未必のマクベス

著者 早瀬耕

ハヤカワ文庫

書店でやたらと見かけたのだが、単行本は2014年に、文庫は2017年に出ていて、今なぜ?北上次郎が帯を書いたのはいつのことなのかな?

なんというか、懐かしい感じの、10年ちょっと前というよりもっと前、時にしゃれた言葉を口にする探偵が出てきた時代、を思わせるのは文体か。読み進めるにつれ、結構な犯罪の話になっていくが、そこに高校時代の同級生、初恋といえるかどうかの女生徒、魅力的な女性たち、などが現れ、青春小説的な香りも帯びる。舞台が香港なのだが、それもまだ九龍城のあった頃のような犯罪都市、魔都に近い気がする。

Jプロトコルという日本の会社からHKプロトコルという香港の子会社の代表取締役として赴任することになった男。澳門のカジノで、ある老女の動きに気づいたことから、ちょっとした金を得る。そこで、黒髪の女性に「あなたは、王になって、旅に出なければならない」と言われる。

積み木カレンダーが何やらのヒントになっていたり、その積み木カレンダーに仕込まれていたUSBメモリをパソコンに差し込むと、かつての初恋相手と言える鍋島冬香からの連絡が入っていて。冬香は数学の天才だったらしい。主人公中井優一と同じ会社に入ってみようと思って、HKプロトコルに入社した、そしてある暗号化方式を発した、それの秘密鍵を推測する方法があることを、会社の人間に話してしまった。そこから・・・。

作家自身、コンピューター関係の会社に勤めていたそうだ。そういうことにお詳しい数学脳のお方の方が納得しやすいのかな。2009年ののコンピューター事情だけれど。かと思えばそもそものタイトルにマクベスとあるので、シェイクスピアをちゃんと知っている方がいいのだろう。私としてはちらほら出てくる広東語のルビに校正を入れたい気分だった。

だいぶファンタジーな仕立てで、そんなあ、という運びなのでありますが、私はこの作家のものをまた読みたいと思っておりますよ。

そして本編と関係ない話ですが、確かシェイクスビアがうちにはあるはず、と思って探したのです。その河出書房世界文学全集1、1967,1,4と買った日付を記してあるそれには、挿絵代わりに例えばヴィヴィアン・リーがマクベス夫人を演じている写真(シェイクスピア記念劇場、1955)なんてすごいものがいくつもあるのでした。

 

コメント (2)

atcon2024年6月2日(日曜日) at 2:56 PM

「未必のマクベス」、私も数年前に読みました。
予備知識なく読んで意外と面白かった、という感想を残しています。
大企業のビジネスマンは、こんなことまでするのか?と思いつつも、知性的な雰囲気が良かったような覚えがあります。

aar2024年6月2日(日曜日) at 11:49 PM

そうでしたか。酒へのこだわりとか、別に軽口たたいてるわけじゃないけど読み手になにがしか教養を要求しているような感じとか、昔の探偵物感があり、あ、これ好みかも、と読み初めに思いました。

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