バジュランギおじさんと、小さな迷子

監督 カビール・カーン
出演 サルマーン・カーン ハルシャーリー・マルホートラ

インドにひたすら人のいい男がおりました。学校の成績はあまり良くなくて、何年もかかって卒業、そして仕事を求めて都会に出ていきました。
ある日、迷子になったパキスタン人の小さな女の子と知り合います。その子はしゃべることができません

何ともかわいい女の子、しぐさがとってもチャーミング。彼女は母親と共に、そこにお参りすると願いが叶うというお寺に行くために、列車に乗っていたのだが、停車したときに子ヤギを見かけて降りてしまい、列車は行ってしまったのだ。

インド・パキスタン問題について、私はほぼ無知であるなあと、思い知る。第二次世界大戦後、イギリスから独立したインドだったが、ヒンドゥー教徒が多数を占めるインドと、イスラム教徒のパキスタンに分裂することになった、と言う経緯、そしてその後もなにかと争いは絶えることが無い。
印パ戦争、パキスタン分裂、バングラデシュ独立、という経緯だけはわかっておこう。

様々ありまして、悪い人もおりまして、男はビザやパスポート無しで、なんとか女の子をパキスタンの親元に送り届けることを決意します。
自分の宗教に忠実であろうとする彼は、そんな中でも嘘をつかず、ズルをしないで突破しようとします。
とんでもないことです。

インド映画らしく、突然の踊りや音楽もたっぷり、どうしてあんなに良く動く肉体なのだろうね、決して西洋的にスポーツジムで鍛えた、と言う体型では無いのに。
宗教の対立の深さ、でも個人レベルではこだわりなくお互いに違う神様に対する挨拶を交わすシーンもあり。
インド、パキスタンと言うと暑い場所だと思っているととんでもないよ、山は雪だよ、というロードムーヴィーでもある、心地よく泣けるお話。

パッドマン 5億人の女性を救った男

http://www.padman.jp/site/
監督 R.バールキ
出演 アクシャイ・クマール ラーディカー・アープテー ソーナム・カプール

21世紀に入っても、インドの庶民女性は、生理時に布を洗っては使っていたらしい。だいぶ使い古していたらしい。
と、いうことに気づいた夫がいた。
これは衛生上問題である、と、妻のため薬局に行ってナプキンを買ってくるのだが、21世紀初めには値段が高かったようだ。
妻には返して来るように言われる。で、何とか自分で作ってやろうと工夫を重ねる。

日本でも、まだまだ女性の月経を忌む風習は残っている。男性が口を出すことは難しいだろう。イノッチぐらいだね、ごく自然にそれを話題にできるのは。
それが、そこはインドの、田舎である。

夫は変態のように扱われる。努力すればするだけ石持て追われる状態となる。家族も離れ離れ。

でも、あきらめない。信念を貫く夫。

実話をもとにしているお話。とうとう簡易製造機を作って安く提供できるようにして、世界で有名になった男が実在する。しかも女性の収入の機会も作ったという。で、バットマンではなくパッドマン。
映画館を出た後、スッパルヒーローすっぱるひーろー(スーパーヒーロー)という、映画の最後に流れた歌が口からこぼれるこぼれる。

あまねき旋律

http://amaneki-shirabe.com/
監督 アヌシュカ・ミーナークシ イーシュワル・シュリクマール

インド東北部ナガランド州、ミャンマーとの国境付近、棚田が広がる地域。
これインド映画だよね、と確かめたくなる東アジア顔の人々、東アジアの農業、日本の昔の田舎にもたいそう近いものがある景色。

農作業するみんなが、歌いながら、それもきれいなハーモニーになっている歌を、響かせながら動いている。どこの国にも労働歌はあるだろう、それによって息を合わせて進めていける歌は、自然発生するものなのだろう。でもこんなハーモニーが自然につくことはとても珍しいのではないか。離れた場所にいて、私はここにいるよ、と知らせるだけの歌もあるという。言葉ではなく声として。そしてそれに返答する声。
田植えは、その列がそろってはいないが、大体昔の日本の手植えと同じようなもの。それが稲刈り後の作業となると、こりゃ見たことが無い。みんなで歌いながらダンスするように跳び跳ねながら、稲藁を踏みつけ蹴飛ばす。ゴミ飛ばしかな、大きなうちわであおぎながら同じようなことを繰り返す。出来上がった籾を、下に敷いていた布で包んで背中に担ぎ、またみんなで歌いながら長い坂道を運ぶ。
この人たちは痩せていても絶対に骨粗しょう症にはならないだろう。

