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私の男

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著者 桜庭一樹
出版社 文藝春秋

 うまい。
 
 前作『赤朽葉家の伝説』がすばらしかったし、書評で好評だったし、第138回直木賞受賞で書店に並んでいるのを見てすぐ買った。が、なかなか手が伸びなかった。私は日々の疲れが肩に降り積もる(注・ちょっと茨木のり子さんの詩のパクリ)オバサンであるから、養父(?)との近親相姦・・・なんてしんどい。
 が、読みはじめると、読ませるのだこれが。

 まず、2008年6月から始まる。語り手は主人公の女、24歳。結婚する。そして2005年・2000年・1996年・1993年と次第に時を遡り、視点の主が代わり、事件と、真実を明らかにしていく。

 震災で孤児になった9歳の女の子を、親戚の若い男が引き取り、養女として育てる。そして事実だけを見るなら、おぞましいとしか言いようの無い狂気の事態が起る。

 父の名は腐野淳悟、娘は腐野花という、このネーミングが事態を象徴している。くさりの。読みながら、およそとんでもない男である腐野淳悟を映画としてキャスティングしてみたのだが、若いころの根津甚八・・・以外に考えられなかった。細く、姿勢がよく優雅だがうらぶれた男。且つ暴力や非道の匂いがする男。今の三十代の俳優には思い当たらない〔余談だが松田優作は39歳で亡くなったのだったか。古尾谷雅人は47歳で自死した、たとえばそんな人たちに近いか〕。

 周りの大人たちがまっとうな感覚を持つ人間として描かれていて、救われる。そして、淫らな獣と言う気配には感じない、切羽詰った思い、こんな形でしか生きられなかった姿、と思えるように描ききったのは作者の筆力だろう。

追記 浅野忠信で淳悟は?

BOOK
comment(0) 2008.02.18 15:33

精霊の守人 闇の守人 夢の守人

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作者 上橋菜穂子
新潮文庫

 『獣の奏者』と同じ上橋菜穂子による作品、精霊の守人はTVでアニメ化されているのでご存知の方も多いでしょう。

 たとえば、先にこの欄で紹介した小説『千年の祈り』は昨年日本で出版された文学の中で一番優れているものかも、と言うくらいの評価をしています。

 それはそれとして、私は、どちらかと言えば小説より物語が好きであり、こういうオリエンタルファンタジー系はもう大好きなんですよ。
 短槍使いの女バルサを主人公とするシリーズ。元々は児童文学として出版されているけれど、子供にだけ読ませておくなんてそーんなもったいない、いかに呪術師だの精霊だの出て来ようとも、これはどこの国にもありえた歴史、リアリティあるせつない物語です。この世には目に見える世界のほかに精霊の世界があり、呪術師はその両方をまたいで存在することが出来る、と言う設定。
 父王によって亡き者とされかかった新ヨゴ国皇太子チャグムを、バルサが救う「精霊の守人」、バルサを育ててくれたジグロに着せられた汚名を濯ぎ、故郷カンバル国を救う「闇の守人」、あまりにつらいことがあると夢の国に入り込んで目覚めなくなってしまう、肉体を花に乗っ取られる事態との戦い「夢の守人」までが文庫化されているが、単行本はまだまだ先があるのみならず、チャグムを主人公とする『~の旅人』シリーズもある…
むむむ。

BOOK
comment(0) 2008.01.27 23:41

我的中国

著者 リービ英雄
出版社 岩波書店

 アメリカ生まれ、父親が外交官で、台湾・香港・日本と暮らす。プリンストン大学と新宿を行ったり来たり・・・って!
 われてきちゅうごくファイル 76-1.jpgとわざわざルビを振ってある。ウオダチョンクオと中国語読みすれば私の中国と言う意味になるが、われてき には、今の若い日本人が使う“私的には”のようなニュアンスが強いのか?私の目から見た中国 のような。

 2004年発行だから、驚くべきスピードで発展変化している現在の中国とはすでに大きく違っているだろう。そのころでもかつての中国を知っている(外国人は1人で旅行できなかったようだ)人にとっては変化著しい中を、日本語で考えながら台湾での子供時代に憶えた中国語で会話し、時にインテリの中国人と英語で会話し、古都開封で、はるか昔ユダヤ人が住み着いて中国人になった跡を旅し(著者の両親はユダヤ系・ポーランド系)、西洋人が中国人となった歴史があると読者の目を開かせる。
 中国在住のアメリカ人、と自己紹介すると、大概はアメリカ人の部分にしか注目されないらしいが、アメリカ人であることと日本在住であることの両方が、かつての敵国とみなされることもある。

