橋の龍と呼ばれる男の中に、何か異星人のような感覚があっただろう、違和感のようなものが。

 RIKOや山内を知らなくても読める内容になっていますよ、まだバブルで土地高騰する前の時代のお話。
 『私立探偵・麻生龍太郎』という、警察を辞めた後の話も(角川から)出ているので、そのうちに。

BOOK
comment(0) 2009.12.31 23:09

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