もちろん、現代のことだから、大学に進学する若者もいる。科学者を目指していたりもする。スマホもある。

が、なんだか途中経過の道具の発達とか、が、無かったようなので、皆さんの人力でいろいろなことが運び、皆さんは力持ちで身体の使い方が上手。

ハーモニーが気持ち良くて眠くなりかけたりもするが、良きドキュメンタリー作品。あまねき旋律(しらべ と振り仮名)と言う日本語タイトルはどうなの?私には違和感があるぞ。

藍色夏恋

監督 易智言イー・ツーイェン
出演 陳 柏霖チェン・ポーリン 桂綸鎂グイ・ルンメイ

女子高校生のモンは、親友ユエチェンがずっと思いを寄せているシーハオにそのことを伝える。学校の夜のプールで一人で泳いでいる彼に。
ラブレターを渡してほしいと懇願され、渡すのだが、差出人の名前がモンになっていた。
シーハオは、ユエチェンなんていないんだろう、と言う。そしてモンに好意を抱き、アピールする。

この時点で観客の私はもどかしい。自分で言えや!

2001年の台湾のこの高校は、男子と女子が別のクラスで、校内で男女が手をつないだら校則違反であるらしい。校外ではよいのか?

モンも、なんだか変な子だ。シーハオに、自分とキスしたいか?と聞く。たまたまばったり会った体育の先生にも、同じことを聞く。

彼女の行動不審ぶりには理由があった。

台湾の青春映画によくある、と言えばまあそうなのだが、3人の誰かが誰かを好き、その→がずっと一方通行、双方向にならない。

昔この映画をレンタルビデオで見ているはずだし、私の手元にDVDもある。のだが。
今見ると、なんとみずみずしい作品、なんと良き男の子であることよ、シーハオくん!こんな男の子はなかなかいないよ!と、モンに言いたい。
彼女が真正の同性愛者であるのか、この時期特有の、同性に向かう恋愛的感情なのかは、どうなんだろうね。

私はルンメイちゃん(今やチャンではないが)のファンであって、この作品以来、彼女の出る作品にハズレは無いと思っている。が、いやいや、陳 柏霖くんこんなに素敵だったんだ。
なんで気づかなかったかなあ。デビュー当時、第二の金城武、と言う扱いだったからかなあ。その後何人かいるけどね、第二の、は。
日本でもいくつかの映画やCMに出ている。

ユエチェンが、ボールペンのインクが無くなるまで好きな人の名前を書くと、思いが叶う、と、書き続けている。
結局、ゴメン、と振られてからも書いているが、途中でその名前が木村拓哉になる。台湾で日本のドラマがブームだったころだ。
フランス・台湾合作映画。

妻の愛娘の時

監督 張艾嘉(シルビア・チャン)
出演 張艾嘉 田壮壮

老いた母が死んだ。先に亡くなった父は、田舎に前の妻を置いて出稼ぎに来て、そのまま帰ること無く母と結婚したのだ。
娘は父と同じ墓に弔ってやりたいと思う。田舎の墓を近くに移そうと画策する。父の故郷を訪れるが、前の妻や村人によって強硬に抵抗される。

あたりまえだろー!と思うのだよ。そんな勝手なことがあるか。激動の時代の中国だから、田舎の戸籍制度や届け出がちゃんとしたものだったか、あいまいなものだったから離婚という手続き無しに次の結婚に行ってしまったのではないか?前の妻は、半年かそこらの結婚生活のあと、なにがしかの仕送りを受け取りながら一人で家を守ってきたのだ。

そこは中国人の自己主張の強さと言うものなのか、シルビア・チャン演じるこの女性の強さなのか、母親が父と同じ墓に入りたいと遺言を残したと主張して止まない。そしてその娘、亡くなった人の孫娘は、テレビ局勤務であり、お墓の問題をテーマにしている番組でそのことを取り上げることとなる。そのやり方も強引だ。ずかずかと踏み込んでいく無神経な取材ぶり。

あっちの手続きこっちの役所となにかしら書類が不備などで振り回される。役所の男を演じているのが、王志文、かつては身勝手なぼんぼんとか優男の役でお見掛けするものだった人が、普通のおじさんで出ている。女性の夫役が、田壮壮さんだもんね、中国第5世代の監督。李雪健さんがどの人だったかとうとう良くわからなかったけれど、田壮壮監督作品『青い凧』に出ていた役者さん。字幕にあったから注意していたのだが。
第5世代の監督は、俳優の訓練も受けているのだろうか?陳凱歌、張芸謀も俳優として出演した作品があるが、田壮壮も地味な目立たない役だがとても良かった。

