丕緒の鳥

256-1

著者 小野不由美
新潮文庫

もう12年も経っていたのか。『十二国記』シリーズはまだ終わっていないはず、いつ次が出るかと、待って干支が廻ったとは。NHKのアニメですら2002年のことだという。

シリーズを読んでいない人には少しわかりにくいところがあるだろう。古代中国をモデルとしたような、ある、時代、空間、天上に老いることのない神仙が住まい、海を隔てて地上に人間が住むけれど、互いに交流することもできる、そんな世界を前提としている。生命は里木に卵果として実る。天意を得て、麒麟が王を選ぶ。例え賢王であれ、長い長い年月のうちには倦む。世は乱れ、妖魔が跋扈する。国が傾くことになる。

短編集『丕緒の鳥ひしょのとり』の、表題作は、慶の国に景王陽子が立つころの話。
新王が登極、その即位の礼で行われる大射というものがある。陶製の鵲を射る儀式。初めはただ鳥の絵を描いた陶板だったものが、時を経て次第の趣向を凝らし、美しく、音を伴い、工夫を重ねられていく。その、陶工というような役職にある者の名が、丕緒である。
数代の王の即位にあたり、それぞれに工夫を重ね、逸話の残る名人である。が、想いを込め、王に届けと作ったものが理解されない、或いは意図を理解されても、王の心が逃げる、ということが続き、熱を失っている。

が、希望を託し、その鳥は放たれ・・・。

美しい。何がどう美しいか、知りたい人は読んでください。この、丕緒が生み出した歴代のカササギを、その飛ぶ様子を、誰か映像にしてくれぬものか。この稀代のアーティストの作品を!ーって、褒めるべきは著者のイマジネーションの豊かさなのだが。

良いファンタジーというものは、いま私たちが生きているこの現実世界と、この話はリンクしている、これは現実の、政治の、話だ、と思わせる。
そんな物語ばかり4編、子どもの頃のように、まずストーリーをひたすら追い、読み終わってもう一度、今度は細部を気にかけながらじっくり読んだ。

私がかつて読んだのは講談社X文庫ホワイトハートというものだった。ジュニア向けシリーズ。それでも、私が読むきっかけは北上次郎の『図南の翼』書評だった。すでに大人に高評価だったのだ。おそらくジュニア向けではもったいない、ということだろう、今は普通の文庫で出ている。X文庫は姪に渡してしまったから、手元に無い。また揃えたい・・・。

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