すべての月、すべての年

著者 ルシア・ベルリン

講談社文庫

書店のお薦めコーナーに並んでいて、手に取った。予備知識無し。

短編集。読み進むと連作のようになっていることに気づく。その一作一作、ずしりと響く。作家の自伝的なものであるようだ。父親が鉱山技師で、北米の鉱山町を転々とし、成長期の大半をチリで過ごした、のだそうだ。3回の結婚と離婚、4人の息子を育てながら教師、掃除婦、電話交換手、看護助手などをして働く。アルコール依存症だった。書くことの才能が有るなら、ネタは満載の人生。

一作目が、メキシコのもとは工場だったらしいところでたくさんの女たちと堕胎手術を・・・受けないで帰る。堕胎を勧めた女友達に、あきれた、と言われながらもなんだか空気が澄んでいるような話、『虎に嚙まれて』。最後の作品は、実際晩年に書かれたものらしい。70歳で酸素吸入していて関節炎を患っている女性が、トイレの床のタイル貼り工を探して電話し、答えてくれた男の声が、ハスキーでノンシャランで、笑いとセックスが見え隠れする声、だった。来たのは大男でとても太ってとても年取って臭くて、一発で気に入った。418頁から424頁までの短い話。

本作より先に、2019年に『掃除婦のための手引書』が出版されていて、それは全作品76編の中から43編を選んで、2015年に出版された『A Manual For Cleaning Woman』の中から24編を訳したものだった。本作でそのすべてが日本語訳された、ということだ。

かつて知る人ぞ知る、という作家だった人が、広く知られた、ということになった。私はまーったく知らなかったが、『掃除婦のための手引書』は本屋大賞翻訳部門で2020年の第二位だったそうだ。寝る前に本を読む習慣の私は、一晩一遍読んだら本を置き、たっぷり時間がかかることになった。かなり悲惨な状況も描かれるが、その孤独に、自己憐憫が無い。

 

 

コメント (2)

atcon2025年10月3日(金曜日) at 10:17 PM

「寝る前に本を読む習慣」を取り戻したい!つくづくそう思っているんだけど。
眠れないからといって、ついニュースアプリを開いてしまう悪習を、なんとかやめられないものか、、、

あある2025年10月4日(土曜日) at 11:40 PM

2頁で終わる夜もあるし、しばしば友人が渡してくるミステリーを、今は読み進むことが出来なくて結末を読んでしまってそこからちょっとずつ引き返すように読んでいる。そして、読み易いものに浮気するせいであの『百年の孤独』はいつ読み終わるのだろう。

コメントをどうぞ

コメント(*必須)

CAPTCHA