マスコミ勤務の孫娘のボーイフレンドはロックバンドをやっていて、演奏する曲、これなんだっけ?よく知ってる曲、と思ったら、香港のロックバンド“ビヨンド”の黄家駒の『海闊天空』なのだった。黄家駒は日本のバラエティ番組に出ていた時に事故死したのだ。転落死。こんないい曲を作っていた人が。

孫娘ばかりかそのボーイフレンドの歌手の男までも、田舎の“おじいちゃんの前妻”の家に入り込んで親しくなっているってなかなか理解を越える状況だ。前妻は子どもがいないまま一人で年を取っていったから、孫のような感覚だったのだろうか。前妻を演じた吴彦姝さんはこの役で最優秀女優賞を獲ったらしい。

終わりに近づくほどにしみじみしてくる佳作でありました。田壮壮お父さんが急に素敵に見えてきて。

ガンジスに還る

http://www.bitters.co.jp/ganges/
監督 シュバシシュ・ブティアニ
出演 アディル・ フセイン ラリット・ベヘル

ある日、父が自分の死期が近いことが分かったと言う。同じ夢を何度も見るのだと。だから、ガンジスのほとりのヒンドゥー教の聖地バラナシに行くと主張する。その決意は固く、息子が付き添って『解脱の家』に行く。そこには最長15日滞在できる、解脱つまり死を迎えるための宿である。
父はそこで周りの人々となじみ、穏やかに解脱に向かおうとしているが、息子は携帯で仕事の連絡をしなければならないし、顧客を失いたくない、帰りたい。

その宿は15日間が期限のはずだが、なぜか夫と共にそこに来たけれど、夫が先に往き、残されたまま何年もそこにいる女性とも知り合う。

うらやましい。死期が自分でわかる、ことがあるとしたら。医療の発達によって寝たきりでも長らえる、この時代に。

親子の、というか父とそのほかの家族の、さまざまな思いのすれ違いやずれ、あるいはずれながら通い合う時。
良い解脱への道でございました。

山中傳奇

http://sanchudenki.com/
監督 胡金銓
出演 石雋 徐楓 張 艾嘉

宋の時代、若い男が、戦いで亡くなった者たちの鎮魂のため、写経を頼まれる。そのための静かな環境を紹介され、はるか山深い城跡へ向かう。途中、幻のように現れてはふっと消える女性の姿。
たどり着いたところで出会った男、そして世話好きなんだか押しつけがましいんだかしつこいばあさん、と、美しい娘出現。

まだビデオテープの時代に、レンタルで観たのだが、まあほぼ何も覚えていない。それは2時間バージョンだったらしいが、この度の上映はデジタル修正完全前兆版だそうだ。

仏教の坊さん、道教の道士、キョンシー・ゾンビ乱れ打ち。それが、武器は鼓やシンバルのような打楽器、その音によって追い詰め苦しめ相戦う。まあドイツには『ブリキの太鼓』って小説、映画もある、声によってガラスが割れたりした、あの作品でも。そう珍しいわけでもないのだが。その音によって、あるいは水辺にたくさんの鳥が遊ぶ景色が現れたり。兼高かおる世界の旅か?
そこの男、学習するってことを知らんのかおい!ぐらいに何度となく引っかかる主人公。
そして、杜子春・竹青・邯鄲の夢、って世界だったか、と思いきや、まだ話は続いた。

うーむ、1979年のアジア世界が求めるもの、これでもか、と詰め込んだか。すんばらしくカルトの極致なお話でございました。

で、キン・フーと言う名前なんだけど、金の字は北京語読みだとジン、広東語だとカム、で、台湾語読みなのかな?

侠女

監督 胡金銓(キン・フー)
出演 徐楓 石雋 白鷹 田豊 喬宏 

2部構成の作品を一つにまとめているので、3時間の長丁場。
聊斎志異の中の作品から映画化。宦官の陰謀で殺された忠臣、その娘による復讐、それを助ける男たちが絡んで、前半はどうにも関係がすっきり理解できない(私個人の問題か)。妖しだか現実の女だかわからない描き方だし。
が、後半はその風景美しくアクションはキレ良く、後年の『グリーンデスティニー』や『ラヴァーズ』などの竹林の中での戦い、その元祖がここにある。
その映像で、1975年のカンヌ国際映画祭で高等技術委員会グランプリに輝いた。

