広東語の世界 香港、華南が育んだグローバル中国語
著者 飯田真紀
中公新書
私は、1990年代後半、香港映画や香港ポップスにはまって、広東語cantoneseを学びたいと思ったけれどどこで教えてくれるものかわからず、テレビやラジオでやっている中国語(北京語mandalin)講座を聞き始めたのだった。英国領だった香港が97年に中国に返還される、という時期、ウォン・カーウァイ監督作品を始めとする映画もよく目にし、その映画で主演し、主題歌を歌ったフェイ・ウォンなどのCDもレコードショップでコーナーが作られていた時期があったのだ。
その頃、まだまだ中国は発展途上、映画の中で北京語を話す人が、田舎者扱いされるシーンも目にした。隔世の感である。
で、この本です。そうか、一般日本人にとって、あまり広東語って知られないものなのね。かつて映画で“モウマンタイ”という言葉が使われて、それだけは有名になったけれど。ナインティナインの岡村が主役の。
北京語のカケラと広東語の粒ぐらいを知っている私だが、北京人にとっては広東語は一方言に過ぎないだろうと思う。一方、広東語圏の人にとって、例えば我々日本人が漢文で習う漢詩は、広東語で読む方が正しい解釈ができる、など、誇りをもっている気がする。こちらが本家だ、みたいな思いがあるのでは。
そうか、19世紀以降、海外に移住する中華の民というのは、広東省の人がほとんどだったのか。だからアメリカの中華街では広東語が主流だったという。1965年にメリカの移民法が変わったことと、1990年代以降、大陸の中国人がどっと増えたことで変化が起こったようだ。が、やはりあちこちの唐人街ではまだまだ広東語が聞こえるらしい。
中国語の方言というのは、日本で沖縄のおばあが何を言ってるかわからない、青森弁が聞き取れない、なんてレベルではない。まあ広い国だからね。漢字圏だから字を書けば理解はできる、でも口語では???となる。大概の中国人は、にっぽん というような小さい“つ”が入る言葉を発音するのが苦手だが、広東語圏の人は普通に発音できる。上海語・台湾語ぐらいは耳に入る機会が割とあるが、聞き取れない。先日、断捨離番組の中で、中国出身の奥さん(日本語ペラペラ)が出身地の人と会話していたのは、どこの方言か見当もつかなかった。少数民族となるとまたまたまるで別。学校では普通語(プートンホア)と呼ばれる、北京語由来のかつての役人が使っていた官語を基にした言葉で教えられる、が、香港は97年より前は英語交じりの広東語、中学から先は英語中学か中国語(広東語)中学に分かれる、というシステムだった。だからまだまだ、普通語を話す率は高くないらしい。
個人的には、広東語で歌うバラードはとても美しく聞こえる気がする。
この本、横書きなので、めくり方も逆方向。中国も韓国も横書きになり、縦書きなのは日本と台湾だけかな。広東語に興味があるけどよく知らない、というレベルの人に向けて書かれている。
香港映画の魅力を最初に知ったのは、たぶん「男たちの挽歌」だったと思う。
ブルース・リー的なカンフーアクションとはまた違ったカッコよさに痺れましたよ。
広東語はちょっと荒いイメージ、関西における大阪弁みたいな感じで、北京語は京都弁みたいと感じていたけど、これ合ってます?
それにしても、縦書きが日本と台湾だけだなんて知りませんでした。
個人的にはずっと残って欲しい文化です。
モンゴル語も縦書きだそうです。中華圏でも朝鮮半島でも毛筆は縦書きしますが。
広東語、北京語どちらも庶民が普通に会話しているのは美しくは聞こえません。広東語には日本で言うと小さいツで終わる“タッ・パッ・カッ”みたいな発音が多いので、荒い感じになるけど。アナウンサーのしゃべる北京語はきれいだと思うし、漢詩を広東語で聞くと美しい。
『月半小夜曲』という、原曲は河合奈保子の“ハーフムーンセレナーデ”を、広東語でカバーしているのがあります。李克勤という男性歌手、あるいは容祖児という女性の声でも、探してみてください。