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獣の奏者

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作者 上橋菜穂子
出版社 講談社

 闘蛇(とうだ)と呼ばれる堅いうろこと角を持つ大きな水棲の生き物がいる。王獣という(本来)白銀に輝く翼を持つ闘蛇よりも大きい生き物がいる。それを権力の行使のための道具としようとする者たちがいる。
 真王(ヨジェ)と呼ばれるやさしい老女王が治める国リョザ神王国、闘蛇を操る大公(アルハン)、過去に犯した過ちを二度と繰り返さないために、自分たちが持つある種の能力を封印して生きる民族。

 闘蛇衆と呼ばれる闘蛇の医師だった母を失い(母は娘を助けるために禁を犯す)、蜂飼いの男に助けられるエリン。

 はるか古い時代のファンタジーという形であるが、現代の政治、権力、争いの構造そのものでもある。圧倒的な獣の力を持って世を治めようとする考えにふと原子爆弾を連想した部分もあった。

 エリンと蜂飼いのおじさんジョウンとの交流、エリンと王獣リランとの間に流れるもの。生き物に対する観察力が優れているエリンは、また人間の生きるための方便であるがごまかしでもあるものを見る力を持つ。

 作者上橋菜穂子さんは、文化人類学専攻でアボリジニの研究者だそうだ。蜂の生態の部分だけでも楽しめるのは、そんな背景があるからか。児童文学に属する作品だろうが、ファンタジー嫌いの人にこそ読んで欲しいとあるように、リアリティのある物語ですよ。
 「闘蛇編」「王獣編」2巻。厚いし2巻だけど読みやすいから平気。

BOOK
comment(0) 2007.09.03 20:39

楽日

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台湾映画 2003年作品 DVD鑑賞
監督 蔡明亮
出演 苗天 チェン・シャンチー、李康生 三田村恭伸

 楽しい日、ではありません、らくび と読んでください。古びた映画館、上映されているのは1960年代武侠映画の大ヒット作として知られるキン・フー監督の『血闘竜門の宿』。観客はまばら。その映画館は、この日を最後に休館することになっています。

 何も起らない。起りそうにはなるが、何も起らない、淡々と過ぎる映画館終わりの日。足の不自由な従業員の女性が、大きな桃饅頭を炊飯器で暖めていたり。
 その劇中劇として上映されている映画に、出演していた往年のスター(実際の話)シー・チュン、そしてミャオ・ティエン(苗天)がばったり出会って語るシーンがある。“近頃はみんな映画を見なくなりましたね・・・”。

 で、メインで出てくる男、「我是日本人(僕は日本人だ)」としゃべるだけの男は、何?実はゲイだったの?ただその映画館に紛れ込んだだけ?最終上映だと知っていてその映画館を味わっているの?わからないんだよお・・・。

 いつも蔡明亮の映画で主演している李康生は、ここでは映写技師としてただ普通に出てくるだけ。

 原題『不散』これと前に紹介した李康生監督の映画「迷子」の原題『不見』を合わせると“不見不散”中国語で会えるまで待ってる、必ず会おう、と言った意味。初めは、『不見』のラストでおじいちゃんと(迷子の)子供が出てくる、そして『不散』の日本人が映画館に入る、という構成の一本の作品になるはずだったらしい。

 うーん・・・変な映画です・・・かなりマニアックな方にしかお勧めは出来ませんが、『西瓜』『不見』『不散』を、もしもまとめてみるエネルギーがあったら、あん?この俳優さんがこんなとこに!とか発見があるでしょう。面白くない人には全然面白くもなんとも無いでしょう、が。

MOVIE
comment(0) 2007.08.29 21:52

吉原手引草

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作者 松井今朝子
出版社 幻冬舎

 第137回直木賞受賞作品。そういうものをすぐに読むことはほとんど無いのでありますが、吉原という舞台に惹かれて。
 吉原の位の高い花魁にはそうそう簡単にはお目にかかれない、いろいろと手順を踏まなければならない、程度の知識しかない者には、その世界のしきたり、言葉、など大変興味深い。芸者と比べて、一般には芸を売る芸者の方が性を商売とする女郎より格上のように言われる…がしかし、その成り立ちにおいて、吉原では幇間を男芸者と呼び、その後女芸者が生まれた?とすると必ずしも…。

 ストーリーは、花魁葛城が突然失踪した、ということについて調べている男が、吉原のいろいろな人にそれについて聞きまわる、それぞれの人の語りだけで成り立っている。さまざまな視点で語られる中から浮かび上がってくる葛城のひととなり、失踪の理由。
 時々ありますね、こういう手法で語られる物語。例えばなーんだっけ、と思っていた所、有吉佐和子の『悪女について』と比べている人がいました。
 