うん、元祖なんだよ。香港や台湾や韓国の武侠映画はこの作品無くしては今のかたちにならなかっただろう、と思われるぐらいの。竹林や林の中での戦いもそうだし、足場の悪い岩がごろごろある場所で、と言うのも。

が、何といってもラストシーンです。見た顔だよな、と思っていた、喬宏(ロイ・チャオ)さんだ、高僧のそのお方が、最終兵器のような刺客との闘いで、だまし討ちにあったその時。前の席の観客がけたたましく笑ったのだよ。それで気づいたのだが、流れる血が・・・ああ言わない方がいいよね、これから見る人がいるかもしれないもんね、言わないけど言いたい!
そして、その刺客が連れていた二人の若い者は、息子と言う設定だったのだけど、一人がサモハンだった。太った方、と呼ばれていても今よりずっと体重が少ない若きサモハン。ユンピョウも出ていたという。痩せてる方はもしや?それとも別の役?

ティエ!と呼びかけるから、ああ二人は息子だったのか、と分かったけれど、字幕には父上!とかあったっけ?錯乱して息子を手にかけた、と観客にわかったのかな?

龍門 客棧  残酷ドラゴン 血斗竜門の宿

監督 胡金銓(キン・フー)
出演 上官霊鳳 石雋 白鷹 苗天

1967年台湾作品。明の時代が舞台である。忠臣の将軍に濡れぎぬを着せて処刑した悪い太監、流刑となった将軍の子どもたちまで亡き者にしようとする。それを阻止せんとする者たち。
それが中国辺境の龍門の宿でチャンチャンバラバラ。

香港で武侠映画を撮っていたキン・フーが、台湾に渡って撮った第一作。お名前だけはよーくうかがっておりました有名な、作品、にしては、何と申しますか、突っ込みどころ満載過ぎてああびっくり。
中華圏の武侠ものに不可欠な男装の女剣士、上官霊鳳さんは割合小柄なのね。むちむちだし。

初期の仮面ライダーとか死神博士とか、何なら月光仮面ぐらいまで遡ってもいいぞ、ぐらいの手作りワイヤーアクション感。いろんなところでうっかり笑ってしまうのでありました。ヘンな気功のところのヘンな音響!とか。

キャストの中に苗天と言う名前があり、それはあの蔡 明亮映画で李康生の父親役とかやっている人のことだよね?年取ってからの姿しか知らないけど、なんとか見つけたい、と思っていた。顔の輪郭から、この人かなあ、と思ったその悪役ナンバー2で当たり。へーえ、でありました。

次の日、前年に香港で撮った『大酔侠』を昔録画したものを観た。ちゃんとした武侠片だ。鄭佩佩さんは現代でも通用するチャーミングな女剣士、同じように京劇風の音響だけれど自然。

おそらく、台湾では全くそういう武侠アクションの素地が無いそういうものを撮るカメラマンもいない、ところから作り上げたんだな、きっと。少なくとも俳優たちはキン・フーが育てた新人だという話だ。

アジアでは流行ったそうですよ、これ。お馬鹿アクション、な、わけではない、けれど、その系統がお好きな方、いかがでしょうか。

僕の帰る場所


監督 藤元明緒
出演 カウン・ミャッ・トゥ ケイン・ミャッ・トゥ アイセ テッ・ミャッ・ナイン

政治情勢が不安だったミャンマーから日本へやってきて、子供たちは日本育ち。けれども、難民申請をしても許可が下りない。不法滞在ということになる。

ドキュメンタリーかと思うほど自然だが、演技経験のない、日本在住のミャンマー人の母子と、日本で暮らしていたことがあるミャンマー人が演じているそうだ。

不法滞在ということで父が入国管理局に拘束される。母は生活の不安で精神的に不安定になり、ミャンマーへ帰国したいと思う。家族の葛藤。
結局、母子3人はミャンマーへ向かう。

ミャンマーで暮らし始めても、兄はその生活に慣れることが難しい。汚い、と。リュックを背に家出する。日本に帰りたい。町をさまよっている途中で、なぜか日本語を話す少年二人と知り合って遊んで、結局家に戻る。
その家出シーンあたりで、佐々木昭一郎と言う、昔NHKの演出家だった人の仕事を思った。ドキュメンタリータッチで、深刻で、どこか詩的。

まあそれにしても、外国人労働者を歓迎するんだってねえ、政策で。日本のお役人は、四角定規に物事を判定して、実情を加味して温情判決、ってなかなかならないようだけど、どうなるもんだろう。