 中国人が英語で書いた小説「千年の祈り」中国で仕事をすることを綴った「日記2」に続いて、日本在住アメリカ人が日本語で書いた中国滞在記を読んでみました。さまざまな視点から、中国を、或いは日本を、感じますが・・・あー、それにしても、英語・中国語の両方を使いこなせる、使いこなせないまでも日常会話に問題は無い、というレベルの人が羨ましい。
 

BOOK
comment(0) 2008.01.20 14:27

日記2

副題 「鳳凰我が愛」中国滞在録
著者 中井貴一
出版社 キネマ旬報社
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 日記2と言うからにはまず日記1があったわけで、それは中井貴一が初めて中国映画『ヘブン・アンド・アース天と地』に出演した時の実に過酷な理不尽な状況を記したものだった。これは日本ではあまり話題に上らなかったけれど、中国の名優姜文を相手役に、決してひけをとらない存在感を見せた作品だった。映画自体はせっかくのすばらしいロケーションと役者を生かしきれないああもったいない…仕上がりだったけれど。

 で、コリもせず、過酷な状況を百も承知で、なおかつうまく乗せられた結果プロデューサーまでやりつつ、日中合作映画『鳳凰我が愛』http://www.ho-oh.jp/主演となるのである。もちろん台詞は中国語。
 まあ百も承知とは言え、いろいろ不可思議な中国の状況が出てくる。中国の交通事情のすさまじさは、私も一回だけ見たことがあるが、おいおい高速を逆行?物売りが渋滞した高速にやってくる?どこから?どうやって?ただそれだけでも想像を超える。

 まだまだ日本に対する悪い印象を持つ人が多い中国で、“日本”を背負って仕事をする中井貴一の姿を、見てやってください。
 
 私はこれを、「千年の祈り」を読む合間の正月明け、ぺろりと読みました。なぜかひとつ言葉の間違いを見っけ。喧々囂々(けんけんごうごう)侃々諤々(かんかんがくがく)だよね。喧々囂々にケンケンガクガクとルビを振ってある。これって出版社側の不注意と言う物だと思う。

 映画を見たらまた感想を述べますね。

 

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comment(0) 2008.01.13 11:15

千年の祈り

著者 イーユン・リー
新潮クレストブックス

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 1972年北京生まれ、96年渡米、アイオワ大学大学院で免疫学修士号取得の後、創作科修士号取得、と言う履歴の女性が、英語で書いたデビュー短編集。
 その短編のそれぞれが、見事な名作です。
 たとえば最初の作品「あまりもの」、51歳で林ばあさんと呼ばれる独身女性が、年寄りのヘルパー代わりのような縁談を世話される。アルツハイマーのその夫を風呂に入れているとき突然正気に戻った夫が暴れだし、バランスを失って倒れ、死んでしまう(認知症だったのに亡くなる前には正常な物言いをしたのが私の祖母、そんなことがあるらしい)。息子は義理の母に一銭も渡さず、代わりに全寮制の学校の仕事を紹介する。1人の小学生の面倒を見るうち恋にも似た思いを抱くようになる。不憫な子の変わった性癖を見逃してやる。ある日、その子が起こした事件が元で林ばあさんはクビになる。
 まあそんなようなストーリーの運びなのだが、一つ一つのエピソードはかなり厳しいものなのに、いわゆる自然主義的な描き方にならない。淡々とどこか日本昔話とか、寓話のような空気を帯びて、救いがある。
 かつて宦官を輩出した村を背景にした話や、そうかもちろん中国にだってゲイピープルはいるんだよね、いないことになってるから迫害されるけど、で、偽装結婚してアメリカにわたって、と言う話、中国四千年とも五千年とも言われるその歴史の、今に至るまで理不尽な問題は尽きないあの国を背負った、深さ。

 中国人が英語で書いて、ところどころ中国語の表記があって、それを日本語に翻訳する過程で、その英文の空気はかなり正しく伝わっているのか?英語でこのレベルの文学を読みこなす力があったらなあ・・・と思う。