 ミステリーとしての仕掛けが、所々にあるのに気付かずにぼんやり読んでしまった私でした。吉原に(江戸風俗に)関心をお持ちの方にはとっても面白い作品ですよ。

BOOK
comment(0) 2007.08.23 22:27

迷子

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台湾映画
監督 李康生
出演 ルー・イーチン 苗天

 李康生は、蔡明亮監督映画の主演俳優、つまりかつてのジャン・コクトー監督と俳優ジャン・マレーの関係。シャオカン(小康)と呼ばれた少年だった李康生の。初監督作品。原題『不見』。
 公園のトイレから出てきたら孫がいなくなっていた、必死で孫を探し回る祖母。その姿をひたすら長回しのカメラで追う。迷子のアナウンス、交番(?)のおまわりさん…まではともかく、通りすがりのバイクの後ろに飛び乗って無理やり台北の町を走り探し回る痩せて小柄な祖母。
 方や、インターネットカフェで一日中ゲームをしている少年がいる。祖父の不在を気にも掛けずに。

 夜になって、孫探しに疲れ果てて途方にくれる祖母、そして祖父の不在を気にし始めてこちらもくたびれた少年。
 そして、薄いフェンスでぐるりを仕切られた公園の外側に人影が・・・。

 昼間の公園で日本の古い歌謡曲が流れていた。おまわりさんは話もそこそこに飛び出す祖母に「オバサン」と呼びかけた(と思う、そう聞こえた)。

 康生くん主演の、蔡明亮監督作品ではない映画の中で、1960年代終わりぐらいの設定だったと思うが、父親に「とうさん」と呼びかけていたものがあった。『多桑』と書いて父さんと読む台湾映画もある。オバサンも台湾では日本植民地時代の名残で外来語として根付いているのだろうか。

 蔡明亮監督の映画はどなた様にもお勧めできない物が多い・・・ずっと追いかけて見ていない人にはおよそ気持悪いだけかもしれないものもある(最近の『西瓜』とか数年前の『河』とか)。その奇妙な作品たちの中でいつもむしろ無表情な、孤独な、諦念のような、姿を見せている李康生初監督作品は、ドキュメンタリータッチの、やはり独特の視線で描かれる。

 最新の中華芸能ニュースで、ベネチア映画祭のコンペに李康生監督の)「幇幇我愛神」ノミネートとのこと。シャオカン偉い。そして、蔡監督の映画にいつも出ていた苗天さんはかつてのカンフースターさんだそうだ。毎度淡々と妙な役を演じていた人だったが、亡くなられた。

MOVIE
comment(3) 2007.07.27 21:56

武侠映画の快楽

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著者 岡崎由美・浦川留
出版社 三修社

 この夏予算のかかることが二つほどあった、だからさあもう本は買わない、絶対買わない、と心に決めた…とたんにめぐり合うこの一冊!
 岡崎由美さんはNHKラジオ中国語会話で金庸の武侠小説を教材にしていらっしゃったので知った名前、浦川さんについてはほぼ毎日そのブログを訪問して中華な映画ニュースを教えてもらっている私です。そして、竹林の上で飛びながら戦う荒唐無稽な武侠映画大好きなワタクシであります、買わずにいられなかったのでありました。
 
 そもそも限りなく不死身に近い男たち女たちが空中で剣を振るう、そんな馬鹿な話になど興味ない!という方もおありでしょう。 で、なぜ彼らは空中を飛ぶ?それは、かの麻原彰晃という人が結跏趺坐を組んだまま浮かんで空中移動できると主張していたのとよく似た理屈があるのです。気をコントロールするというか、武侠の言葉で言うと外功・内功(気功の種類)と呼ばれるものの内功の技を取得し、その内功が充実すると掌からパワーが出て敵をやっつけたり浮いたり飛んだり垂直な壁を駆け上がったりできる、ことになっているのですよ。つまりそれが中華圏の時代劇のお約束。
 で、現代武侠映画は、かなり我が日本のマンガ、アニメの影響を受けているということです。たとえばドラゴンボールとか、そんな物から。

 で、ハリウッドにおいてはその中華な武侠片のアクション監督を招いて『マトリックス』『キルビル』といった作品が作られているこの頃なんですね。欧米の映画ファンに武侠を知らしめ、武侠の北京語読みWUXIAを英語として定着させる元となったのが「グリーンデスティニー」その後の「英雄ヒーロー」という流れであるとか、その辺の有名どころの作品からその他さまざまな作品の紹介、解説があります。数少ないこととは思いますが、武侠映画のファンの皆様、読んでみませんか?
 私、岡崎先生から大学で講義を受けている学生さんがうらやましゅうございます…が、私のほうが早く生まれちゃってるんでありました。
 

BOOK
comment(0) 2007.07.23 20:38

傷だらけの男たち

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http://drywhisky.com/index.html
監督 アンドリュー・ラウ劉偉強
出演 トニー・レオン梁朝偉 金城武

 原題「傷城」英題「CONFESSION of PAIN(苦しみの告白)」。
 二人警官の先輩と後輩、クリスマスの夜。そして事件が起り、酒びたりの探偵となったポン(金城武)、キャリアを積み美しい金持ちの娘と結婚して幸せに暮らすラウ・チンヘイ(梁朝偉)。…この妻と仲良くチュンチュンキスしてるシーン、私はどちらかといえば金城ファンなのに、kuso!と心に呟きが…

