華竜の宮

華龍の宮著者 上田早夕里

ハヤカワ文庫

地球の内部構造の話から始まるので、しばらくはとっつきにくい。が、つまり地球内部でホットプルームと呼ばれるものが暴れだし、海底隆起、地球上の大地の大部分が海に沈む、という、日本沈没どころではない状況に陥った25世紀の世界から物語が動き出す。海の広さが白亜紀(クリティシャス)のころに戻ることから“リ・クリティシャス”とこの現象を呼ぶこととなる。

その世界では、生き延びるために陸上民と海上民に人類が分かれ、海上民は身体を遺伝子操作によって改造し、魚舟と呼ばれる生物船と共存して生活している。政治を牛耳るのは、わずかに残された土地と海上都市に暮らす陸上民である。南北アメリカ・ロシアとヨーロッパの一部・アフリカ・オーストラリアの一部が手を結んだネジェスのほか、汎ユーラシア連合、汎アジア連合など、様々な連合が、国家の代わりに機能して、権利・勢力を争っている。

日本の外交官青澄誠司は、政府と海上民の間に立って共存のための交渉を重ねている。海上民のオサはツキソメという女性である。

しかし、地球にさらなる絶望的な状況の予兆が。

そこに至る経過にあって人類は生き残ろうとしてそりゃあえげつない方法を生み出しているのですよ。生物兵器。殺りくのための人工知性体。当然、長い間にそれらは変性していくわけで。そしてそれはまず、悪い変性を遂げ。

単行本は2010年に発行されている。東北の大震災より前。ただ、作者は阪神の大震災を経験しているそうだ。

キリバスでは、実際にこのところの海面上昇により土地が侵食され、その対応として日本の技術による海上都市を売りこんでいると、最近のニュースで目にした。

最終的に地球消滅?人類消滅?という話が、荒唐無稽なものに思えない、まことにリアルな状況に思われるのだ。人の手によって改造される生物、人工肉・魚・野菜類、その変異によって攻撃される人類。はたまた、島ひとつがどの国に所属するかという問題をめぐってすら国家の関係が危うくなるのであり、国土の大半が沈む時、人はどんな方法を?など。

アシスタントと呼ばれる、それぞれの個人についている人工知性体、青澄のアシスタント・マキが魅力的だ。おもに 僕 と称するマキの視点で物語が進む。

日本のSFから遠ざかっている私は全然知らなかった作家、作品。atconさんに教えてもらいました。日本SF大賞受賞作。

 

 

コメント (3)

atcon2013年9月26日(木曜日) at 10:47 PM

環境に適応するために、人間の遺伝子を改変するって、いつか現実のものになるだろうと思える作品でした。
殺りく兵器の人工知生体にゾッとしたけど、袋に閉じこもって1000年も植物のように生きる「袋人」の姿も怖かった。
もはや人間とは呼べない「ルーシィ」にも、私だったらなりたくないな。

aar2013年9月27日(金曜日) at 8:21 AM

あとね、地球内部のその異変が起こったら、埋められた放射性廃棄物は?放射能に適応する改造か。

atcon2013年9月27日(金曜日) at 9:59 PM

そのことは、想像すればするほど怖くなります。

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