 2007年の年末から2008年の年明けにかけて読みました。短編集なので少しずつ読んでも大丈夫。

BOOK
comment(0) 2008.01.13 00:55

砂漠で溺れるわけには行かない

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著者 ドン・ウィンズロウ
創元推理文庫

 推理小説が好きな人だったら、お気に入りの探偵さんが何人かいるでしょう?たとえば80年代にはパーカースペンサーがいて、それまでの飲んだくれの探偵と違って肉体の管理をきちんとして料理も自分でして恋人スーザンに作ってやる男だった。『初秋』と言う傑作を、その後越えられないまま、なんだかスーザンと別れる?え?というあたりから私は読まなくなってしまったけど、ファン多かったよね。
 で、90年代に『ストリート・キッズ』で出てきたのがドン・ウィンズロウ描くニール・ケアリー。タイトルどおりヤク中売春婦の母を持ツストリート・チルドレン。11歳の時にスリを働こうとした相手ジョー・グレアムによって、探偵として育てられ・・・。
 それが『仏陀の鏡への道』『高く孤独な道を行け』と続いて、たった三作だったけど、中国が舞台になったりするなども私好みで、でも99年に出た三作目で、止まったのかと思っていた、ら、大きな本屋さんでその後の二作を見つけ、あらびっくり。会いたかったよニール!
 『ウォータースライドをのぼれ』では恋人カレンと穏やかに暮らし、いつか大学で英文学を教えるという夢を抱いている。がそこへ簡単な仕事だ、と頼まれて、有名人のセックススキャンダルに巻き込まれることとなる。
 シリーズ最終作『砂漠で溺れるわけには行かない』では、ニールはカレンとの結婚を間近に控えているが、子供を欲しがるカレンに、及び腰になっている。実の父を知らないニールだから。途中からはジョー・グレアムを父さんと呼んでいるけれど。そこへラスベガスへ行ったきりの老人を探しに行けと命令が下る。さてこのジイサン手ごわくて・・・。

 ところで、このニールは、最終作でも20代なのだけれど、推定年齢実は1953年頃の生まれ。今や50代のオジサンだ。カレンと仲よく暮らしている?子供できた?英文学教えて学生に煙たがられてる?どうなんだろう。
 

BOOK
comment(5) 2007.12.09 14:39

ア・ソング・フォー・ユー

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著者 柴田よしき
出版社 実業之日本

 ハナちゃんこと花咲慎一郎探偵(新宿2丁目の無認可保育園長兼業)が「ブルーライト・ヨコハマ」「アカシアの雨」「プレイバックPART3」「骨まで愛して」知る人には懐かしいタイトルのもと、活躍を見せてくれます。花ちゃんシリーズ第4弾ですが、短編集で、それぞれ今までの人間関係を説明してくれていて、初めての人でも大丈夫ですよ。

 ですが。
 RIKOシリーズに出てくる美しきインテリやくざ山内が、ちょっと名前だけの出演かと思いきや、たっぷり出てきてくれるし、最後の方には名前は出ないけど麻生のことが・・・うふん。なんてね、柴田よしき作品に詳しいと・・・読書の悦楽にひたります。読書のもたらす妄想世界に。
 RIKO物に出てくるときと山内のキャラはちょっと違う感じ。時系列で言うと?RIKOの途中のどこか、だれかコアなファンがそういうことを調べてくれていそう。
  
 いや、子供に対するまなざしの優しい、素敵な探偵さんなんですよ、花ちゃんは。読んでみてね。

 
 
 
 

BOOK
comment(0) 2007.12.02 23:06

ソーネチカ

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作 リュドミラ・ウリツカヤ
訳 沼野恭子
新潮クレストブックス

 赤ちゃんなのか子供なのかわからないような幼い時からソーネチカは本の虫だった というのがこの本の最初の部分である。いかにもそういう子供だった私としては、どうにもやはり読んでみたくなるのであった。

 ソーネチカは、図書館の司書という幸せな職を得、広大な書物の海を泳ぎながらその価値を見定めることが出来るようになる。
 ある日、第二次世界大戦が始まる。疎開した地でも図書館の地下書庫と言う憩いの場所を見つける。そこで、有名な画家ロベルト・ヴィクトロヴィチと出会い、見た目のぱっとしない女の子だったにもかかわらず唐突にプロポーズされる。
 年の離れた夫であり、反体制的な芸術家である年の離れた夫との結婚生活は、貧しいながらも幸せだった。一人娘が大きくなり、やがてヤーシャという美人の友達を連れてくる。 

 それから、その後の展開(とても静かな、大きな)、ソーネチカの対応、それをもし男性作家が書いていたとしたら、血が通ってないうそ臭い女の姿になっただろう。はー、男の理想ねー、勝手になさい、みたいな。
 女性がその姿を生み出すと、そんな人がいたのだ、なんと自然にそう生きる人が、と、静かに受け止めてしまう。

 あまり長くない小説である。その中に、ソビエト時代の社会に対する批判的な視線もありつつ、心鎮められる。

 新潮クレストブックスにはほかにこんなものがあります。http://www.shinchosha.co.jp/crest/さて次はどれにするかな?

BOOK
comment(0) 2007.10.05 20:54

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