 妻の父親が殺される。
 
 話が少し進んだところで誰がその殺人を犯したかが映像の中で明かされる。凝った映像でカラーになりセピアになりモノクロになり、今現在起っていることとそこで以前起ったことが重なって映し出される。

 途中までは、金城武の映画であり、この演技で金像奨(香港のアカデミー賞)にノミネートもされなかったなんて、と思う、のであります。…うまくなりましたよ、本当に。アル中の役のため実際に酒を飲みながら演じていたということです…

 中華ニュースではトニーがこの役の方を希望したということだった。インファナルアフェアと同じスタッフで同じ警官役で、今度は前と違う役を、ということだったように伝えられた。うーん、トニーはさすが。

 映画終了後、先を歩いていた若い女性が連れの男に「話がわかった?」と聞いていた。その後「救いが無い」という声も聞こえた。『救いあるやんけ』と後ろで小さく声にしてしまった私であります。その最後に小さな救いとなったシーン、武とスー・チーの組み合わせ、意外に似合う。この二人でコメディータッチのアナザーストーリーを!酔いどれ探偵としっかり者の恋人、コメディーだけど実はこの映画通りの背景を背負っている、なんてね。妄想したけどそういえば「東京攻略」とかトニーさんが先にモテモテ私立探偵なんかやっちゃってるのだった。

 インファナルアフェアと同じくディカプリオでハリウッドリメイクが決まっている。はてレオ様はどちらの役を?そしてこれもとーってもわっかりやすいお話になることでありましょう。わかりにくかったおねえさん、そちらを見てくれるかな。

 

MOVIE
comment(0) 2007.07.12 21:44

卵の緒

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著者 瀬尾まいこ
出版社 新潮社

 瀬尾まいことい言う名前は「幸福な食卓」というタイトルとセットで記憶にインプットされていた。けれども作品を読むのはこれが初めて。

 僕は捨て子だ。子供はみんなそういうことを言いたがるものらしいけど、僕の場合は本当にそうだから深刻なのだ。という書き出し。  
 それが子供のありがちな妄想なのか事実なのかあいまいなまま母と子の生活が進行し(母にへその緒を見せてくれと言うと卵で産んだのだと言う)、母の好きな人の話、学校に出てこなくなった同級生の話、おいしい食事、などあって、母がその好きな人と結婚、姓が変わり新しい姓に慣れたころ、母さんのお腹が少し大きくなる、あれ、今度は卵で産まないの?と聞くと同じことを二度したってしょうがないでしょ、と言って、出来損ないの昼ドラみたいな話なんだけど、と、どうして主人公育生と母さんが家族になったかについての話を始める。

 少しおかしな母さんのいる物語詩のような繊細なお話。
 
 もうひとつ収録されている「7's blood」は半分血がつながっている年の離れた姉弟のお話。これも家族とは、家族のつながりとは?というテーマが流れて、しーんと痛い。

 もうとっくに作家デビューしていた2005年に正式に教員採用試験に受かって今も中学校の国語の先生だそうです、瀬尾まいこさん。

 とても好きな作品でした。これがデビュー作だそうです。これからこの人の物を読み進んでいくだろうと思います。今年映画化された「幸福な食卓」のビデオも見ます。

BOOK
comment(0) 2007.07.05 00:20

バルバラ異界

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著者 萩尾望都
出版社 小学館
http://flowers.shogakukan.co.jp/barubara.html

 第27回日本SF大賞受賞作品。
 花の24年組と呼ばれる少女漫画家がいることを知っているのは若くないマンガ読みたちでしょう。
 で、その、今や大御所たちの今に至る活躍ぶりに感嘆してしまいます。さてこの「バルバラ異界」ですが、第一巻を読んだときにはいやあすごい!なんと面白い!と思ったのですが読み進む内に混乱をきたした・・・のーみそがなかなかついていかないのよー・・・!
 7年間眠り続ける少女十条青羽がいます。少女は両親の心臓を食べたらしい、のです。人の夢に入り込むことが出来る男渡会時夫(作家本人が、モデルは金城武といっています、確かに5・6年前の彼のヘアスタイル)が、その夢に入っていきます。夢の中の彼女はバルバラと呼ばれるところに住んでいます。
 時夫の息子キリヤの夢には、火星が出てきたり、或いは青羽が出てきたりするのです。そして彼はパソコン上にバルバラと名づけた自分の世界を持っています。
 
 老化の早い遺伝子を持った人類がいるのです。若返りを試みます。そこに心臓の蛋白質が係わってきます【このへんちょっと彼女の代表作“ポーの一族”を思わせる】。

 クローン、遺伝子操作、カニバリズム、火星に海がありそこの生命体は皆すべて同じ記憶を持って存在していた・・・などなどなどなど、よくもこんなにたくさんの要素をひとつの作品の中に構想できるものです。萩尾望都サマより少し若いワタクシですが脳トレが必要であることを痛感いたします。
 

BOOK
comment(0) 2007.06.21 21:57

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